始まりの平原と遺跡
おいおい、何なんだよ、このクエストは!
無我夢中で始まりの街の西のフィールド、始まりの平原を駆けていた。
いや、むしろ今さらクエストなんて関係ないか。そうでなくたって、俺は同じ行動に出るのは間違いない。
突如もたらせたローラさんからの報せ。
この始まりの平原は名前に反して、始まりの街周辺で一番モンスターのレベルが高いフィールドだ。
敵モンスターもゴブリン種複数で埋められており、何の力もない子供が出たところで敵わないのは明白だった。
一刻も早く、チャンとチャムを探し出さなければならない。
この一週間、ローラさんとチャン、チャムと過ごしていく中で、俺は彼らNPCがゲーム内の人物であるにも関わらず、実際に生きている人物たちなのだと思うようになった。当然その一人が命の危険に晒されているのなら、動かない理由など何一つとしてない。
無事でいろよ、チャン、チャム!
幼いながらもやんちゃな男の子とおませな女の子を思い出し、俺はひたすらに始まりの平原を駆けていた。
『北の方はそれらしき姿はいない!』
『南も何の変化はないわ!』
PT音声でイサナギとミカンから響く声。俺が探している中央も二人の姿はなかった。
俺がクエストを受けた瞬間、二人は何も言わずとも俺に全面的に協力してくれた。二人にとっても思うところがあるのか、積極的にチャンとチャムの捜索に力を貸してくれる。
ホント頼りになる親友だよ。
だけど三人で始まりの平原を捜索するも、その姿はどこにもなかった。
まさか、という思いすら俺の中には浮かばれる。
それでも何かの手がかりを探すように、走り回った。
ゴブリンの集団に絡まれようとも、攻撃をかいくぐって逃げる。本来ならトレインにあたるが、幸いイベントもあり、経験値効率の悪いこのフィールドで狩りをする人などいない。
だいぶ走った後、遠くに始まりの平原のレストエリアが見えた。ここまで来るとフィールドの端の方だ。更に奥には遺跡みたいな建物が建てられている。
「レストエリア……!あそこならもしかして!」
レストエリアにモンスターは入れない。もしも二人がレストエリアへ逃げ込んだならば。
「チャン、チャム!!いるか!?」
静けさに溢れるレストエリア。呆然とする俺の気持ちとは裏腹に、ここでは滅多に見られない花畑が綺麗に咲いていた。
今じゃなければ、それなりに感動するだろうに。
「…………ッ」
本当に小さな声だった。消えかかりそうな声が俺の耳に届く。
「誰かいるのか!?チャン!?チャム!?」
「……お兄、ちゃん……?」
「チャム!!」
花畑の中から小さな少女が現れる。
探していた双子の片割れ。
片割れだけ?
「チャム、無事か!?チャンはいったいどこに……!」
元気のない声だったけど、チャムに外傷は見られない。
だけど、この顔はさんざん泣き腫らした顔だ。
それだけで俺の中には不安が募る。
「私たち、お母さんの…ために…お花を摘みに…来ただけ。なのにゴブリンが…チャンを…チャンを連れてっちゃって……」
「なっ!?」
「私、どうしたらいいか…分かんなくて……。どうしよう、お兄ちやん!チャンを助けて……!」
ゴブリンに、連れ去られた?チャンが?
おいおい、嘘だろう。
連れ去られる。連れ去られるって何されるんだ。まだ無事ってことでいいんだよな。それとも……!
「……そのゴブリンはどこへ行ったか分かるか?」
「あそこ……あの建物の中に入っていったの」
チャムが指しているのは間違いなく、さっき見た遺跡だ。
神秘的なはずなのに、俺の心境からしたら不気味にしか見えない。
「分かった。チャム、もうしばらくここで隠れていられるか?」
「いや!さっきもこの中にゴブリンが来たよ!一人でいるのはもうやだ!私もチャンを助けに行く!」
チャム……。そうだよな。怖いよな。一人でこんなとこに居続けるのも、ゴブリンに襲われるかもしれないのも。
多分この双子に関してだけ、レストエリアの機能は果たされてない。ここでチャムを置いていけばチャンの二の舞になるかもれない。かといって町へ送り届ける時間も惜しい。
それでもこの先に連れて行っても、俺なんかが守れるかも怪しい。
どれが正しい選択かはわからない。どれも間違っているかもしれない。
それでもここで迷っている時間が惜しいのは間違いないだろう。
「チャム、この先は危険だ。ゴブリンや他のモンスターがいっぱい現れるかもしれない。それでも一緒に行くか?」
「……行く。ここで一人になるよりお兄ちやんと一緒に行く!」
「分かった。なら俺が絶対チャムを守る!傷一つつけさせない!」
ここまで頼られたら逃げるわけにもいかないよな。
それにこっちには【鉄壁の守護神】とやらがいるみたいだしな。
「イサナギ、ミカン、聞こえるか?平原奥の遺跡前に集まってくれ」
『遺跡って……まさか始まりの遺跡か!?』
『子供たちは見つかったの!?』
始まりの遺跡。始まりの平原に建つ遺跡はそう呼ばれていた。
唯一始まりの平原と呼ばれるフィールドに建つ遺跡は当初はそれはもう注目されていたらしいが、今となっては寄り付くプレイヤーはほとんどいない。
ダンジョンと呼ぶには相応しくもない広さで、ゴブリンが複数いるだけで奥はすぐに行き止まりだ。厳密に言うと開かずの扉があるのだが、ベータ時代はどうやってもその扉は開くことがなかったし、それは正式サービス後も同じだった。
今となってはもはや忘れられた場所と言っても過言ではない。
と言うのが、イサナギから聞いたこの遺跡のはなしだ。
その遺跡にチャンが連れ去られた。それが意味することは俺には計り知れない。
「やっぱりクエスト専用の場所ってことなのかな」
「まさかこうして始まりの遺跡に来るなんて思ってもみなかったぜ」
ベータプレイヤーとして、この遺跡の謎に少なからず興味があったんだろう。イサナギもミカンも、俺から言わせたら能天気な会話を繰り広げていた。
その原因も分かってはいる。
二人は今の事態を結局クエストとしてか認識していないのだ。
それを責める理由は俺にはない。むしろ大多数のプレイヤーがイサナギたちと同様なのだ。
けれど俺は違う。俺は知っている。
チャン、チャム、ローラさん、ゲンゾウさん、この世界に生きるNPCはこの世界で確かに生きている。このVRの世界で生きていることを。
それに俺も詳しいクエスト内容を二人には知らせていない。不穏を感じさせる一文。
制限条件:主要NPCの生存。
それが意味するのは間違いなくチャンとチャムの双子のことだ。条件に生存があるならば、当然死亡もあるはずだ。プレイヤーと違い、この世界に生きるNPCは果たして死に戻りがあるのだろうか。確認する術なんてあるはずもない。あったとしても、それをするわけにもいかないじゃないか。
少なくとも俺にとってこれはクエストなんていうものじゃない。
この世界で知り合った小さな子供を助けたい。恩師とも言えるローラさんを悲しませたくない。それこそが俺の今の一番の原動力だった。
困っている人がいるならば、手を差し伸べる。それが俺の生き方だから。
「行こう。チャムは俺から離れるなよ」
フィールド紹介 始まりの平原
全てはこの地に人間が降り立ったことから始まった。
出現モンスター:ゴブリンウォリアー、ゴブリンシーフ、ゴブリンアーチャー、ゴブリンマジシャン、ゴブリンヒーラー




