高一・一学期 5
オリエンテーションの内容についてはとりたてて目新しいところもなかった。しいて言えば、みな羊のように大人しく、教師たちにつっかかったりもせず、みなぼんやりと言うことを聞いていた、という程度だろうか。簡単な服装検査、および外部生への激励の言葉、四月に向けての学業奨励、そのあたりはすでに午前中聞かされていた。繰り返しに過ぎなかった。
一通り話も終わり、入ってきた時と同じように一年A組の教室へ整列し戻った。
乙彦は後ろから二番目、一番せいたかのっぽは藤沖だった。
廊下に出てからようやく言葉を交わした。
「今日はこれで終了のはずだが」
藤沖もたいくつそうにあくびをしつつ、続けた。
「入学式後、すぐに授業が始まるからな」
「そうなのか?」
初耳だった。ふつう入学式のあとはみな記念撮影を家族でした後、食事会というパターンではないだろうか。両親が異様なほど楽しみにしている。
「基本的にお前にとっての入学式は今日だと考えていい。さすがに今日はこれから授業なんてふざけたこともないだろう。だが、補習のスケジュールは渡されるはずだ」
「そうだな」
乙彦だけ早めに補習授業が用意されるという話は、午前中、麻生先生からも聞かされていた。驚きはなかった。
「それとだ。教科書についてだが」
藤沖の口調は少しくぐもっていた。
「古本屋で仕入れるか先輩たちからまわしてもらうか、だが」
教室に入る寸前、早口に囁いた。
「結城先輩に声を掛けられたのだったら話は早い。すべてそちら経由で相談したほうがいい」
──あの、いちごミルクの「日本少女宮」って人か!
乙彦が唖然としている中、みなもとの席に戻っていく。結局入ったのは最後だった。
麻生先生がさらに顔をぎらつかせ、ハンカチで額を拭いながら現れた。
「では、教科書と補習についての資料を渡すぞ。今日はとりあえずこれで終わりだが、これからびしびしいくからな。みな覚悟しておけよ。英語科は普通科と違ってかなり問題集もいろいろな授業も異なる。しかも二十一人しかいないときた。気を抜くなよ。よいな」
「はーい!」
また甲高い声をあげる女子がいる。麻生先生もにやっと頷いた。
「古川、よい返事だ。よーし、よーし」
どうやら古川こずえというその女子は、一種のムードメーカー的な役割を果たしているようだった。「あんた童貞?」などといった信じがたい言動とは裏腹に、先生たちおよび同級生たちからは受け入れられている。乙彦にはまだ、理解しがたい存在ではあった。
「それとだ。関崎もさっきの自己紹介でかなりみなに馴染んでくれたようだが、やはりわからないことはたくさんあるだろう。なんでも遠慮なく教えてやってくれ。関崎も、まあこんなくだらないこと聞くまでもないとか思うかもしれないが、細かいことをきっちり確認する習慣は今からつけておいたほうがいいぞ」
──さっきの話で十分だと思うんだが。
少なくとも乙彦には、さしあたってプラスすべき情報はなかったように思う。
「では、教科書準備を早めにしておくように。それと、立村、お前は少し残れ」
乙彦は肩越しに振り返り、教室の隅で静かに腰掛けている立村を見やった。
こっくり頷いていた。相変わらず藤沖は無視したままだった。
──このままでは、よくないな。
確信した。
