決死の奮闘と巫女の力
嘘だろ、おい。
死んだのか、イサナギが?
「イサナギ!!」
悲痛なミカンの声が木霊する。
「マズ一匹」
「おいっ!」
呆然としたのは一瞬。歪なボスの声と男の声に、視界はクリアになる。
「ミカン、どれくらい必要だ!?」
「え……?」
言葉の意味が分からなかったのか、ミカンは何を言ってるんだというように俺を見る。
だが考えるような時間は敵が与えてくれるわけはない。
ゴブリンシャーマンが、そしてグールが動き出す。
そして両者と対峙するように、俺はその身を前に曝け出した。
「タクト、まさか……無理よ!」
「自惚れるな。お前じゃ死ぬだけだ」
俺の意思を、二人は無駄だとばかりに否定しようとする。
けれどそんなものやってみなければ分からないではないか。
「早く!ミカン!」
だから俺はやってみせる。そう覚悟を決めていた。
そして、ようやくミカンが動き出す。
「一分……。一分だけちょうだい!」
その言葉と共に、ミカンは詠唱を開始する。
蘇生魔法だ。ミカンは蘇生を使えると、確かに言っていたのだから。
なぜか分からないが、イサナギの姿は死んだにも関わらずこの場に留まっている。ならば当然蘇生だって可能なはずなのだ。
ミカンの提示した一分が、長いか短いかは人それぞれだろう。
俺は断定して言おう。
長すぎる。それが本音だ。
でもやらなければならない。
イサナギが繋いでくれた命だ。
このまま散らすわけにいかないじゃないか。
「……全く……お前らしいというか……。威嚇射撃!」
呆れたように何かを呟きながら、男も確かにタクトの意思を汲んでくれたのだろう。
その銃弾はグールを捕らえ、俺から引き剥がしてくれたのだ。もちろんその分男は狙われるわけだが、それでも何とかなると判断したからのはずである。
「一分。その間、ボスの攻撃を受けなければいいだけだ」
ボスの魔法を受けた直後、ミカンのHPも男のHPも半分を下回っていた。にも関わらず、俺のHPが無傷でそばにいたイサナギが死んでいる。
どう考えたところで、イサナギは俺のダメージを肩代わりしたに違いないはずだ。
人に守られて死ぬところを見るのが、こんなにも辛いなんて思いもしなかった。
今ならアヤナさんの言いたかったことが十二分にも分かる。
だが今は――
親友の身として、こいつに応える場面なのだと。
「さて、やりますか」
自分の倍近くある巨体のボスは、目の前に来ると予想以上に迫力がある。
こんなのを相手に戦っていたんだから、ホントにタンクってスタイルは尊敬するよ。
「カカカカカ!誰デアロウト無駄ダ!」
小手調べとばかりにゴブリンシャーマンは杖を振り回して攻撃してくる。
もちろんこのボスが装備している杖だ。俺たちプレイヤーが装備するようなものに比べて遥かに大きくゴツゴツしている。これはむしろ巨木と見てもいいんじゃなかろうか。
ただ、その攻撃もやっぱり散々見てきたものの一つだ。軌道は読みにくいが、多分いける。
「カウンター!」
俺に当たろうとするところで、いなして反撃。
同時に背後でミカンの声が響く。
「……リザレクション!!」
イサナギの身体に降り注ぐ光。神々しいそれは、イサナギを優しく包み、そして立ち上がらせた。
「……馬鹿野郎!くたばんなよ!」
死んでいても状況は把握しているらしい。それでも俺を止めなかったイサナギは、やっぱり親友なんだなと思い知った。俺の心をちゃんとわかっている。
蘇生されたと言っても、未だイサナギのHPは1。すぐには動くこともできない。それに≪付与魔法≫を掛け直す必要もある。それらを踏まえて一分なのだ。
俺たちの状況が変わっても、ボスの動きは衰えることはない。
杖による攻撃は、ますます動きを複雑にしていき、すでに読み切れない部分にきていた。
シャーマンという魔法職であるにも関わらず、どんだけ振り回してんだよ。
ボスは杖を縦に、横に、ナナメにと薙ぎ払うように振るうが、俺はどうにか回避していく。本当に死に物狂いでもあった。いけそうなとこではカウンターを浴びせつつ、ボスのターゲットを惹きつける。
そして、牽制とばかりに杖を振り回していたボスは唐突に詠唱に入った。
緑のモヤ。≪風魔法≫だ。
マズイ。
魔法はそう簡単に避けれるものじゃない。
ミカンの魔法が掛かってるとはいえ、俺のHPで防げる気はしなかった。
チラッとイサナギを見れば、すでにHPは全快。≪付与魔法≫を掛け直しているとこだった。向こうも危険に気が付いている。イサナギは立ち上がって、挑発を掛けようとしたんだろう。
だが、それよりも前にボスの≪風魔法≫は発動していた。
「カカカカカ!」
ボスの周囲に浮かぶ幾つもの風の刃。それが全て俺へと放たれる。
軌道を見ろ。先読みして動けば、きっと!
一枚目の刃が左から回り込むように動くのが見えた。本能的にそれが当たらない位置へと身体が動く。
そこまでだった。
その後の刃は避けれることもなく、次々と俺を襲う。
「……くッ!」
「タクト!!」
ここまで、なのか。
そう思って倒れるように膝を付くが、思いの外まだ思考はクリアだった。
「お前、何だそれは……!」
男が驚くような声を上げていた。
何だ、って何だよ。俺が聞きたいくらいだ。
無傷だったわけではない。
俺のHPは半分ぐらいに減っていた。
けれどそれは今の魔法の威力が低かったわけではないだろう。
原因は間違いなく、これだ。
俺の身体を覆う透明な結界。
それに包まれているのは、とても気持ちが暖かく安定するようだった。
「ダメだよ……お兄ちゃんは絶対に死なせない。一緒にチャンを助けるって約束したんだから!」
その声は戦いの場の一番後方から聞こえてきた。
チャム。
小さな身体の彼女からは、今俺を包む結界の色を纏っていた。
なぜ、チャムが?隠れていたはずなのに。いや、そんなことは問題ではない。
この結界を彼女が施したというのか?
「ソノ力ハ……!巫女ノ力!?」
何かに興奮するようにボスが声を荒げていた。
巫女?こいつは何を言っているんだ?
けれどボスは真っ直ぐにチャムを見ていた。不穏な気配が漂う。
「カカカカカ!コレハイイ!巫女コソ贄ニ最適ダ!アノ方モ喜バレルダロウ!」
標的を見つけたように、喜びを噛み締めるようにボスが歓喜の声を上げる。
まずい。チャムが狙われる。
同時に、あの一文を思い出した。
――制限条件:主要NPCの生存。
まさか、まさか、チャムのことなのか?
スキル紹介 回復魔法
――≪回復魔法≫ 魔法スキル
回復に特化した魔法スキル
レベル1 ヒール
レベル5 リカバー
レベル10 マジックガード
レベル15 クロスヒール
レベル20 ハイヒール
レベル25 キュアー
レベル30 リザレクション
レベル35 ???
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適正武器 杖




