キャラクターメイキング
翌日、正式サービス開始の10時より前に俺はVRヘッドギアをセットしてログインした。
意識がゲームの中へと飲み込まれ、暗転した後に暗めの宇宙のような空間に立っていた。そして目の前には少女が一人。
「初めまして、冒険者様。私の名前はナビゲーターの一花と申します」
「はじめまして……?」
何で疑問形になった、俺。
「まず、貴方様のお名前を教えてください」
するとプレイヤー名の入力欄が目の前に現れた。
名前ね。まぁ、本名でいいかな。考えるの面倒だし。
タクト、っと。
「タクト様でございますね。アバターはいかがなさいますか?」
目の前に俺自身のアバターが現れ、その変更の項目が現れる。
基本VRMMOのアバターは脳波をスキャンした現実の身体を元にさせて、変更できる。髪や瞳の色、髪型、顔の細かな造形、身長は±5cmまでなどetc。
現実の身体と離れれば離れるほど、VRMMOでは違和感を感じてプレイに支障が出るくらいだ。性別なんてもちろん変えられない。
さて、どうするか。と思ったけど、すでに決まっている。
特に何の変更もせずに、俺はそのままのアバターで決定した。まんま俺自身ってわけだ。服装だけは違うけど。
「これで構いませんね。では次に初期スキルを決定します。スキルの説明は必要でしょうか?」
フリスタはプレイヤーレベルとスキル制のゲームである。自分が思い描くスタイルに合うスキルを選んで、十人十色、自由なスタイルで冒険できるのだ。なにせスキルの数は数百とあるのだ。
さて、肝心の項目だな。スキルやスタイルにもいろいろあり、ベータテスターが情報を重ねた攻略サイトも多く存在している。それには各々のスタイルを参考にしたスキル構成も載っているが、俺はそれを見ていない。
せっかく冒険するんだ。全部自分の目で見たいしな。だからフリスタについては勇也たちの話しかほとんど理解してないと言っていい。もちろんあいつの言葉全てを理解してるわけもないけど。
ひとまずは折角だから説明してもらおうか。
「ぜひお願いします」
「かしこまりました。まずこのゲームではスキルが一番大事な要素となります。冒険者様それぞれのスタイルに合ったスキル構成は一人一人が違うものでございます。スキル枠は最大で十。初期はスキル枠も所持スキルも三つまでです。プレイヤーレベルが4から一つずつ増え、レベル10の時にスキル枠も最大となります。しかしながら新しいスキルを覚えるにはSPを3消費します。SPはスキルレベルを10上げるごとに1ポイント獲得、またプレイヤーレベルが1上がるごとに1獲得します。ただし、プレイヤーレベルの方は20までしか獲得できません。それ以降はスキルを成長してSPを獲得することになります。ちなみにレベルは上限が50なのでご了承ください」
うん。淀みない言い方に感心すら覚える。
「スキルは多様でありながらも、いくつかに分類しております。それぞれ主に武器スキル、技能スキル、魔法スキル、パッシブスキル、ステータススキル、アビリティスキル、生産スキル、固有スキルと分かれます。このうち初期スキルは武器スキル、技能スキルもしくは魔法スキル、ステータススキルをそれぞれスタイルによって一つずつ決めていただきます。それ以降はSPを3つ獲得次第、新たなスキルを得られます。尚、セットできる枠は最大十ですが、スキルの習得自体はSPがある限り幾つでも習得できます。スキルの入れ替えは街もしくはキャンプフィールドで可能です。また、初期に選べるスキル以外にも、冒険者様の行動やスキルの組み合わせによって新たな派生スキルも存在します。スキルの説明については以上です。何か質問はございますか?」
いやいや、そんな一気に捲し立てられても覚えられないからな?
まぁなんとなく仕組みは理解したが。
「要は初期スキルは三つ。枠は上限で十。新たなスキルはSPを消費して覚える。プレイヤーの行動で覚えられるスキルはそれぞれ増えていく、と」
「はい。その認識で間違いはございません」
「なるほど。だいたい理解しました。けど一つ気にになるのが固有スキルってやつだな。これはプレイヤーによって違うってことですか?」
「はい。固有スキルは冒険者様のスタイルを元に決められ、プレイヤーレべル30で習得するスキルでございます。効果のほどは冒険者様一人一人によって違い、一種のユニークスキルでもございます」
「……ユニークスキル?」
「はい。文字通り、ただ一つのスキルです。最も、このユニークスキルを習得できるのは一部のクエストなど、特殊な状況に限ります。ユニークスキルを獲得できるプレイヤーは数人にも満たない見込みなので、お気になさらずに」
そりゃユニークってだけで、激レアってことだもんな。まぁ多分俺には関係ない話だし、むしろ固有スキルってのには惹かれるな。要は自分だけのスキルってことだろう。俄然、楽しみになってきたなぁ。
「ではこれ以上スキルの説明を必要でなければ、初期スキルを決定します」
「はい、大丈夫です」
「それではタクト様の思い描くスタイルを頭に浮かべてください」
そう言ってナビゲーターの一花さんは俺を見る。
俺の思い描くスタイルは歌使いだ。
両親とも音楽家であることから、俺は幼い時から音楽が身の回りにあった。俺が一番好きになったのは歌うことだ。母が歌ってくれた歌に俺はいつも癒されていた。そんな歌を俺も歌いたい。そう思って、歌をよく歌ったもんだ。どうせゲームをやるなら好きなことをやったら幸せだろう。
