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Carnival  作者: ハル
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トリガーと絶望

 ターゲットを俺に変えたグールは腕を振り上げて狙ってくる。その様は目を逸らしたくなるほどの醜さと異臭だが、俺はグールから視線を離さない。

 これは通常攻撃。

 散々後ろで見ていた攻撃だ。

 タイミングを合わせて、左腕でその攻撃をいなす。そしてがら空きの腐った身体に右手でパンチを叩き込んだ。

 カウンター。

 ぶっつけ本番にしては形になってるな。もちろんスキルのシステム補正なんだろうが。

 それにダメージはほぼ0に近い。グールのHPバーはミリ以下にかしか減っていないからだ。

 本来なら悲しむ事実だが、今はグールを倒してはいけない状況だ。ならば、何も問題はない。

 それにリッチより弱いと言っても、レベル50のボスが召喚したモンスターだ。レベル11の俺なんかよりは遥かに強いのは間違いない。

 それこそ、通常攻撃一発で死んでもおかしくないくらいにはだ。

 だからと言って、死ぬつもりなんて全くないけどな。

 グールはその後も何度か攻撃を仕掛けるので、それに合わせてカウンターを仕掛ける。

 そして焦れたかのように別の構えをする。でかい頭を後ろへ倒して、その直後に助走をつけるように頭を動かす。

 頭突きだ。

 これはカウンターは厳しい。が、後ろへ避けた後に空ぶった頭目掛けて、蹴りをかます。

 しっかし殴ったり蹴ったりする感触はグニョっとするな。スライムみたいではないけど、人間のように固いわけではない。腐敗しきって身体が柔らかくなっているんだろう。

 正直気持ち悪い感覚は拭えない。

 次に見せたのは空気を吸い込むように口を膨らませた。

 さっきも見た。イサナギを猛毒にした毒の霧だ。

 グールの前方に発射されるので、背後へと動く。無防備な背中が見えるが、追撃はしない。さっき見た限りでは、この攻撃後は硬直が長い。その時間の間は――


「瞑想!」


 半分近くなっていたMPを回復させる。

 長期戦のこの戦いではMP配分も大事だ。すでに≪歌≫の必要性はないかもしれないが、全ての攻撃にカウンターをしていてはMPもすぐに空になってしまうだろう。

 マジこれあってよかったわ。

 ≪瞑想≫にも隙は多い。だからこそ、今の攻撃の直後でないと安心して使えやしなかった。

 グールは再び俺に向かい、俺も準備は出来たとばかりにグールと対峙する。

 さあ、仕切り直しだ。


「タクト……お前!」

「≪体術≫!?そんなの取ってたの!?」

「……ほう」


 ハッキリ言って三人の様子を伺ってる余裕などないが、俺の戦いに驚いている様子は伝わった。

 驚かせてやろうと黙ってたんだが、こりゃ予想以上だったかな。

 まさか俺がグールといえど、このボス戦で少なからずも役に立つとは思ってなかったはずだ。無論油断は禁物だ。


「イサナギはボスに集中してくれ!」

「……ったく、言うじゃねぇか!」


 俺の言葉にイサナギの魂に火が点いたのが分かった。

 こいつは馬鹿で、そして熱いヤツなんだ。

 そう簡単にくたばりはしない。

 それからは戦況は止まる一方だった。

 ヒヤヒヤしながらも、俺はグールとタイマンを張り続ける他所で、ゴブリンシャーマン相手にイサナギたちは三人で苦戦しつつも戦い続けていた。

 イサナギはほぼ防戦一方で死なないことを優先に、攻撃は最小限に留めていた。

 ミカンは魔法が効かない分、≪回復魔法≫と≪付与魔法≫を中心に二人のサポート。そもそもにボスの攻撃のダメージを考えると、攻撃が効いたとしてもそんな余裕はないくらいに激しい攻撃が続いていた。

 そして最後の男がこれまた凄い。唯一のアタッカーとして≪銃術≫をこれでもかというほどに叩き付ける。もちろん何のスキルか分からないけどボスの弱体も忘れてはいない。特にミカンから何かの魔法を受け取ってMPを貰っているようで、そのおかげで銃弾の音が聞こえない時はないというくらいだ。

