クエストクリアとユニークスキル
「違う!最後の音に感情をもっと乗せて!」
「……はい!」
まさかこんなスパルタだったなんて思いもしなかった。
クエストを受けてから約一週間弱、俺はほとんどの時間をローラさんから教えられる歌に費やしていた。
まさか始まりから発声練習や楽典をゲームの中でやるはめになるなんて誰も思わないはずだ。
現実さながらの授業に疲れ果てるも、途中で投げ出すことはしない。
それは俺の性格にもよるものだし、何よりあの歌を歌いたかった。
その一心で厳しい授業にも耐えられるのだ。
それにローラさんは教え慣れているのか、飴と鞭を使い分けるのがうまい。
「もう少しよ、タクトくん。あと少しであなたならあの歌を習得できるはず」
その言葉を胸に俺はただひたすらに歌い続けている。
佳境も佳境。まさに歌のラストを歌い続けているのだ。
聴く人々に祝福をもたらす讃美歌。美しく綺麗で丁寧に、それでいて荘厳な声で盛り上げる。
何百と繰り返したその部分をまた歌い終わると――
ユニークスキル≪祝福の賛歌≫を習得しました。
エクストラクエスト【ローラの弟子】をクリアしました。
…………やっと来たあああああああ!!!
「タクトくん!!凄い!凄いわ!おめでとう!!」
「兄ちゃん、すっげー!」
「お母さんの歌と同じみたいに綺麗だったよ!」
ローラさんだけでなく、ずっと応援してくれたチャンとチャムも嬉しそうに称えてくれる。
「ローラさん!ありがとうございます!俺、ローラさんの弟子になれて本当に良かったです」
まじで、本当に、感謝してます。
思わずローラさんの手を掴んで感謝してしまうくらいには、箍が外れていたと思う。
めっちゃスベスベしてて柔らかかった。
……じゃねぇよ!
「いいのよ、タクトくん。むしろ私の方が再び歌う勇気をくれたあなたに感謝したいくらい」
俺の手に拒否感を示した感じもなく、ローラさんはただひたすらに俺に感謝の意を示した。
無関心もそれはそれで痛いんだけどな。
ともかく、これで俺の長い授業は終えたわけだ。
詳細を確認するのは後にして、俺は心からローラさんに感謝を述べる。そして、この一週間近くずっと側にいたけど、俺の本質はあくまで冒険者だ。ずっとこの始まりの街にいる気はない。
「本当に、ありがとうございました。ローラさんの教えはこの先も忘れません」
「タクトくん……そうよね。あなたは冒険者。旅立つのも当たり前」
思い違いでなければ、寂しさを持ってくれているのだろう。
凄い嬉しいし、このままローラさんの弟子として教えを請う生活すら想像できるほどには濃い一週間であった。
「やっぱり王都へ行くの?」
「そうですね。とりあえずの目標は王都です」
「そう……。私もね、決めたわ」
「……もしかして」
「えぇ。タクトくんに勇気づけられたもの。再びあのステージに戻るわ」
思いもよらないローラさんの言葉に、感極まる想いだった。
一度は歌うことを諦めた彼女が、再び前向きになったことに喜びを隠せない。
「王都の歌劇場ですよね。俺、絶対聴きに行きますから!!」
「……ありがとう。タクトくんにならS席を用意しておかなきゃね」
笑って口にするローラさんは、本当に吹っ切れたような姿があった。
自惚れかもしれないけど、俺の歌が彼女の人生を変える切っ掛けになったのなら。
やっぱり歌には大きな可能性が秘めているはずだ。
きっとこのクエストはこれからの俺のフリスタ生活にも大きな切っ掛けとなったはずだ。
誰に何と言われようと、俺はこのままずっと歌使いを極めて行こう!
