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Carnival  作者: ハル
13/68

ギルドと二つ名

「いやー、まさかタクトが≪体術≫なんて取ってるとは思わなかったな」

「敵を一体でも持ってくれるならダンジョンでは大いに助かるな」

「うんうん、さすがに超音波の時には焦ったけどね」

「でも、歌使いは正直あんまりいいイメージなかったけど、どうやらタクトくんは別のようだね」


 なんだか有難い言葉を受けながら俺たちはやっとB2Fまで来ていた。

 一個訂正するなら認めれたのは≪歌≫でなく、≪体術≫の方みたいだが。別に秘密にしていたわけじゃないが≪体術≫スキルはどうやら想像以上に四人を驚かせたようだった。

 カナメさんに関してはよく取ったもんだと深く感心していた。やっぱりマイナーなスキルのようだ。

 道中でもスライムやゴブリンといったモンスターに襲われながら着実と歩みを進めていく。

 いつの間にか俺のプレイヤーレベルも7まで上がっていた。トオルさんたちはどうやら9まで上がったようだ。

 MPを多く消費するたびに度々回復のために休憩は行われたが、俺がMPがなくなる頃にはアヤナさんのMPも結構低いらしく、どうやら普通のペースらしい。

 やっぱり最初にMPを上げてよかったってとこだな。


「……早速敵だ。混合だな」


 グイナスさんが合図をして前方にモンスターの群れを見つけた。

 スライムが二体、ゴブリンが三体、奥にタランチュラが一体か。

 今までで一番多い。


「さすがにB2Fになると強くなっていくみたいだね」

「まあでも楽勝だろ?」

「そこ、油断しないの!」


 少し焦ったのは俺だけみたいだ。

 トオルさんたちには苦でもないってことかな。


「対処は今までと一緒かな。グイナスがゴブリン三体とタランチュラのヘイトを取って。タクトくんは攻撃力の少ないスライム二体をお願い」

「はい!」

「スライムには僕の魔法は相性が悪い。だからまずはカナメと僕でゴブリンから倒して数を減らしていく。その後にスライムで、最後は一番レベルの高いタランチュラにしよう。それじゃ行くよ」


 作戦の合図と共に俺は歌を二種類掛けた。アヤナさんとグイナスさんもそれぞれバイタリティとシールドを掛け、そこに更にトオルさんも魔法を唱える。


「アクアベール!」


 グイナスさんの前に水の膜が覆われて防御力が上昇する魔法だ。

 この三つのバフ。一見同じ効果で重複しないように思われるが、そうではない。

 バイタリティはステータスのVITを上げる≪付与魔法≫で、シールドは被ダメージを抑える≪盾術≫。そしてアクアベールはVITを元にした装備なども含めた全体の防御力であるDEFを上げる≪水魔法≫なのだ。

 なんかズルい。

 さておき、俺は俺の仕事をするか。


「強パンチ!強キック!」


 二体のスライムにそれぞれ技を使ってヘイトを取る。

 モンスターにはそれぞれ種族と属性が設定されていて、スライムは魔法生物の種族に水属性だ。そして魔法生物であるスライムには魔法が効きにくい性質がある。更に言えば水属性だとトオルさんの持つ≪火魔法≫も≪水魔法≫も威力が落ちてしまう。