「……これは……」
「ん?」
「いえ、失礼しました。イメージが纏まった結果、この三つのスキルが選ばれました。やり直しは何度でも効きます」
ナビゲーターの一花さんが淡々と口にする。機械的な声は本当に無機質に感じるものだ。
だけど明らかに、その声に違和感を感じるのは気のせいだろうか。
まあそれはそれ。歌使いのイメージのスキルを見てみるか。
――≪歌≫ 技能スキル
歌うことによって、様々な効果を発生させる。
レベル1 力の歌
適正スキル ≪声量≫
――≪声量≫ 武器スキル
≪歌≫スキルの効果を高める。
――≪魅力増加≫ ステータススキル
ステータスCHMをレベル1につき1増加させる。
なるほど。声量が武器スキルってのがイマイチ分からないが、この魅力のステータスも多分歌に関係してるんだろう。
まあ最初のスキルだしこんなもんでいいのかな。
「大丈夫です。このままで」
「かしこまりました。それでは次はステータスの項目に移ります。こちらの説明も必要ですか?」
あぁ、これなら大丈夫かな。勇也から散々聞かされたし。
このゲームのステータスは普通に他のゲームと大して変わらないみたいだ。
「いえ、大丈夫です」
「……では、ステータスの割り振りをお願いします」
その言葉と同時に俺の初期ステータスが現れた。
HP 100
MP 100
STR 1
INT 1
DEX 1
VIT 1
MND 1
AGI 1
LUk 1
CHM 1
BP10
このBPを使ってステータスを割り振ることになっている。それぞれの項目はまぁゲーマーなら説明もいらないくらいな要素といっていい。
ただ、CHMの魅力だけは別だ。何でもこのステータスはNPCとの友好関係やクエストに関わることが多いらしい。反面、戦闘に関してはほとんど意味がないと勇也からは聞いていたのだが。
俺の初期スキルに≪魅力増加≫があったよな?
初期のステータススキルはスタイルに紐づくのは当然のことだ。なら、ここは魅力を上げるべきだろうな。
俺は迷わずBPを魅力に全部振っていく。
そんな俺をなぜか一花さんは驚いたような様子で見ていた。
むしろ俺は表情を変えた一花さんに驚いた。
「えっと……?」
恐る恐る声を掛けたら一花さんはすぐに無表情に戻る。
気のせいか?いや、気のせいじゃないよな。
「……失礼しました。それではこの初期ステータスでよろしいですね?」
俺の前に新たなステータスが現れる。
HP 100
MP 100
STR 1
INT 1
DEX 1
VIT 1
MND 1
AGI 1
LUk 1
CHM 11
うん、とりあえずこれでいいだろう。BPはレベル上がるごとに貰えるって話だし。それを証明するように一花さんの説明は続く。
「BPはプレイヤーレベルが1あがるごとに10獲得します。またそれ以外にも1レベル上がるごとに全てのステータスが1上昇します。尚、HPとMPに限りそれぞれ10倍の値に繰り上がります。スキル同様、プレイヤーレベルも50ですので気を付けてポイントを振ってください」
「HPにBPを1つぎ込んだら10上がるってことですよね?」
「その通りです」
「分かりました」
「それでは、これでキャラクタークリエイトを終了します。タクト様に良き冒険の加護があらんことを」
おぉ。
随分とあっさりした別れがやってくるようだった。
俺の足元には白光したポータルが現れている。
「最後に、この世界は冒険者の行動によって開拓されていきます。どんなスタイルにせよ、貴方様の行動一つでこの世界の運命を変えれることもあるとご理解ください」
なんかよく分からない難しい言葉を告げられた気がするが、気にしないことにしよう。
それよりも、俺は彼女に聞きたいことがあった。なにせもう二度と会えるかも分からないのだ。なりふり構ってもいられないだろう。
「待って!一花さん!」
「……え……?」
俺の足元には未だ白光するポータルが輝いている。さっきよりもその輝きを増すそれは、時間がないことを告げていた。
「なんでそんな悲しい顔をしているんですか?」
「……悲しい、顔……?」
虚を突かれたような彼女の顔は本当に何も理解していないようだった。
この短いチュートリアルの中でも俺は一花さんの憂いが気になって仕方がなかった。もちろん気のせいかもしれないっていうのも分かっている。
けれど、その些細な違和感が後々後悔することを俺は知っている。
「俺自身、よく分かってないけど……、でも、一花さんが何かに困ってることが分かるんです。もし出来るなら、貴女の助けになりたい!」
あぁ、何を口走っているんだ俺は。客観的に見ても馬鹿みたいだ。
相手はただのシステム上のNPCだぞ?
なのに、それなのに、
消えかかる俺と一花さんの視線が交錯した。
紛れもなく、彼女が涙を流しているのは見間違いではないだろう。
「……私は大きな罪を犯してここにいるのです。あなたがもし本当の歌使いであるならば――」
――どうか、私たちの罪を――
キャラクター紹介 タクト
性別:男
身長:172cm
スタイル:歌使い
レベル:1
スキル:≪歌≫≪声量≫≪魅力増加≫
主人公。βテストに落選し、一月遅れで正式サービスからゲームをスタートする。自分ではライトゲーマーだと思っているが、周囲の人物からは否定される。
歌使いを選んだのは、単純に歌が好きだからであり、両親の影響も大きい。
兄と弟がいて、三兄弟の真ん中である。