さて、ようやく自由な身となったが、今日はもう時間も遅い。
さすがにレベルも考えてそろそろ本格的に王都へと向かった方がいいかもしれない。
ローラさんからの授業の合間にも少しだけど狩りをしていて、おかげでレベルにはいろいろと変化している。
意外なことはローラさんの授業も微弱ながら経験値が貰えていたということか。それでも毎日何時間も練習してれば、それは結構な上がり方でもあった。
レベル:11
HP 200/200
MP 400/400
STR 11
INT 11
DEX 11
VIT 11
MND 11
AGI 41
LUk 11
CHM 71+9
BP:0
≪歌Lv20≫≪声量Lv22≫≪魅力増加Lv9≫≪体術Lv10≫≪音楽Lv19≫≪瞑想Lv4≫≪祝福の賛歌≫≪空き≫≪空き≫≪空き≫
SP:7
まぁツッコミどころが多いのは分かるんだよ?
俺だってこのスキル欄を見て何度、目を疑ったことか。まさかローラさんとの地獄の特訓がこんなスキルに影響するなんて思うはずもないしな。
詳しくは分からなかったが、あのエクストラクエストの前提条件となる≪歌≫≪声量≫≪音楽≫の伸びに関しては特におかしい。絶対におかしい気がする。
まあそれ以外は普通にモンスターを狩って上がったことだし、≪瞑想≫も無事にゲットして、そして思わずスキル扱いだった≪祝福の賛歌≫も手に入れてしまった。
めっちゃ嬉しい。凄い嬉しい。歓喜するほどに、嬉しい。
それは間違っちゃいない。
だけどな……?
誰がユニークスキルなんてものを取ると思ったんだよ!!!!
取得した瞬間なんてそんなことに気付かないほどに嬉しかったけど、ユニークスキルって何だよおい!
こんなのありかよ!?
いや嬉しいんだよ!?
だけど、何て言うか……フリスタを始めた初日の一花さんの話を思い出す。
――最も、このユニークスキルを習得できるのは一部のクエストなど、特殊な状況に限ります。ユニークスキルを獲得できるプレイヤーは数人にも満たない見込みなので、お気になさらずに
その数人に入ったって……ことだよな。
まぁ取ってしまったのは仕方ないか。
あの歌を歌えるならば、後悔はするまい。
それに肝心のスキル効果は大したもんでもないかもしれないしな。
とりあえず、見てみるか。
――≪祝福の賛歌≫ ユニークスキル アビリティスキル その歌を聴く者には祝福が訪れるだろう。
持続タイプのスキルで、その歌が聞こえるプレイヤーは1秒につきHPMPを除く全てのステータスが1上昇し、術者は1秒につきMP5を消費する。
MPが無くなる、もしくは術者が行動、攻撃を受けた時点で歌は止まり、その後上昇したステータスは最大一分間持続する。
歌い終えた術者は強制的に十分間状態異常沈黙になる。この沈黙は時間経過以外で絶対に解除することができない。
沈黙:全てのスキルを使用することが出来ない。
CT:一日
…………なんだ、これ。
要は発動した後周囲のプレイヤーのステータスを毎秒1上げて俺のMPを5消費するってことでいいんだよな?
俺の今のMPが410ってことは……仮に最大で82秒間歌い続けて、ステータスを82上げるってこと?そして一分間持続する、と……。
いやいや、……強すぎだろ!?
俺に行動制限が掛かるし、一日に一回しか使えないとしても、これ普通におかしいだろ!
