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数週間前までの隣国との戦の跡が未だ色濃く残る街々を、アルベニハ王国の旗がさされた豪勢な馬車が数台に渡って走りゆく
その馬車の中から焼け落ちた民家や破壊された教会などに視線を向けるナタリアッサ
通常であれば侍女らが同乗するものだが、今回はナタリアッサが一人で乗っていた
ナタリアッサの乗る馬車を囲むように走る他の馬車にも侍女はいない
全て王城より派遣され、隣国までナタリアッサを連れていく騎士達のみであった
ナタリアッサの面倒を幼き頃からみていた侍女頭はナタリアッサについて行くと言ってきかなかったが、ナタリアッサ自身がそれを絶対に許さなかったのだ
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「だめよ。ミーシャ。絶対にわたくしは誰も連れていかないわ。どうせ隣国についたらそのまま処されるのですもの。隣国で生活をすることもないのだから困ることもないわ」
まるで冗談を囁くかのように軽く笑いながらナタリアッサが告げた言葉にミーシャと呼ばれた侍女頭は思わず泣き崩れた
「うああああ・・・・っ!!!なぜ、なぜ、、、っお嬢様が・・・っ!」
周りの侍女らが慌ててミーシャの元に寄り、慰めるかのように背を撫でる
「ミーシャ、ありがとう。でもね、国の為に身を挺すことが貴族の務めよ。王の身代わりになれるのは、王と同じ血を引くものだけという隣国の申し出に敗戦国であるアルベニハ王国が逆らうことはできないわ。それに王の首と断定されなかっただけまだ恩情を得たと捉えるべきよ。王位継承順を考えると最下位である私が隣国へ出向くのは正しきこと・・・・だからね、ミーシャ。私は何も不満はないのよ。」
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馬車に揺られながらそんな自分の言葉を思い出したナタリアッサは、その後自分が発した我が儘にミーシャらが唖然となったことも思い出し、笑みを零す。
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「・・・まさか 何を仰っているのです お嬢様」
「あら 何も不思議なことではないでしょう?愛しき男の腕に抱かれる夢を叶えたいだけだもの。私は死ぬ為にこの国を去るのだから、この身が純潔でなくても何も問題ないわ。でもミーシャ達には迷惑をかけてしまうわね。ことが公になったとしても、お父様なら理解して大事にならぬよう上手く収めて下さるでしょうけど念の為に私の我儘だとお手紙を残すことにするわね。」
純粋な何のいやらしさもない澄んだ瞳を煌めかし、一人の男に恋焦がれる一人の女としてナタリアッサは己の最後の願いを語った。
ナタリアッサには普通の貴族の常識である“婚儀前の男女の在り方”がもう関係ないのだとミーシャらは改めて認識し悲しみに襲われた。何とか涙を堪えそして手紙などなくとも協力すると返答するが、その後付け加えられたナタリアッサの願いについに涙を流す。
「私のあとを決して追わせないで。彼を絶対に死なせないでね。何がなんでも生きて、どなたか可愛らしくてライオネルを心から愛す方と幸せになるようにライオネルを導いてあげてね」
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ガタガタと音をたて揺れる馬車。
確実にナタリアッサの命の終わりは近づいていた。
「・・・ライオネルは大人しく捕まっているかしら。ミーシャ達はもう泣いていないかしら」
穏やかな笑みを浮かべるナタリアッサは、ただひたすらアルベニハ王国にいる皆を思うのであった。




