親友とエクストラストーリークエスト
「何ッ!?ユニークスキルだと!!?」
「馬鹿!声がでかい!」
驚くだろうとは思ってたけど、騒ぎすぎだ。店の迷惑になるだろ。
ほら、店主のゲンゾウさんが睨んでる。
「いや、だってな!?お前事の重大さを分かってるのか!?」
尚も声を荒げるイサナギに、俺の為す術はない。あとは隣に座るミカンに任せるか。
周りに他のプレイヤーがいないことだけが救いだろう。
一時に噴水広場で待ち合せた俺たちだが、どうにも周りに視線が痛く、よくよく思えばこいつらが有名人であったことを思い出した。それからはすぐに場所を移動し、以前兄貴に連れてこられた食事処<団欒>へとやってきたのだ。
あれ以来俺は毎日のようにここへやってきて、すっかり常連となりつつあるが、他のプレイヤーはほとんど見かけない。結構美味いんけどな。ストレイドッグの肉とか。
そんなこんなで店主であるゲンゾウさんとも顔見知りとなったが、さすがに客が俺たちだけとはいえ、騒ぐのはよくないだろう。
何せゲンゾウさんはいわば古風な人であり、食事のマナーにはうるさい。
「イサナギ、気持ちは分かるけどちょっと落ち着いて。お店の人も睨んでるから」
「あ、あぁ……悪い」
さすがミカン。イサナギの手綱を引くにはミカンしかいない。
「でもね、タクト。私もイサナギと同じ気持ちよ。説明してくれる?」
「もちろん。二人に隠し事する気はないよ」
フリスタの知識が乏しい俺でも、このユニークスキルを大っぴらに言うわけにいかないのは分かっている。
けれどリアルでの親友でもあるイサナギとミカン、それに兄貴くらいは話しても問題ないと信じているさ。
そんなわけで、俺はローラさんとの出会いからクエスト発生、そしてこの一週間ほどの出来事を赤裸々に語った。
「…………」
「…………」
「…………おい」
何とか言えよ。
と、思ったら二人して深い溜息を吐きやがった。
「……まさか、とは思ってたんだけどね」
「あぁ。タクトのことだ。何かやるなとは思ってたんだ……」
何だよ、二人して。そんな珍獣を見るような目で見なくてもいいじゃないか。
「NPCクエストって確かCHMが高いと発生しやすいんだっけ」
「確かにそうだが、ベータ時代でもそうそう発生なんてしなかったはずだぞ。ましてエクストラクエストとか初耳だ」
「そうね。更に条件緩和があるなんて。でもNPCとの好感度はやっぱり本当にあるのね」
「しかもなんだよ美人の人妻って。羨ましいにもほどがあるぞ」
「……イサナギ?」
「すみません」
馬鹿か、こいつ。
「でも、そういえば……フレンドの一人が王都の歌姫を見つけるクエストを受けたらしいんだけど、何の手がかりもなくて困ってたって言ってたなぁ」
「……え?」
王都の歌姫。
……いや、まさかだよな。
「王都の中に今閉鎖中の歌劇場があるんだけど、なんでも一月前から看板の歌姫がいなくなったんだって。それでそこの支配人がクエストを発行してるみたいなんだけど、手がかりはほとんとゼロで、何か分かることがあれば連絡してくれって言ってたけど……」
「その話、俺も聞いたことがあるな。突然行方をくらました歌姫を探すクエストだよな」
「うん。そうなんだけど……」
「……いやぁ、まさかだよな」
「あぁ。お前らの気のせいだろ……?」
「そう、だよね……」
「そりゃそうだ……!」
「「「…………ハハハッ!」」」
よし、笑って誤魔化せ!
俺は何も聞いていない!
幸い二人もそれに乗ってくれたことだしな!
「よし、話を戻そう。そもそも俺らがタクトに用があったのは、未だ歌使いであるお前がこの街を抜け出せないっていう事実だ!」
「抜け出せないって言うな!」
事情を話しただろ!
俺はクエストの関係で、あえて王都へと行かなかったんだ!