 最も防御力も高くて物理攻撃もそんなに効きがいいわけじゃないんだけど。その分攻撃力とHPが低いらしいが。

 スライムの攻撃は粘液を飛ばしてくるものと、跳躍しての体当たりだったな。さっきも二体のヘイトを取って戦ったが、被弾が多くてアヤナさんに負担がかかったはずだ。

 倒すことは目的じゃない。時間を稼いでればいいんだ。

 スライムの動向からは目を離さない。

 さっきは一体に攻撃したら横からもう一体の攻撃を喰らったので、こっちからは動かない。焦れたのか、スライムから動き出した。

 あれは粘液だな。

 意外にも素早い攻撃だが、注意してみれば避けることは簡単だ。

 二体のスライムが同時に粘液の予備動作を構える。まだまだ低レベルのモンスターたちが連携をしてくることはない。横に避けて、硬直しているスライムに強キックをかます。

 ネチョリ。とした感覚が足を包む。


「うげー。スライムはさすがになぁ」


 これが≪体術≫のデメリットと言われるのも理解できる。

 俺のダメージは微々たるものだが、こちらも被弾はない。

 そのまま時間が経過して三分間経ち、≪歌≫の効果が切れる。

 トオルさんたちの戦況を見ると、あと少しでゴブリンが全部倒されるところだった。

 よし、掛け直しだな。


「力の歌!魔攻の歌!」


 再び歌を掛け直すが、今度は俺の硬直に一度だけスライムからの攻撃を喰らってしまった。

 馬鹿か、俺は。タイミングってもんがあるだろうに。

 自省しながらも、これからは次に活かせばいいだろう。


「待たせたな、タクト!」

「ごめん少し手間取った」

「大丈夫です!」


 二人がようやく駆けつけてくれ、俺たちは三人がかりでスライムをすぐに殲滅していく。

 トオルさんの魔法が効きにくい分、時間は掛かったが特に問題はなく倒せた。

 後はタランチュラだけだ。

 グイナスさんが奴の吐く糸に苦戦しているが、レベルが高いといっても一対五であればもう楽勝だろう。それにタランチュラは土属性なので火の効果は高い。

 B2Fでの初めの戦闘もどうやら難なく終わった。







「ようやくレストエリアだね」

「ハァ、結構疲れるもんだな、ダンジョンってのは」

「そうね。やっぱり四人だけで来るのもちょっと無謀だったかも」

「いい機会にはなったと思う。街道のボスを倒したからといって慢心するなってことだ」


 息の合う四人に俺は初めてのレストエリアを前に感心していた。

 レストエリアとはダンジョンの中やフィールドの道中にもあるモンスターが寄り付かないエリアのことだ。ここならMP回復なども安全に回復することが出来るし、フィールドでは出来ないスキルの付け替えもレストエリアでは可能だ。

 ここではボス目前のレストエリアでもあった。奥にはオーロラのような揺れが境界線のように敷かれている。それを踏み込むとパーティー単位のインスタンスフィールドに移動するらしい。

 ちなみに色は赤で、これはモンスターの色と一緒でレベルが5以上離れてるってことだ。逆にトオルさんたちにとっては黄色に見えるらしい。


「休憩がてら、ここで休もうか。レベルも上がったし、BPも振っておこう。それに僕は≪杖≫がレベル10になったから新しいスキルも一つ覚えられるよ。多分三人もそうじゃないかな?」

「お、マジだ!」


 おぉ、それはいいことじゃんか。そういや俺もレベル7になったから新しいスキルを覚えられるな。BPもまだ振ってないし。

 どうやら今のMPならそこまで重枷にはならないみたいだし、≪瞑想≫は後回しでいいかな。≪音楽≫にしよう。

 ステータスはやっぱりSTRよりAGIを伸ばしていく傾向で。CHMを優先的に上げてっと……。


レベル:7


HP 160/160

MP 320/360

STR 7

INT 7

DEX 7

VIT 7

MND 7

AGI 27 

LUk 7

CHM 37+7 


BP:0


≪歌Lv8≫≪声量Lv8≫≪魅力増加Lv7≫≪体術Lv7≫≪音楽Lv1≫


SP:0


 思いの外≪体術≫の上がりがいいな。まぁこんなもんか?

