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冥界葬送  作者: 白羽
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序章


──時は戦国時代。


夕焼けの名残を残しつつある空の下、鬱蒼とした林に紛れる漆黒の髪がそよ風に揺れていた。


「………」


その持ち主の女はそわそわと落ち着きがなく、何度も右に左にと髪を揺らしている。それは何かから隠れているようにも、何かを探しているようにも見えた。

女はしばらく心を落ち着かせる事が出来ず、木の影で手を重ね合わせて一つ深呼吸…胸から飛び出てきそうなほど踊る心を何とか落ち着かせようとしていた。


遠くから、軽く早い息遣いと足音が迫ってくる。林の間を通り抜ける風に乗って、その音は女の耳にも届いた。


「あっ…」


女は照れくさそうに顔を赤らめ、控えめに木陰から顔だけをちょこんとのぞかせる。足音の持ち主は女のその姿を確かめると、軽く手を挙げ更に足音を早めた。


「申し訳ない、姫…お待たせしてしまいましたね」

「い、いいえ!私も今来たところですから…」


2人の目があい、女は頬を赤らめ恥ずかしさからか俯いてしまう。

そんな2人の様子を、夕暮れの空と黒緑の木々たち、そしてもう一つの影が見守る。


林の中を寄り添い歩きながら、ゆっくりと時が過ぎていく。

辺りには2人の密かな話し声と風が吹き抜ける音。このまま時が止まってしまえば良いのに、と思えるほどの幸せな時。迫る足音に気づくのは木々たちだけであった。


「今日はどんな事がありましたの?」


その応えが、返ってくる事はなかった。

笑顔で振り返ったその先には、黒緑であったはずの景色が赤黒く染まっており、白銅色に輝く刃先から真っ赤なしずくが滴っていた。


「…ぁ………」


女は鈍器の様なもので殴られたような頭が真っ白になる感覚に襲われた。顔は血の気を無くし蒼白になり、唇は細かく刻んでいる。

やっと事態を飲み込めたその時には、既に刃が男の身体から引き抜かれ、返り血を浴びた謎の影が、刃をこちらに向けて走りかかっている時だった。


(私は……ばちあたりな事をしてしまったのでしょうか)


女の瞳に走馬灯がよぎる。城でお雛様の様にただ座っているだけの自分の姿。そんな自分がいつも笑顔で居られたこの林。愛する人とのささやかなひと時。私を心の底から愛してくれていると信じられた唯一の人。他愛もない話一つ一つが夢のような時間……。


そんな走馬灯も、自らの胸を貫く鋭い痛みによって、最後まで見ることなく遮られてしまった。

勢いよく刃が引き抜かれ、全身の身体がふっと抜けて崩れ落ちる。


瞼の上に鉛でも乗せられたかのようにひどく重く、なす術もなく視界が閉ざされる。力を無くした瞳から一筋の光が零れ落ちてしまう。女の最期の時までも、男の姿を捉える事はついに出来なかった。


刃の持ち主の影は、そのまま鮮血に濡れた刃を女の喉元に貫き、涙に濡れた女の頭部を包み、足音とともに影は遠ざかっていった。

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