 俺も含めた四人の集中力は研ぎ澄まされている。

 リッチが倒されてから多分三十分くらいだ。

 ようやく、ようやく、ボスのHPが半分を下回った。


「トリガーだ!注意しろ!」


 俺はその言葉にハッとするが、無論トッププレイヤーたるミカンも男もすでに分かっていたはずだ。

 ここで、やはりゴブリンシャーマンの挙動が変化する。


「強欲ナ人間!マサカコレホドマデトハ!ダガ更ナル絶望ヲ与エテヤル!」


 ゴブリンシャーマンが杖を天に向けて掛かげた。

 そして足元に巨大な魔法陣が現れる。

 見たことがある。トロスト鉱山で、グレイターバットが使った技に酷似している。

 それが意味するものは――


「取り巻き召喚かよ……!」


 呻くイサナギ。

 魔法陣より現れたのは六体のゴブリン種。どれも見たことがある姿だった。つい少し前に。


「ウォークライ!!」


 イサナギはすかさず全てのターゲットを奪う。自分がヘイトを稼いで耐えなければいけないと、タンクとしての矜持を語るように。

 召喚されたのはゴブリンナイト、ゴブリンレンジャー、ゴブリンメイジが二体ずつ。

 一体多いが、さきほど戦ったゴブリンたちと同じだ。

 そうは言ってももうだいぶ前のことにしか思えないんだけどな。

 それくらいにこの三十分ちょっとの戦闘の密度が濃すぎる。

 ボス一体でヤバいのに、六体のゴブリンがいたとあってはきつい。

 だけど――

 そのさっきの戦闘では、瞬く間にゴブリンは殲滅されたのも思い出す。

 一人の男によって。


「クイック!マリオネット!」


 すでに男は動いていた。

 同時にゴブリンレンジャー二体がそれぞれナイトとメイジたちに攻撃していく。

 これでゴブリンたちは混乱するかと思われた。だが、そうはならなかった。


「ギャギャギャ!!」

「ギャァギャァ!」


 操られていたゴブリンレンジャーはすぐにゴブリンナイトによって取り押さえられていた。手が空いているゴブリンメイジはレンジャーに目もくれず、イサナギ目掛け魔法を放つ。


「ちっ!ボスだ。あいつがいるから統率が崩せない」


 忌々しそうに男はボスを睨みつける。そんな男の心情を知ってか知らずか、相変わらずゴブリンシャーマンはけたたましく笑い声を上げていた。


「ぐっ……駄目だ!魔法が痛い!【コンダクター】!」

「二体は無理だ」

「それでもいい。まずメイジから処理してくれ!」


 イサナギの呼びかけに男は理解したし、男の言葉にもイサナギは理解していた。

 直後、操られていた二体のレンジャーは正気を取り戻し、一体のメイジが今度はもう一体のメイジに向けて杖を振り回し始めた。

 そして男もまた、銃をそのメイジへと集中させる。


「充填!乱れ射ち!バーストショット!!」

「プリズムレイ!」

「剣風波!」


 一瞬で、そこは小さな戦場になりつつあった。

 メイジに集中砲火しながらも、範囲攻撃でゴブリンたちを削っていく。男なんかはさりげなくゴブリンナイト一体のヘイトを自分へと向けさせていた。

 やっぱり強い!

 ボスが規格外なだけで、同レベルのモンスター相手なら余裕なんだろう。

 瞬く間に六体の取り巻きはその数を減らしていくだけだった。

 危ういイサナギのHPも巧みにミカンは回復していく。

 戦況は戻りつつあった。依然、苦戦には変わらないが。

 そう見えたのも束の間、ゴブリンシャーマンの攻撃パターンはやはり変化していた。


「ムダダ!捨テ駒ヲイクラ倒ソウガ貴様ラハ死ヌダケダ!」


 焦りなど微塵も感じさせない。それでいて、ボスを中心に渦巻いていく魔力を感じた。

 薄らと緑色のモヤが形成されていく。

 ≪風魔法≫がくる。間違いはない。

 だが、今まで以上の詠唱の長さだった。

 中断させようにも、ボスの身体はビクともしない。

 俺だけじゃない。心なしか嫌な予感が身体中を巡った。

 ミカンなど、すぐに全員にマインドとマジックガードを掛けたくらいには危険だと感じたんだろう。


「サア死ネ!死ヌガイイ!死ノ嵐ヨ!吹キ荒レロ!!」

「……まずい!タクト、俺に近寄れ!!」


 俺たちの周囲に大きな竜巻が四方に現れた。天井まで突き抜けるような竜巻だ。そこにあるだけで吹き飛ばされるような感覚に、俺はすぐにイサナギに近寄った。本能的とも言ってよかった。

 そして四つの竜巻は俺たちの周りを回転し、それでいて距離を徐々に狭めていく。逃げ場などどこにもなかった。

 身体が張り裂けるような感覚に陥りながらも、文字通り嵐が過ぎ去るのを耐えて待つしかなかった。

 時間にして僅か数秒。けれどその時間は限りなく長い時にも思えただろう。

 嵐が過ぎ去った後、俺はしっかりと地に足をつけていた。

 それどころか、ダメージがない。

 あの規模の魔法でダメージが0なんて考えられないはずだ。

 なぜ、と思った疑問の前に、現実が目の前に浮かび上がる。


「……イサナギ?」


 さっきまで果敢にボスと対峙していたイサナギ、今地面に横たわっていたのだ。

 戦闘不能となって――


スキル紹介 銃術


――≪銃術≫ 技能スキル

銃を武器とした戦闘術。

レベル1 ショット

レベル5 ラピッドショット

レベル10 威嚇射撃

レベル15 スラストバレット

レベル20 乱れ撃ち

レベル25 充填

レベル30 バーストショット

レベル35 ???

適正武器 銃


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