自分がおせじにも敏感な方だとは思っていない。またこの学校で不必要な人間関係のごたごたに巻き込まれたくないという本音もある。なによりも面倒くさいし時間がない。
そんな乙彦でも、現状の立村がいかに孤独な状況に追いやられているかはだいたいわかる。オリエンテーションの時も、また教室においても立村はほとんど言葉を発しなかった。並ぶ順番が前から三番目だったこともあって、その点離れていたからというのもあるのだろう。乙彦も話し掛けるきっかけがつかめなかった。
──とにかく、奴に話し掛けておく必要はあるな。
うまく言えないのだが、乙彦としては受け入れられない空気が流れている。
自分自身の周りに、というわけではない。
さっきの自己紹介を通じて、なぜか女子たちから「よろしくね!」と声を掛けられたり、他の男子たちからも「お前やるじゃん」とか背中を叩かれたりもする。乙彦自身は受け入れられているような気がする。
しかし、立村はただ黙って、大人しくもぐりこんでいるだけだ。
全く口を利かないわけではないにしてもだ。
──藤沖が言っていた通り、何かがあったんだろう。
その何かを追求するべきかどうか、迷った。
あとで電話をかけて、直接聞いてみるべきか。
立村のつきあい相手である清坂美里は、
「同じクラスなんだから、きっとあとでわかるよ」
とか言っていたけれども、そんなに時間を食わせて待つよりも、本人の口から現状認識をしてもらい、その上で乙彦がうまく循環油となるほうがいいような気がする。
少なくとも、このままクラスで浮いたままだと、仲間外れおよびいじめの対象にならないとも限らないだろう。早いうちに芽は摘んでおいたほうがいい。
「起立、礼」
「さようなら」
全員の挨拶が終わり、藤沖の号令と共に乙彦は立ち上がった。
すぐに立村の席へ行こうとした。しかし捕まった。
「ちょっと、悪いけど、そこの快男子」
話し掛けられたのは二回目だった。藤沖より先に、かの「あんた童貞?」発言の女子が乙彦に駆け寄ってきた。
「ちょっと顔、貸してほしいんだけどね」
「顔を貸すとは」
にっこり笑顔と反対に口調は悪っぽい。制服は着崩さずきちんとしている。くるくると動く眼と、やんちゃな口調に乙彦はまず、堅く答えた。
「今日、時間ある?」
「おいないだろう、古川あのな、関崎の担当は俺なんだが」
「担当もなにも、幼稚園児じゃないんだからそうそうくっつくのもどうかと思うけどね。藤沖、あんたにもあとで、ちょいと話があるんだけどそれはまた明日連絡するから。じゃあ今日は、関崎を借りてくわ」
──俺は物じゃないだろう?
どうも、この「守られる」感覚が気持ち悪くてならない。
いつもだったら自分が下級生たちを守る立場でいたはずなのに、この学校では思いっきり子ども扱いされているような気がしてならない。断るべきか。乙彦が口をごもごもやっている間に、古川はまた笑いかけてきた。
「あ、じゃあ、立村、あんたももう少ししゃっきりしなさいよ。溜まってるんでしょ、その顔観てたらわかるよ、ほらほら、春なんだから」
──女子が男子に言う言葉か。
空白時間、頭の中に出来た。その隙を逃さず古川は乙彦の背中をどんと叩くと、
「まずは、私が珈琲一本おごるわよ。さ、行こ」
──おごるって、そんな金どこにあるんだ?
