ダンジョンとパーティー戦闘
鉱山ダンジョン。正式名称はトロスト鉱山という。
始まりの街を北に進むとトロスト広野が広がっており、更に遠く先には雄大な山が見えた。このトロスト広野の西の方にトロスト鉱山はある。
道中のモンスターはなるべく無視して俺たち五人はそこへと向かった。
パーティー構成はタンクのグイナスさん、ヒーラーのアヤナさん、アタッカーのカナメさんとトオルさん、そして支援の俺だ。アヤナさんは≪付与魔法≫を取っており、いつもなら支援も兼ねていたが、今回は俺のレベル上げも兼ねて譲ってくれた。ただし最終の目的地であるボスに関しては別だ。
それは仕方がない。力の歌とストレングスでは結構な差があるしな。
まさかボスの討伐が目的だったなんて知らなかった俺は、あの後入念に準備を整えた。
クエストで得たお金でまずは防具を布製に一新。あとはポーションをいくつか買った。
初めてのパーティーにダンジョンだ。何があるかもわからないし。
「みんな準備は良い?」
トオルさんたちにとってもダンジョンは初めてらしいので若干緊張が見えた。
フィールドとダンジョンは大きく違う。
まずモンスターがパーティー単位で動いていることだ。一体はぐれていることもあるが、基本は二体以上で群れを成して動いているので、必然的にパーティー対パーティーとなる。なのでダンジョンは基本的に六人のフルパーティー推奨だ。
そしてダンジョン内でプレイヤーが死亡すると即死に戻りとなる。通常フィールドでパーティーを組んだ場合に死ぬと、その場で動けなくなるが蘇生可能な猶予がある。けれどダンジョンでは一人死んだだけで一気に劣勢へと覆るのだ。最も、今の俺たちみたいな低レベルには蘇生手段がないのであまり意味をなさない。
後はボスの存在だ。ダンジョンには必ずボスが存在する。倒せばお金や装備品を落とすので、それを目当てとするプレイヤーには恰好な狩場なのだ。ボスの存在はプレイヤー準拠で一日でリポップする。その日に倒したらもうその日にボスは出ないし、パーティーの中に一人でもボスを倒した人がいればボスは出てこない。
そんなことからダンジョンはフィールドよりも人気のある狩場なのだ。後は時間も関係しないことがあるか。夜になってもダンジョン毎の明暗は変わらないから。
「それじゃ進むよ。グイナスを先頭に、ここは薄暗いから周りに注意して」
事前にトオルさんから聞いた情報だとこのトロスト鉱山にいるモンスターはバット、ゴブリン、スライム、タランチュラの四種類。広さはB2Fまでで大して広くはないダンジョンだ。
少し歩いた後、グイナスさんがモンスターを発見したのか、手を上げて警戒態勢を敷いた。
「敵は?」
「バットの群れだ」
「なら楽勝だな」
「油断しないで、カナメ。今までと違って敵は複数なんだ」
「おう!」
分かってるのか分かってないのか。カナメさんは猪突猛進のようなタイプだった。
グイナスさんが戦闘をきってバットへと攻撃していき、戦闘が開始した。バットの数は五体だ。
「力の歌、魔攻の歌!」
微弱でありながらも、俺は≪歌≫を掛ける。ここへ来る前に一度力の歌を掛けたが、やはり今の段階では効果は微妙だとトオルさんたちは揃って苦笑していた。
それでもアヤナさんの≪付与魔法≫のレベルはまだ7。覚えているスキルはストレングスとバイタリティの二つで魔力を上げる物はないという。微弱ながらもトオルさんの魔力を上げるのにはちょっとだけども貢献しているようだ。
「バイタリティ!」
「シールド!」
アヤナさんの≪付与魔法≫バイタリティとグイナスさんの≪盾術≫シールドがそれぞれ使われた。
防御力を上げたグイナスさんがバットの群れに突っ込んでいく。まず多くのヘイトを稼がなければならない。そのためにアタッカーの二人はまだ大きな技は使えない。
「やっぱ多数相手はやり辛いな!」
「そうだね。特にグイナスが≪ヘイト≫のウォークライを覚えない限りはどうしてもね」
「ひとまずは各個撃破しましょう!」
≪ヘイト≫スキルの挑発を使い、グイナスさんがなんとかバットの三体を受け止めている。ダメージは微々たるものだ。
もう二体はアタッカーのカナメさんに向かっている。
「スラスト!」
≪槍術≫の技を使いながら牽制していくが、カナメさんはアタッカーだ。敵を持っていては力も発揮できないはず。
なら、俺のやれることは一つしかない。
歌だけ掛けて、後ろから見てるなんて俺には無理だ。
「強パンチ!」
カナメさんの周りで素早い動きで飛び回るバットに俺は≪体術≫スキルを当てた。ダメージは二割ぐらいだ。
強パンチでこれか。防御力でいえば、トードと大して変わらないかな?