「似たようなもんだろう。クエストがなくたって、どうせまだこの街でうろついてたんじゃないか?」
「イサナギ……てめぇな!」
「ハイハイ、二人とも落ち着いて。ところでタクト、明日王都で開催されるイベントのことって知ってるわよね?」
「……イベント?」
なんだそれ。
生憎と俺は公式HPをチェックしてるわけじゃないので、イベントの類は特に調べていない。
それを話せば、二人は予想してたかのように、再び大きなため息を吐いていた。
「明日の日曜、昼の三時から王都でプレイヤー主催の交流イベントが開始されるんだよ」
「へー、そんなもんがあるんか」
「うん。自由騎士団とグローリア、それに陽炎の三大ギルドを中心としたイベントよ」
「三大ギルドが?そりゃ盛り上がりそうだな……」
「他人事みたいな言い方だけど、タクトはイベントにあんま興味ないの?」
「いや?せっかくのゲームだし普通に参加したいとは思うが……」
しかもプレイヤー主催だろ?何があるか分かんないけど面白そうじゃん。
「もう一回言うが王都でのイベントだからな。当然街道のボスを倒せない限り、王都には辿り着けないからな」
「……あ」
そういう、ことか。
未だ街道のボスを倒してない俺は、当然まだ王都へと足を踏み入れられない。もちろんイベントなんて先の話である。
「だろうと思ったぜ。タクトは変なとこで鈍いからなぁ」
「うるせぇ」
そんなの俺が一番分かってるっての。
「まあそういうわけでね。イベントの一番の主催である自由騎士団の面々が正式プレイヤーを護衛しているっていう話だし、タクトもこれを機に王都へと足を踏み入れるいい機会なんじゃないかなと思ってのことなんだけど……」
つまりイベントのためにボスを倒せないプレイヤーをクリアさせようっていうことか。
イベントのためにそれは分かる。分かるんだけども……。
「倒すなら実力がいいよなぁ……」
トオルさんたちにもそう言ったんだ。
イベントを目当てに強いプレイヤーと一緒にボスに挑むのは俺としては何か違う。
そんな俺の考えを二人はあらかじめ分かっていたのだろう。
「やっぱりタクトならそう言うわよね……」
「そこで俺たちの出番だ!パーティー組んで三人で街道のボスを倒すぞ!」
「はぁ?お前ら二人ともレベル高いだろうが。何も変わんないだろ」
やっぱり馬鹿か、イサナギのやつ。
「違う違う。戦うのはお前ひとりだ!俺たちは基本サポートだな!」
……撤回のしようもない馬鹿だな。俺一人で戦うとか、勝てるわけないだろうが。
俺の半眼の視線を感じたのか、イサナギは慌てたように作戦ともいえる馬鹿な言葉を放つ。
「当然、タクト一人で敵うわけはない!すぐにやられるだろう。だが、死んでもミカンの蘇生魔法がある。その間は俺がヘイトを取っておくから、仮に死んでも生き返ったタクトが再び一人で戦うっていう戦法だ。……どうだ!?」
ぶっ飛ばされたいのか、こいつ。
いや、ぶっ飛ばしていいのか?
なんだよそのゾンビアタック戦法。しかも真面目に言ってるのが分かる俺だからこそ、余計にぶっ飛ばしたい。
「どうだ!?、じゃねぇわ!!!」
馬鹿馬鹿しい問答に、俺が怒鳴り上げるとゲンゾウさんが再び眼光を鋭くしていた。
……やってしまった。
直後、反省すると同時にこの店の扉が乱暴に開かれた。
「……いたっ!助けて、タクトくん!!」
息を切らして、尋常でない焦った表情をする彼女は昨日までにお世話になったローラさんだった。
「ローラさん……?」
何だ、この嫌な感じ。
昨日までと打って変わった、明らかに焦っている彼女。
その綴られる言葉に、俺は一瞬理解できなかった。
「お願い!!二人が……チャンとチャムが西の平原へ子供たちだけで行ってしまったの!!どうか二人を連れ戻して!!」
エクストラストーリークエスト【強欲】が発生しました。
このクエストは自動的に受理されます。
――エクストラストーリークエスト【強欲】 依頼主:ローラ
始まりの平原に消えたチャンとチャムを探し出せ。
制限条件:主要NPCの生存。
キャラクター紹介 ゲンゾウ
性別:男
年齢:58
身長:164cm
始まりの街で食事処<団欒>を営むNPC。古風な人物であり、礼儀に対してはうるさい一面を持つ。
プロの料理人顔負けの腕を持つが、そんな男がなぜ始まりの街で密かに食事処を営んでいるのかは一切の謎である。
厳つい顔から、初見の人間は入った途端に踵を返すこともままあるのが悩みの種である。




