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Carnival  作者: ハル
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扉と男

 遺跡の中は意外にも明るく、壁面に一定の間隔で松明が灯っていた。

 けれど広さはやはり狭く、入り口が開けた場所になっていて、奥には地下に進む階段が見える。そして門番のようにそこを徘徊するゴブリンが三匹。

 ゴブリンウォリアー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンシーフ。

 平時だったなら俺の戦い方をイサナギたちに見せてやりたかったんだけどな。

 生憎と俺なんかが戦って時間をかけるわけにはいかない。

 それを分かってる二人も、颯爽と前にでてゴブリンへと向かった。

 イサナギだけでなく、ミカンも。


「よっと!……シールドブーメラン!」


 イサナギが剣を一振り。それはゴブリンウォリアーに当たると共に、盾を奥にいるゴブリンアーチャーへと飛ばす。

 ミカンはゴブリンシーフまで走り、杖を二回振っただけだった。

 一瞬の間に、三体のゴブリンは消滅していた。


 えぇぇぇ……


「凄い!お兄ちゃんもお姉ちゃんも強い!」


 俺の後ろから無邪気な称賛が浴びせられる。


「全くホントにな……。そういや聞いてなかったけど、お前らのレベルって今幾つなの?」

「おいおい、今さらな質問だな。俺のレベルが32でミカンが30な。ここのゴブリンくらい一撃で倒せるっての」


 まじか。

 確かベータテスト時の最大レベルが30だったはずだ。トオルさんたちの話によれば、二人はグローリアの最強パーティー。トッププレイヤー中のトッププレイヤーって話だ。

 今更ながら、そんな二人と知り合いの初心者である俺ってある意味変わってるんだろうなぁ。

 まあ今の状況で言えば、これほど心強いことはないだろうけど。


「ありがとな、二人とも」


 逸早い攻略を目指している二人が俺のために時間を割いてくれたことが純粋に嬉しかった。

 突然の礼にイサナギなんてバカみたいな顔をしてるし。


「な、何言ってんだ突然。馬鹿じゃねぇの、お前」

「ふふっ。照れちゃってんのね、イサナギ」

「ちっげぇよ!」


 彼女の前じゃイケメンも形無しだもんなぁ。


「よし、先に進むか。チャンは絶対この先にいるはずだ」

「そうね」

「おう!俺に任せろ!」


 ここより先の進路は奥にある地下へと続く階段だけだ。

 下を覗くも先は深そうに見えるが、二人の話じゃそれほどかかることなく、次の部屋へと出るらしい。しかしそこが行き止まりであることも。

 俺たちの見立ては全員同じだ。その行き止まりの先にこそ、チャンが連れ去られたはずだ。

 その先のことはベータプレイヤーである二人も分からない未知の領域。何が起こるかも分からなかった。

 僅かな不安が押し寄せながらも、俺たちは階段を地下へと進んでいく。

 イサナギたちの言った通り、行き止まりの部屋へ辿り着いたのはすぐだ。


「ここが……」


 小部屋と言えるような空間だった。壁面には見たこともない文字のようなものが書かれており、正面には小さい部屋であるにも関わらず、荘厳ともいえる扉が構えていた。

 この扉こそ、行き止まりの扉。開くことない扉。

 そして、これから開くであろう扉。

 知らずと、自分の唾を飲み込む音が響いた気がした。


「よし、行こう」


 先に何が待ち受けていようと、引き返すわけにはいかない。

 一度だけみんなの顔を見まわして、その扉へ手を掛けた。

 あれほど開かないといわれた扉は、嘘かのように滑らかにその道を開いていく。同時に冷たい風が奥から吹く。

 その瞬間だった。いるはずない、第三者の声が背後から響く。


「待て。お前たち、今何をした!?」


 えっ?誰だ、今の声。

 俺だけじゃない。みんなが後ろを振り向くと、そこにはいつからいたのか一人の人間が立っていた。

 敵?いや……プレイヤーか!だけど名前が見えない。というか???と表示されている。

 もちろん???という名前なわけじゃない。スキルによる≪認識阻害≫があると、自分の情報を遮断することが出来るらしいので、おそらくそれだろう。


「あんたは……」

「知ってるのか?イサナギ」


 グレイのテンガロンハットに、トレンチコートを着る男。顔は半分隠れているが、二十代前半くらいに見える。ハットの下から覗く髪は暗めのシルバーアッシュだ。

 なんとなくだが、ベータプレイヤーである様相が伺われる。現にイサナギには心当たりがあるようだった。


「【コンダクター】……」

「……」


 え?何?コンダクター?それが名前なのか?