 それにしても今日の戦いは参考になった。ホントにトオルさんたちには感謝しなきゃ。まさかこんな早い段階でパーティー組めるなんて思いもしなかったし。


「しっかしタクトのプレイヤースキルには驚いたな」

「え?」


 いきなりカナメさんが話を振ってくる。プレイヤースキルなんて俺にはそんなに備わってないと思うんだけど。

 けれど突然の発言にまさかの他の三人も同調していた。


「そうだね。特に回避系のスキルを持ってないのにあれだけ避けれるんだから」

「モンスターの動きを見てるだけですよ?それに合わせて動いてるだけですから」

「あのねぇタクトくん。それが普通は難しいのよ?だいたいあんな醜いゴブリンを直視し続けることなんて無理よ」


 それは別なんじゃないか?と思ったが口には出さない。まあ言いたいことも分かるし。確かにゴブリンは醜いもんな。


「タンクの素質があるかもな。普通超音波なんて避けられないぞ?」

「お、グイナスからのお墨付きじゃん!どうだタクト、これを機に回避盾にでも転向したら?」

「嫌ですよ、俺は歌使いですって」


 冗談なんだろうが、笑えない。

 しかし回避盾か。今日はどっちかっていうとそっちの働きだったもんな。アヤナさんが≪付与魔法≫を使っていれば俺の≪歌≫に出番はなかったろうし。

 むしろ次のボスこそ、そんな動きになるのか。


「悪い悪い。なんかタクトが弟みたいに思えてきてな」

「あ、分かる。私も弟欲しかったんだよね」

「……俺の弟はタクトみたいに素直じゃないな」

「グイナスの弟は生意気なんだよな。俺のこと呼び捨てにしてくるし」


 うーん、薄々思っていたが、やっぱりこの四人はリアルでも知り合いみたいだな。見た感じ大学生くらいだと思うけど。

 しかしカナメさんが兄か……。

 うん、ないな。悪いけどないな。

 兄貴のが断然いいし。


「残念ながらカナメさんは俺の兄貴とは真逆ですかね」

「なんだとー!?」

「あら、残念。振られたわね、カナメ」


 ちょっと本気で落ち込んでない?

 まあアヤナさんが面白くつついているから別にいいのだろう。


「タクトくんも兄がいるんだね。僕も弟の立場だから一緒だね」

「で、どんな兄貴なんだ?俺の真逆ってことは……そうか、イケメンじゃないってことだな?」

「は?兄貴のが百倍イケメンですけど」


 カナメさんが余りにも馬鹿なことを言うからついつい言ってしまった。

 まあ事実だし。

 別にカナメさんをディスってるわけじゃなく、カナメさんも見ようによっちゃイケメンとも言えなくはないが。


「冷たいな、タクト……。今のは効いたぜ」

「いえ、俺こそすみません」

「謝らなくていいのよ。カナメが悪いんだから」

「でもタクトくんはお兄さんのことが結構好きみたいだね」


 トオルさんもさりげにつついてきたな。

 事実だが、人からそう指摘されると反応に困る。

 そういやイサナギにもよく揶揄われてたっけ。


「普通ですよ、普通。それに兄貴もフリスタやってますし、もしかしたらみなさんも知ってるかもしれないですね」


 いやどうだろう?まだ二日目だからな。

 俺の耳に兄貴の存在が聞こえてくることはないから、知らないか。


「そうなのか!?どんなプレイヤーだ?」


 なんかカナメさんの食い気味な姿勢に引くが、別に隠してるわけでもないからいいか。


「サクっていう名前で、双剣使いのスタイルですよ。知ってます?」


 これだけじゃ分からないよなぁ。さすがにこんなとこで容姿まで話すわけにもいかないし。でも双剣って確か初期スキルにはなかったから、スタイルとしては珍しい方だと思われる。

 しかしカナメさんだけでなく、四人ともが驚愕した顔を浮かべていた。

 ん?


「お!おま!双剣使いのサクって、【閃影】のことか!?」

「それしかいないじゃない!双剣使い自体いないのよ!?」

「陽炎の【閃影】……」

「うーん、トッププレイヤー中のトッププレイヤーだもんなぁ……」


 え?え?閃影?

 何この反応。思ってたのと全然違いすぎるし。

 しかもトップ中のトップって何だよ。そんなこと聞いてないぞ!


「えっと……【閃影】って何ですか?」

「は?知らないのか、お前。サクさんの二つ名だよ。掲示板じゃ有名だぞ!」

「兄の知名度を知らないなんて……末恐ろしいわ、タクトくん!」


 なるほど、掲示板か。

 どうりで俺が情報に疎いわけだ。

 まさか兄貴がそんな有名人だっとは。


「ちなみに陽炎ってのは?」

「【閃影】の所属するギルドだ。影響力のある三大ギルドの一つだな」


 三、大、ギルド……?

