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「貴方が好きよ。とても好き。本当に大好きなの。ずっとずっと・・・愛してるわ」
まるで小説の世界だと思った
月明かりの光が溶け込むバルコニー
美しい金色の髪を夜風に弄ばれながら佇む彼女
闇夜と同じ色を宿す彼女の瞳に月明かりが反射し、その瞳からとめどなく涙が流れていくのを浮き彫りにしている
泣きながらも、危うさすら感じるほどに美しいほほ笑みを浮かべる彼女
彼女の形良い唇から零れ出す俺を酔わす言葉たち
「覚えていて?今この瞬間がわたくしの全て・・・」
彼女は何の躊躇もなく、細かくレースが施された真っ白い薄手の夜着に手をかけ脱ぎ捨てた
神々しいまでに美しく平伏したくなるような圧倒的な美
その身を隠すものが何もない状態で呆然とする俺の元に歩みを寄せる彼女
「・・・愛しているわ。どうか、今宵は私を貴方のものに・・・」
華奢な腕がそっとのびてくる
彼女の細い指先が俺の頬に軽く触れる
真っ直ぐに自分を見つめる涙に濡れた彼女の瞳
「・・・何故ですか。お嬢様・・・・私は只の」
湧いて溢れるかのごとく蠢く歓喜に警告音が鳴り響く
必死につむぎ合わせた制止の言葉を遮るように突如彼女がその身を俺に寄せてきた
しがみつくかのように抱きついてきた彼女から流れてきた甘い香りに頭が朦朧とする
「身分など人を愛することの前には何の壁にもならないわ。幼い頃から私はずっと貴方が好きよ・・・・ライオネル・・・」
俺の名前をまるで宝物であるかのように愛しげに囁く彼女に、思わず舌打ちが漏れた
「・・・・どうなってもしらないからな」
声音を作ることなく低く発した俺の言葉にも、初めて見せた不敬な態度にも、彼女は何の拒否反応を示さなかったばかりか、嬉しそうにクスクスと笑う
「侍従の仮面を外した貴方を私にも見せてくれることをずっと願ってたの。」
その言葉が引き金となった
「・・・・っ、くそっ」
己の行動を自覚する前に、押し寄せる欲望の波に身を任せた俺は、彼女の唇を荒々しく奪っていた
「・・・!んっ、、!・・・っふ・・・ぁ」
1人の美しい男が、己の腕に抱いた美しい女を、そっと寝台におろした
男は女に言葉をかけることなく、女の身を食い尽くすかのように奪い抱いた
その男の表情は蕩けるかのように甘く、その女への愛情に溢れていたが、瞳には消えることのない哀しみを宿している
水音と女の快楽をのせた声が月明かりが照らすバルコニーに漏れだすが、それに気づく人間は誰もいなかった
アルベニハ王国 国王の弟、現スベリア公爵当主、ナルアム・スベリアの愛娘、ナタリアッサ・スベリア
それがその女の身分であり、本来であればその男・・・平民の生まれであるがその容姿の良さと、能力の高さから出世をし、貴族社会の最上位であるスベリア公爵家の侍従にまで成り上がったライオネル・・・とは、決して床を共にするようなことはないはずであった
そもそもこのように二人きりになることなど決してありえないのである。それはナタリアッサの周りには最低3人の護衛や侍女が仕えているからだ
だが、今まで決して我が儘など言わなかったナタリアッサが最後の最後に発した悲しき願いに、ナタリアッサの専属侍女や護衛たちが職を失う覚悟で頷き、協力をしこの時を迎えたのである
何かを恐れるかのようにナタリアッサを抱くライオネルと、そんなライオネルの愛撫に溺れるナタリアッサの2人はやがて静かに夢の世界へと意識を飛ばした
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(完結まで予約投稿設定済。)