 一瞬、頭が混乱しかけたが、見て分かったのかミカンが説明してくれた。


「二つ名よ。有名なベータプレイヤーで本名は誰も知らないとか。≪認識阻害≫のレベルが高すぎて≪見識≫を以てしても見えないのよ。誰ともパーティーを組むことなく、一匹狼の孤高のプレイヤー。遠目から戦闘を見たことのある人が、まるでモンスターを指揮するように戦う姿から【コンダクター】」


 よく分からないけど、とりあえず強い人なんだよな?。

 だが当の相手は、何かに驚いたように俺たちを、というよりは後ろの扉を凝視していた。

 さっきまで開かずの扉と言われていたものだ。


「なんだって【コンダクター】なんかがここにいるんだ?」

「……俺のことなどどうだっていい。それよりも、なぜ開かずの扉が開く?貴様らいったい何をした?」


 矢継ぎ早に詰問する男を前に、声がやけに美声だなと頭の片隅で思った。

 こんな声の持ち主が歌を歌えば、そりゃもうカッコよく響くんだろうなぁ。

 なんてそんなこと考えている場合なんかじゃないけど。


「悪いけど、詳しいことを説明している場合じゃないんです。俺たちは急いでるし、この先に用があるので」

「何……?」

「まああんたの言いたいことが分かるぜ。俺だって第三者だったら問い詰めたいところだしな。今だって半分信じ切ってないんだから」


 同じベータプレイヤーであるイサナギたちには男の疑問も分かるんだろう。この場所をさっき知った俺にしてはそこまで驚くことではなかったけど。

 男は何かを言いたげに、俺たちに視線を回す。そこで俺の後ろで縮こまるチャムの姿を目にすると、何かに気付いたように考え込む仕草をした。


「子供のNPC……。ここにNPCが現れた例は今までに一度もない。ということは……なるほど、クエストの類か。急いでいるということは、時間的制限でもあるのか……?」


 まじか。何者だよ、この人。

 全部当たってるし。

 チャムが少しだけ何かに怯えるように俺の服を掴むが、安心させるように彼女の頭をそっと撫でる。

 確証なんて何もないけど、多分この人は悪い人じゃない。目つきとかは鋭いし、友好的な態度でもないのに。


「あなたの言う通りです。さっきも言ったように時間は惜しい。申し訳ないですけど……」


 これ以上話している時間はない。

 そう言おうとしたが、男の行動に俺は思わず言葉を止める。

 男は無言のままコツコツと歩き出し、俺たちの横を通って扉の前へと立つ。

 何のつもりだ?


「おいっ!」


 イサナギが声を掛けるのと同時に、男もまた一歩扉の先へと足を踏み出そうとしていた。


 ビリッ――


 何だ、今の?

 何かに阻まれるように男の足元に電流のようなものが走っていた。


「……なるほど、な」

「おいっ、【コンダクター】!何のつもりだ?」


 男の奇行にイサナギが問い詰めようとするも、何かを思案する男はどこ吹く風だ。

 そして次に出た言葉がなんと――


「どうやらクエストを受けたパーティーじゃないと入れないってことか。クエストの受注者は……お前だな?おい、俺もパーティーに入れろ」

「……はっ?」


 イサナギ、ミカン、俺と順に見渡していき、確信を以て俺の前で視線を止める。

 いったい、何なんだ。この状況は。

 パーティーに入れろって。命令形だし。

 いやいいんだけどね?もうこの数分で男の人となりは理解したつもりだし。

 それに俺の返答は決まっている。


「それじゃ、お願いしますね」

「おい、タクト!?」

「本気で言ってるの?」


 当然のようにイサナギとミカンから反論の声が上がる。

 まあそれが普通だよな。俺だって分かってるよ。

 これが街中で何もない状況だったなら俺だって断るし、けど今は状況が状況だ。

 イサナギとミカンを信じていないわけじゃないけど、この男がベータプレイヤーであるならその強さも確かなのだろう。強い人ならいくらいてもこの先困ることにはならないはずだ。

 そんなことを説明しながら、俺はすでに男へとパーティーの要請を送る。すぐにパーティーインした男だったが、やはり名前は???のままだった。


「これでいいな。行くぞ」

「おい!何でお前が仕切るんだよ!」

「……大丈夫かしら、本当に」

「よろしくね!美しいお兄ちゃん!」


 男の予想通り、俺のパーティーに入った男が再び扉の先に阻まれることはなかった。

 先頭を踏み出した男に俺たちは続くが、些かみんなチグハグだよなこれ。

 まあ俺が言えたことじゃないんだけどさ。


スキル紹介 認識阻害


――認識阻害 パッシブスキル

他者からの情報を阻害する。

レベルが高ければ高いほど効果は高く、微弱であるが存在をも薄れさせる。

≪見識≫のスキルレベルが高い相手からは破られることもある。


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