溜息をついた立村が、乙彦に小さく頷いて見せた。そのまま、行け、ということだろうか。
「何か用なのか」
廊下から半ば強引に生徒玄関へ連れ出され、そのままわけのわからぬまま大学棟へとひっぱり出された。午前中藤沖に案内されていたので、目的地が大学生協の学食だということだけはなんとなくわかった。しかし古川は入り口の缶珈琲を自動販売機で買った後、
「大学の教室、どっか空いてるはずだからそこ行こう」
いきなり大学校舎へと向かっていった。
「それはまずいだろういくらなんでも。俺たちはまだ高校生にもなっていないし」
「いいのよ。聞いてよね。うちの学校、正式な単位認定はされてないけれども、飛び級みたいな扱いされてるって。ほら、立村そうじゃないのさ」
「飛び級」の意味がわからない。頭を下げるのは癪だが仕方ない。教えを請う。
古川はけたけた笑いながらも、あっさりと説明してくれた。
「たとえばさ、立村のように尋常ならざる語学の天才野郎だったら、はっきり言って高校の授業だって退屈じゃない。たぶんあいつ、英語科の授業半分寝ているだろうね。だったらもっと高度な授業に出させてやろうってことで、あいつ中学の頃から大学の授業を受けさせてもらってるわけよ。もちろん、それで何かってのがあるわけじゃないけれどもね」
「大学の授業をか」
「他にもね、同じクラスの男子で金沢ってのがいるんだけど、あいつもまあ、すごいのよ」
聞いてもいないのに古川はぺらぺら喋りつづける。
「金沢は一年の頃から、わが校の天才画家として有名でね。よくわかんないけど賞をいっぱい獲ってるのよ。で、なんかわかんないけど有名な画家のお坊さんにも認められてゆくゆくはその道を極める予定なんだよ。だけど、この学校でそれ勉強するってのは、できないよね。だから大学の美術がらみの授業を特別に受けさせてもらってるわけよ」
「そんなのがあるのか」
初耳だった。もちろん立村が人並み以上に英語の成績がよいとは噂で聞いていた。しかし、大学の授業を受けさせてもらえるほどとは。想像がつかないが大学の授業とはどんなものだろう。古川は尋ねるまでもなく説明してくれた。
「もっとも、大学の授業は中学よりもいいかげんで楽だと、ふたりとも言っていたけどね。それはともかく、うちの学校はやりたいことがあるなら、なんでもさせてくれる、そんな自由なとこがあるってわけよね」
「そうか」
言葉が途切れたのを幸い、すぐに尋ね返した。
「で、それには費用がかかるのか」
「費用? ああ、それは聞いたことないけどね。立村に聞いてみたらどう? けど立村の英語関連に関してはそんな話、聞いてないけどねえ」
「じゃあ、もし仮に、俺がそういうのを受けたいってことになったら、受けさせてもらえるということなのか?」
どきどきしてきた。大学という響きが、どこかに隠れた糸を弾いたようだった。
古川はあっさり答えた。
「そうだと思うよ。麻生先生もさ、前からやってるオリエンテーションでも話してたけど、もしやりたいことがあるんだったらそれなりのことは準備してもらえるはずだよ。ありがたいよね。ま、私みたいな奴だったらなーんもないかもしれないけどね」
話が逸れた、とばかりに古川は両手をぱんと打った。
「とにかく、教室を押さえるから、すぐに行こう、それからよ話は!」
清坂美里に続く「頭の回転が速い、気の強い女子」の二連発。午前中は感じなかった疲れがどっと出てきそうだった。
──悪い奴ではなさそうだが。
古川はすぐに空き教室を見つけ、そこに座った。。
「そうだよね、大学、今は休みだからね。空いてるよどこも」
熱い缶珈琲を手渡され、まずは一服した。乙彦も鞄を脇に置いた。
「大学ってこんな感じなのか」
「そう。たぶんゼミだったんだろうね」
ロの字型に並んだ席は、いかにも大学といった雰囲気だった。古川はまず、ドア付近に座り、白い机で足を組んだ。細い足首に目が行ってしまい、慌ててそらした。
「一応、立村や美里、あと杉本さんから関崎の話は一通り聞いてるってこと、まずは言っとくわ」
光が背中に流れる感触あり。古川と直角に座る格好で、乙彦は膝に手を置いた。
「いきなりで驚いたとは思うけどさ、私からすると関崎のことはそれほど、初対面って感じじゃないわけ。ま、さっきは少々びびったと思うけど、あれがいつもの私だからね。時間たてば慣れると思うけど、悪意はないってことで。それはともかく」
──悪意があるとかないとか言う問題じゃないだろう?