攻撃を当てたバットはターゲットをカナメさんから俺へと変える。
「タクト!?」
俺が前に出たのか、四人ともが驚いて俺を見る。
そういえば≪体術≫については何も言ってなかったな。
「大丈夫です!一体くらいなら何とかなります!」
そうだ。倒す必要はない。避けて時間を稼げば問題はない。けれど反撃は忘れない。
カナメさんとトオルさんはまずカナメさんに張り付くバットの殲滅に当たった。アヤナさんはグイナスさんの回復に努めている。
なら俺の仕事はここでこのバットをひきつけておくことだろう。
再び強パンチを仕掛けて、バットのHPバーを削る。
僅かに震えたバットは身体を震わせ、口元を揺らした。
「……ッ!?」
一瞬何が起こったか分からなかったが、俺のHPは半分削れていた。
多分超音波的な攻撃か。バット、もとい蝙蝠の生態を思い出す。
「ヒール!」
あと一度だけでも喰らえばお終いだと焦ったが、すぐに俺へとアヤナさんから回復が飛んできた。
「ありがとうございます!」
「気を付けろ!バットの超音波は不可視だ!」
近くに立つグイナスさんから有難い助言も受ける。
見えないなら予備動作を見切ればいいのだろう。
グイナスさんをチラッと見れば盾を駆使してバット三体の猛攻をしのいでいる。
あんな芸当俺には絶対無理だ。
「強パンチ!」
再びバットに攻撃を仕掛けながらも、俺はバットを警戒していた。
バットが動く。体当たりだ。
軽く避けながらも、カウンターとばかりに攻撃したがヒラリと避けられた。
そのままバットは俺の頭上で飛び回っている。
跳躍しなければ攻撃は当たらない。飛行系のモンスターがここまで厄介だとは。
睨み合っていた俺たちだったが、先に動いたのはバットの方だ。口元を震わせていた。
超音波だ!
意識を耳から遠ざけ、目の前のバットだけを集中して見た。バットの攻撃と共に、その場をバットへと近づいてくように離れてそのまま跳んで強パンチを当てる。
揺らぐバットであったが当たりは浅かったようだ。そのまま俺の首へと牙を噛みたてる。
「ぐっ……!」
超音波よりはダメージの低い攻撃。けれどバットのHPが僅かに回復していた。
吸血か!
無理矢理バットを離して距離を取る。
その瞬間に、横から槍が飛び出してきた。
「スラスト!!」
カナメさんだ。そして直後にバットに炎が当たる。
「ファイアーボール!」
トオルさんの火魔法が見事に当たり、バットはその場で消滅していく。
「カナメさん、トオルさん!」
助かったとばかりに俺は二人へと視線を向ける。
「タクトォ!何だお前は!歌使いとか言ってたくせに平気でバット一体持ちやがって!」
「ちょっ!痛い痛い!」
「凄いね、タクトくん。おかげでこっちも楽に戦えたよ」
カナメさんがグリグリと俺の頭を攻撃していく。
いやホント、痛いから。
「三人とも、終わったならこっちを手伝って!」
おっと。ふざけている暇なんてなかった。
バット三体を相手にしていたグイナスさんだったが、すでに二体へと減っていた。多分アヤナさんと二人だけでも勝てるのであろうが、談笑していた俺たちに苛立ったのだと思う。
それからはトオルさんの魔法とカナメさんの槍術で難なく初戦は終わった。
キャラクター紹介 カナメ
性別:男
身長:178cm
スタイル:槍使い
レベル:8
スキル:≪槍術≫≪槍≫≪力増加≫≪両手持ち≫≪猛攻≫
始まりの街の酒場で出会った男。トオルをリーダーとするパーティーの一員で、猪突猛進の先走りするタイプ。憧れのプレイヤーがおり、その男に並び立つことが目標である。
タクトを弟のように可愛がっている。




