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Carnival  作者: ハル
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フレンドと別れ

 暗転した俺の視界は一転して、気が付くと見覚えのある風景があった。

 ここは……はじまりの街の噴水広場か。

 死に戻ったのは初めてだけど、多分ここが初期のリスポーン地点なんだろう。

 しかしまさかあんな場面で死ぬとは……。もう少しだったんだけどなぁ。

 って……重ッ!身体が重すぎる!


「これが疲労か……」


 状態異常の疲労。デスペナルティの一つであるが、想像以上の辛さだ。こんなんじゃ戦いに再び行けるわけもない。ステータスも半減してるし、一時間休めってことか。


『タクトくん、無事かい!?』


 急に頭に声が響く。トオルさんの声だ。

 パーティー音声でどうやらトロスト鉱山から繋いできたようだ。パーティーはまだ解散されてない状態だから。


「なんとか、大丈夫です。初めて死んだんでちょっと戸惑ってますけど。結構疲労って重いもんなんですね」


 すごい心配してくれているようだったので、少しおどけて喋ったのだが、それが逆に彼らを心配させたようだ。


『タクトくんの馬鹿!なんで私を庇うような真似をしたのよ!私は魔法職だし、それなりに魔法攻撃には耐性はあるんだから!』

『ったくよぉ、本当にフラグ作ってどうすんだよ。せっかくの勝利が台無しじゃねぇか』

『あれはいただけない判断だな』

『……みんなが言いたいこと言ったから僕はこれ以上言わないけど……でも、無暗に庇われる身にもなるんだよ?』


 うっ……!

 一応俺なりの判断というか、咄嗟の行動だったんだけどもな。

 四人の気持ちは有難いし、反省はするとしても……多分俺はまた同じ状況になったら同じことをする気がする。


「すみません、みなさん……。でも、ボスは倒せたんですよね?なら……」

『『よくないからね!?』』

「はい……」


 そんなハモらなくてもいいじゃんか。いや俺が悪いんだけどさ?

 けど結局ボスを倒す瞬間にはいられなかったのか。

 仕方ないけど残念ではあるな。せっかくの初めてのボスだったのに。


『とにかく、今はじまりの街に急いでるから、タクトくんはそこから動かないでね』

「分かりました」


 というか動きたくない。

 噴水広場で腰を下ろしながら、何と無しに行き交うプレイヤーを眺めていた。

 慣れてきたであろうプレイヤー、二日目にしてようやく始めるプレイヤー、勧誘なんかをしてるベータプレイヤー、この街に住むNPCの住人。みんなが楽しそうな顔をしながらこの世界で生きていた。

 ただのゲームであるはずなのに、プレイヤーですらも本当にこの世界に生きる人のようだった。

 そんな人が例え生き返れるとしても、もし目の前で死んでいったら……

 そりゃ嫌だよな。

 俺は当事者で、死んでいった仲間を見たわけじゃない。けどトオルさんたちは間近で、それこそアヤナさんは目の前で俺が殺されるのを見たのだろう。

 そう思うとアヤナさんの怒りも最もか。

 悪いことしたな。でも、悔いはない。それが俺の生き方でもあるからだ。

 さて、トオルさんたちが来るまでどうするか。何もせずにジッとするのはつまらないし……こういう時はあれだな。

 歌を歌う。それに尽きる。歌っていれば、いつの間にか時間も過ぎていくしな。

 気分的にはあれだ。俺の好きな歌が浮かんできた。

 洋楽の自分の道を突き進むような歌。

 そう思って、俺はその場でゆったりと口ずさんだ。

 これは決して俺の自己満足による歌で、本当に独り言のように声を漏らして歌っただけだ。

 決して誰に聞かせたいと思ったわけでもない。

 だからこそ、声も小さいその歌はこの広場で賑わう喧噪にかき消されるはずだったのだ。


「♪I used to rule the world~」


 呟くように響く小さな俺の声。

 集中した耳には周囲の雑踏の音は聞こえない。頭の中に流れる音楽に合わせて、俺の歌だけが聞こえてくる。

 歌っている間は、こんなにも気持ちがいいことを俺は知っている。それはリアルでもゲームでも変わらない。

 そのまま一曲歌い終え、俺の耳に再び周囲の音が流れてくる。

 あれ?こんなに静かだったっけ?

 まさか時間が経ちすぎて誰もいなくなった?なわけないよな。さすがに一曲しか歌ってないし。

 そう思いながら顔を上げると、その静けさの原因は分かった。


「え……?」


 その一言でさえ、その場に響く。

 刹那、大きな拍手の音が噴水広場に生まれる。

 は?え……えッ!?何だこれ!!