 俺そんなとこに勧誘されたのかよ。


「陽炎、自由騎士団、グローリア。この三つが三大ギルドって呼ばれてるんだよ」

「特に強いのがグローリアだな。攻略最前線に常にいるわけだし」

「グローリアの中でも最強なパーティーがいてね。私たちその人たちに憧れてるんだ」

「いつかは近づきたいからね」


 まさか四人に憧れのプレイヤーがいるとは。なんか意外だった。


「特に私が憧れてるミカンちゃんなんて【清廉の光姫】なんて呼ばれてて、フリスタの三大アイドルにも選ばれてるのよ!?もちろん掲示板の非公式だけどね」

「俺の憧れは【竜騎士】のランスさんだな!俺もいつかあんなカッコイイ槍使いになりたいぜ!」

「【鉄壁の守護神】イサナギのタンクの技術は凄いな。俺も見習うところが多い」

「憧れで言うなら僕は【破天荒】のライガさんだね。フリスタの中でも最強と呼び声高いプレイヤーだよ。スタイルとしては全く違うけどね」


 ん?気のせいか、知った名前が二つあった気がしたんだけど。

 気のせい、だよな……?


「しっかしタクトがまさか【閃影】の弟だったとはなぁ。グローリアの関係者だったらランスさんたちを紹介してもらおうと思ったのにな」

「こら、カナメ」


 うん。四人にはお世話になったけど、イサナギとミカンのことは秘密にしておこう。


「でもそれをあの時酒場で言ってたらあの男も顔真っ青よね」

「あー、そんなこともあったな。そりゃ【閃影】とファングなんかの【紅の牙】と比べたら天と地の差だな」

「それは言い過ぎだが、【閃影】の影響力の方が遥かに高いな」


 兄貴の評価がどうやら高いようなのでそれは嬉しいのだが、ファングとやらにいいイメージをみんなが持っていないようだった。それがちょっと気になる。

 トオルさんがそれに気づいたようで、簡単に説明してくれる。


「さっき言った三大ギルドと対比してね、悪の三大ギルドって呼ばれるとこがあって、ファングがその一つなんだよ。グローリアと並んで前線の攻略ギルドなんだけど、そのマナーに問題があってね」

「要はノーマナー集団のギルドだよ。タクトも出会ったら気を付けろよ」


 確かにあの酒場の男もノーマナーだったもんな。兄弟だからって一括りにすべきではないが、そんなとこに所属してる奴の弟となると何だか納得してしまった。


「ファングの他には白夜とキングダムね。どっちもPKギルドだから出会ったら気を付けてね」

「PKギルドなんてものもあるんですか……。でも二つも?」

「そうだね。何でも白夜のメンバーはPKをスタイルとしたロールプレイなんだ。PKが出来ない街中では普通のプレイヤーと何ら変わりはないんだよ。逆にキングダムはPKは勿論、街中でもPvを申し込んできたり、総じて横柄な態度のプレイヤーが多い。フィールドでも一人に対してパーティーで確実に狙ってくるからね。悪質な意味ではキングダムが断トツだよ」


 何だそりゃ。恐ろしいな。言われなくても、絶対に関わりたくはない。


「さて、話もこれくらいにしてそろそろボスに行こうか」


 おっと、どうやら話し込んでしまったようだ。

 すでにHPMPも全快。

 トオルさんの言葉をきっかけに、緩やかだった雰囲気は急に引き締まる。

 さすがリーダーだ。


キャラクター紹介 アヤナ

性別:女

身長:159cm

レベル:9

スタイル:ヒーラー

スキル:≪回復魔法≫≪杖≫≪魔力増加≫≪付与魔法≫≪瞑想≫≪光魔法≫



始まりの街の酒場で出会った女性。トオルをリーダーとするPTの一員で、パーティーの生命線を保つヒーラー。明るい性格で、仲間のカナメに対してよく鋭い言葉を放つ。

可愛いものに目がなく、彼女にとっては同性の可愛い年下がアイドル対象になる。



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