いいのかこんなの。
……まあローラさんが教えてくれた歌だからありがたく貰うんだけどさ。
とりあえず使いどころは重要だな。それにこのスキルだけレベルが表示されてない。ユニークスキルだからか?どれだけ使おうが効果は変わらないってことでいいのかな。
なんか現実逃避したくなるが、≪祝福の賛歌≫については置いておくか。
後はレベルが上がって新しいスキルを覚えた≪歌≫と≪体術≫か。≪声量≫と≪音楽≫は武器スキルとパッシブスキルだから、普通に考えれば≪歌≫の効力がだいぶ上がったと思われる。多分。
――≪歌≫ 技能スキル
歌うことによって、様々な効果を発生させる。
レベル1 力の歌
レベル5 魔攻の歌
レベル10 守りの歌
レベル15 精神の歌
レベル20 技巧の歌
適正スキル ≪声量≫
大分歌える歌が増えたな。効果は想像通りで、守りの歌以降はそれぞれVIT、MND、DEXを上げるものだ。時間や消費MPなんかは全部力の歌と同じ。
やっぱ≪歌≫は支援向きにほかならないんだろう。
けれど一つの≪歌≫で消費MP30となると、これだけの≪歌≫を一度に掛けていくならやっぱりMPは重要か?それに≪祝福の賛歌≫のこともあるしなぁ。
≪瞑想≫を取ったとはいえ、要課題だな。
次は≪体術≫か。
――≪体術≫ 技能スキル
素手での戦いを得意とする格闘術。
レベル1 強パンチ
レベル5 強キック
レベル10 カウンター
適正武器 すで
――カウンター ≪体術≫スキル 敵の攻撃を避けつつ、相手に大打撃を与える。
対象の攻撃を避けた時に発動でき、対象へとダメージを与える。威力は術者のSTRに依存。基本値50 消費MP10
カウンターか……。俺にとってはすごい有用なスキルではあるんだが……。STR依存ってのは見逃せないな。
今後もSTRを上げる気のない俺にしたら、どうしても使い辛いスキルだ。
まぁあくまで俺のメインは≪歌≫であるから、そこまで気にする必要もないか。
雀の涙くらいのダメージならいくらでも与えられるっていうことで。
「とりあえず、スキルの確認はこんなものか。SPも7あるし、あと二つすぐに覚えられるけど今は止めとくか。……ん?」
何やら頭の中で音が鳴り響いている。
これは確か、フレンドコール。
フレンドの相手と電話をするようなもんだ。
俺のフレンドなんて数少ない。相手はだいたい掴めるが……
『よ、タクト!元気にしてるか?』
「イサナギか……」
『え!?何その残念そうな声……!』
よく分かったな。
期待していたのは兄貴だし、次にトオルさんたちだ。
イサナギだなんて微塵にも思わなかったのに。
『まあいい。その辺も含めて問い詰めてやる』
「……?」
『タクト、お前今どこにいるんだ?』
その質問は当たり前だがゲーム内のものだろう。
この時点で俺は長年の付き合いであるイサナギの考えを何となく悟ってしまう。
「あー、うん……。始まりの街だな!」
『…………』
「いや、いろいろあってだな?明日には王都へと行くつもりなんだって!」
『……いいんだ。タクトのことはだいたい分かってる……。どうせ歌使いが不遇だからソロで頑張ってるんだろうな……』
なんだ、その憐れみの声。
まあイサナギがそう思うのは無理もない。
何せこの夏休み、学生であるなら普通2~3日で王都へと辿り着けるのだ。
それなのに一週間掛かって、尚この始まりの街にいる事実。
大半はローラさんとのクエストのためであるが、それを抜きにしても確かに歌使いである俺にはなかなか難易度の高いものだった。
歌使いなんて言ったに日にはPTから敬遠されるからな。
けど、そんな歌使いだからこそ、このスキルを手に入れられたんだよ。なんだかイサナギに自慢したくなってきた。
「おい、変な想像するな。俺には俺の事情があるし、その事情を知ったお前はきっと驚くぞ?」
『なんだと?そりゃ気になるな。まあいい、タクト明日空いてるか?俺も事情があって明日は始まりの街に燻ってるお前に会いたいんだ』
「燻ってる言うな!……まあ明日の予定は何もないが」
『なら決まりだな。昼の一時に噴水広場で待ち合わせだ。ミカンも連れてくぞ』
それから一方的にイサナギはフレンドコールを切った。
ミカンも一緒ならデートでもしてやればいいのに……。
イサナギは馬鹿か?
……うん、馬鹿だったな。
スキル紹介 祝福の賛歌
――≪祝福の賛歌≫ ユニークスキル アビリティスキル その歌を聴く者には祝福が訪れるだろう。
持続タイプのスキルで、その歌が聞こえるプレイヤーは1秒につきHPMPを除く全てのステータスが1上昇し、術者は1秒につきMP5を消費する。
MPが無くなる、もしくは術者が行動、攻撃を受けた時点で歌は止まり、その後上昇したステータスは最大一分間持続する。
歌い終えた術者は強制的に十分間状態異常沈黙になる。この沈黙は時間経過以外で絶対に解除することができない。
沈黙:全てのスキルを使用することが出来ない。
CT:一日
※今後状況次第で効果が変わる可能性があります。ご了承を。