少なくとも「あんた童貞?」発言にいたっては。
「今日、いきなりここに連れ出したのはね、うちのクラスの状況と、あと杉本さんのことなんだけど」
ぐっと締まった瞳の奥に乙彦は、逃れられないものを見た。
──杉本梨南。
逃げつづけてきたこの現実にとうとう、向かい合う時がきた。
「私にもこの問題、責任の一端があるからね。ほら、杉本さんが持っていったっていう葉牡丹あるでしょ。あれ、私のうちから持ってってもらったもんなんだ。けしかけたのは私よ。だから、それでいろいろと面倒なことになっていたら、ごめん。まずあやまっとくわ」
──葉牡丹。
あの、奇妙なほど毒々しいキャベツの花。
美しさよりもむしろ、重たいものが残った植木鉢。
「ああ、あれはきちんと世話されている」
あわてて乙彦は言いつくろった。嘘ではない。雅弘に促されてあの日、すぐに水野五月の家に持っていったのだ。大切にされているはずだ。古川も少し驚いた顔をしたけれどもすぐに口を開いた。
「ああそうなんだ。じゃあさ、ひとつ確認したいんだけどさ。関崎は杉本さんのこと、どう思っているわけ?」
「どうと言われても、そんなこと考えたことがない」
当たり前だ。この一年近くひたすら、受験勉強と生徒会活動に徹してきたのだ。暇がない。
「へえ、女子のことも? すけべなことも?」
「当たり前だ」
少し声を荒げてしまう。
「そうか、真面目だねえ。ま、真面目だから杉本さんはあんたにほの字なんだねえ」
なんとも思わぬように古川は流すと、前かがみになり乙彦に迫った。
「じゃあはっきり答えてほしいんだけど、関崎は杉本さんのことが好き? 嫌い?」
──何考えている?
「正直に答えてよ。あの杉本さんのこと、一緒にいたい? いたくない?」
目を白黒させてしまっている自分が情けない。喉から言葉が出てこない。さらに古川は畳み掛ける。思わぬ言葉がぽんと飛び出しそう。押さえる。
「言い方かえるっきゃないか。つまり関崎は、杉本さんと話してみたい? それとも話したくない? これなら答えられるでしょ」
迫られた勢いに押されてしまった。
「……話すことが、ない」
嘘は言えなかった。事実だった。
「そっか。やっぱり、そうだったんだ」
肩を竦めると古川はゆっくりと一息ついた。
「杉本さん、二回目の失恋決定か。可哀想だけど、しかたないか」
やさしい口調だった。
杉本梨南。一年前、青大附中で行われた交流準備会の時に、いつのまにか一目ぼれされてしまったらしい女子の名だった。忘れてはいなかったが、この学校へ足を踏み入れた段階ですぐに記憶を封じてしまっていたかのようだった。できればすべて過去のものとして忘れてしまいたいページでもある。
──なんで俺のことが気に入ったのか、いまだにわからん。
記憶力は悪いほうではないのだが、なぜか杉本梨南に関わるものだけはさくっと処理されてしまっている。本当だったら、女子から好意を持ってもらえるというのは名誉なことのはずなのだが、杉本梨南という女子の個性がどうも乙彦には受け入れられなかった。
杉本梨南の性格が一般的女子とかなりかけ離れているからというわけではない。噂話をすべて鵜呑みにする気にはなれない。ただ会った時、一度だけ話をした時、確信したのは一つだけ。一緒に話をしたいとは思えない。それだけだ。
「関崎の意志がはっきりすれば話は早いね、それならやっぱり初志貫徹といくか」
古川が立ち上がり、背を向け窓へと向かった。乙彦もつられた。その場で立ち尽くしたままでいた。
「単刀直入に言うとね、杉本さんと立村をくっつけたいと、そういうことよ」
「なに?」
「青大附中のごたごたを丸く収めるには、これしかないと、多くの連中が思っているってわけ。なんでかわからないよね、だからそれを説明したくてここに呼んだというわけよ」
「ちょっと待て!」
記憶が混乱している。女子同士のことなら知ったことではないが、なぜここに、立村の名が出てくるのだろうか。いやなによりも。