 パニックの一言に尽きる。

 何せさっきまでいた大人数の人たちが、距離を取りつつも俺を取り囲むように見ていたのだから。

 鳴り止まぬ拍手の音に混ざって、ブラボーだの良かっただの、有難い声はあったんだけども……。


「俺、大きな声出してなかったよな……」


 俺の歌を聞いてくれていた聴衆の前に、一時の恥ずかしさで居た堪れなかった。

 気づかずに歌い続けていた俺が馬鹿みたいじゃないか。いやまあ、いつものことなんだけどさ。

 だが、さすがにこれはない!穴があったら入りたいくらいだ。

 周りに人がいるし、疲労もあって、逃げるに逃げれない。どうするか焦る俺に助け船は掛かった。


「ハハッ、まさかタクトくんの歌がこれほどとはね」

「トオルさん!!」


 神だ。神がここにいる。


「タクト!凄えじゃねぇか!」

「……内容はよく分からんが、いい歌だ」

「全く……会ったら散々文句言おうと思ってたのに、それも吹っ飛んだわ。まあ、困ってる顔を見たから良しとしますか」


 トオルさんの後ろからも三人が前へと出てくれた。

 どうやら思ったよりも早い到着だったようだ。

 何でもボスを倒した後はダンジョンの入口へと転移できるらしい。それなら納得だ。

 トオルさんたちが来てくれたおかげで、周囲には再び喧噪が訪れる。まだ多くの人が俺たちのことを見ているが、ここはあえて無視しよう。

 思わぬことにゲリラライブをしたようで、俺の心境としても何と言ったらいいかも分からないからだ。

 俺は逃げるように移動しながら、わざとらしくトオルさんたちに話しかけていった。







「え!?こんなにですか!?」


 一転、あれからすぐに場所を移動して街の道具屋の近くへと俺たちはやってきた。

 トオルさんから受け渡されたお金は5000Gもの大金だった。


「運よく、ボスからグレイターバットの核をドロップしたからね。ボスの核は結構高値で取引してるから十分な値段だと思うよ」

「けど、俺そんなに見合う仕事してないし……」


 ダンジョンでのドロップ品の換金の配当だった。一時間以上に及ぶダンジョンでの狩りの相場が俺には分からないが、少なくとも5000Gは初心者が貰うようなお金ではない気がする。

 正直そんな大金を貰うのは気が引ける。


「本当にそんなこと思ってるの?」

「え?」

「俺たち誰もお前のことお荷物とか思ってないぜ?むしろタクトがいなきゃ全滅してた場面もあったくらいだし」

「そうだな。自分を卑下するな」

「…………はい」


 叱られてしまった。

 最後に死んでしまった負い目もあったのだが、トオルさんたちは誰もそんなこと気にしないでくれた。

 めちゃくちゃ嬉しいじゃんかよ。


「貰ってくれるよね?僕たちは今日タクトくんと知り合えてパーティーを組んで良かったって思ってるよ」

「トオルさん……ありがとうございます!」


 改めて、その大金のトレードを承認した。

 最も5000Gとなれば、王都の方へ行けばそれなりに稼げる額ではあるだろう。

 けれど今の俺にとっては大金に違いない。ポーション類もたくさん買えるしな。


「僕たちはレベル10になったし、これから王都へと行くけどタクトくんはどうするの?もし良ければ街道のボスを倒すのにも協力するよ」


 そしてまさかの嬉しいお誘いだった。

 フィールドボスはダンジョンボスと違って一度倒せば二度と現れない。けれどパーティーに一人でも倒したことのないメンバーがいれば、再び戦うことが出来るのだ。逆にダンジョンボスの場合は一人でも倒したメンバーがいると現れない。

 きっとトオルさんたちと行けばそのボスは楽に倒せて、王都への道も拓けるのだろう。

 だけど……それじゃ、つまらないよな。

 どうせなら自分の、自分たちの手で倒したいって思うから。


「俺は、もう少しレベルを上げてから堂々と挑みますよ。嬉しい誘いですけど、今回は……」


 せっかく俺を認めてくれた人たちだったけれど、仕方がない。

 それにトオルさんたちはリア友の仲間で、そこに俺が加わるのもちょっと申し訳なく思うとこがあるのもあった。

 彼らも俺の答えを予想していたのだろう。


「うん。タクトくんならそう言うと思ったよ」

「残念ね。タクトくんなら上手くやっていけそうな気はしたけど」

「無理言うな。タクトの意志の方が大事だ」

「タクトがいたらもっと面白いと思ったんだけどな。ま、しょうがないな。こればっかりは」


 嬉しかった。みんながそう思ってくれたことが。


「それにこれっきりってわけじゃないしね」

「え?」

「タクトくんがもっと強くなって、自信を持てるようになったらまた一緒にパーティーを組もうよ。それまで僕たちも研鑽していくから」

「トオルさん……。俺みたいな歌使いでもですか?」

「今更だろ、そんなこと!?」

「最初は良くないイメージだったけどね。でも私たちは誰も気にしないよ」

「そもそも情報だけに踊らされるのもな」


 馬鹿だな、俺は。

 歌使いが不遇なんて評判に、一番左右されていたのは俺なのかもしれない。

 自由な冒険。

 それこそが、このゲームの醍醐味なのに。


「そう、ですよね。みなさん、ありがとうございました!俺、みなさんとパーティーを組めて本当に良かったです!」

「こちらこそ。またいつか会おうね」

「はい!」

「じゃあな、タクト!」

「バイバイ」

「またな」


 出会いがあれば、もちろん別れもある。

 VRMMOらしい体験をしながらも、俺の初めてのパーティーは解散を告げた。

 トオルさんたちとはフレンド登録を交わしながらも、別れることになったのだ。


ダンジョン情報 トロスト鉱山


始まりの街の住民が発見した鉱山。昔は炭鉱夫が稼ぎに出ていたが、一年と経たずに鉱山は掘りつくされて放置された。そこに魔物が住むようになり、今では冒険者の体のいい狩場になってしまう。

出現モンスター:バット、ゴブリン、スライム、タランチュラ、【BOSS】闇夜のグレイターバット


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