「立村には、その、いわゆる付き合い相手がいたんじゃないのか?」
覚えている限りだと、確かあの、清坂美里相手ではないのか。
もちろん立村はそのことを声高に言うことはなかったけれども。
「美里のことを言ってるの?」
「そうでなければ、誰かいるのか」
「ごめん、説明不足だったね。つまりね」
古川こずえは振り返った。乙彦に今度はやわらかい眼差しを向けた。
「あのふたり、いわゆる惚れたはれたの関係じゃないのよ。私には理解しがたい関係なんだけどね、それで今のところ、なんとかうまく行ってるみたい」
「なんだその関係とは? まさか、それで今、あいつが叩かれてるのか?」
教室内で感じた、立村を疎外する空気と関係があるのだろうか。古川は否定せずにまた乙彦の向かい側に座りなおした。
「それはあるけど。でもしょうがないよね。好きになれなかったんだからさ。立村は杉本さんのことしか目に入ってないんだから」
「でもふたりは付き合っていたんだろ?」
好きでなければどうして付き合っているのか、乙彦には理解不能だ。何度も繰り返した。
「そういう付き合いをするには、それなりの真剣な気持ちがあってのことだろう。ましてやあの立村だ。軽い気持ちで何かするとは思えない」
「そうだね、軽い気持ちじゃあないよね。立村は」
古川が何度も頷きつつ、それでもはっきり言い放った。
「立村ね、卒業式で英語の答辞を読んだって話、聞いたことある?」
「いや。そこでなにかしくじったのか?」
首を振った。
「じゃあ、何かそこで事故でも起きたのか。緊張して壇上から落ちたとか」
「まさか。こういっちゃなんだけど、立村の語学能力は天才の域に達してるって噂だよ。実際、すらすらっと暗誦したよ。私らには全くわからない言葉でね」
よくわからないのは古川の言葉なのだが、その辺は放っておく。
「答辞は完璧だったんだけど、最後の最後にね、やらかしてくれたわよ。我が弟よ」
「弟?」
ひっかかる言葉を問い返すが、答えないで先に進む。
「あそこまで堂々とやってのけられたら、全校生徒、誰もあんぐり口あけるしかできないわよねえ」
「だから、何やらかしたんだ」
古川こずえは大きな溜息を肩ごとついた後、告げた。
「やっちゃったのよ、全校生徒の前でさ壇上の上で。杉本さんに実質的な告白、しちゃったのよ。キスしたり、その場で押し倒されなくてよかったと思うよ。そのくらい、本気全開だったもんねえ、あいつ。二年間の想いが爆発したって感じ」
──実質的な、告白?
「もちろんね、そのものずばりじゃないけどさ。ただあいつのここ半年の行動を粒さに見つめてきた青大附中ブラザーズ&シスターズにとっては、そう受け止められても、しかたないよね。美里もそれ、わからないほど鈍感じゃないよ」
「一体何を言ったんだあいつは!」
だんだん何か、繋がってくるものがある。だが女子の言葉ではあちらこちらの穴をつぶせないままで終わる。古川にかがみこみ乙彦も問い詰めた。
「藤沖たちに軽蔑されるようなこと、あいつ、何をしたんだ!」
「それとこれとはまた別。今から全部説明するよ。それから改めて、考えようよ。それともうひとつ、なんで私がこんなことしてるかっていうとさ」
ゆっくり、背を正した。
「柄じゃないし笑ったっていいよ。私ね、一応、前期の評議委員やることになっちゃったわけよ。これから先クラスをきちっと守り立てていくために、事情を説明する義務を感じてるてわけ。あ、それとさ、今のところ男子評議は藤沖で決まってる。そのことも忘れないでおいてよね」
──「あんた童貞?」の女子が、評議委員か?
立村の「卒業式壇上での告白事件」よりも、乙彦には古川こずえの立場の方がもっと謎だった。息を飲んだのを古川は別の意味で取ったのか、
「立村のこと、そんなに驚いた? そうだよね、とにかく、仕切りなおして最初から説明するから、しっかり聞いてな!」
笑うことなく、真剣な眼差しのまま語り始めた。