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高一・一学期 50

 それから期末試験前日までの準備は、すべて藤沖と古川の手で執り行われた。

 本来だったら乙彦が言い出しっぺなのだから、当然仕切るべきところなのに、正直納得がいかなかった。藤沖にも、もちろん古川にも文句を言うものの、

「いいのいいの、ここは附属上がりの私たちがやった方がうまくいくんだから」

「そうだ、お前は何も知らないだから、安心しろ」

 ──安心しろとはどっちのことだ。

 乙彦は不承不承ながらも、そのまま任せることにした。

 なにせ、事情が事情なのでどんなことがあっても他の生徒、および教師たちにばらすわけにはいかないのだ。乙彦も自分がポーカーフェイスを保てない性格だと自覚はある。もし麻生先生あたりに「どうしていきなり、藤沖と古川と、中学の女子たちが混じるんだ?」みたいなことを聞かれたら、まずい。嘘をつけない乙彦の顔色を見破るだろう。

 ──仕方ない。任せるしかない。

 

 古川が話してくれた通り、麻生先生には「外部生および後輩たちの試験対策を、内部生の自分らが協力してやりたい」というメッセージを伝えたのだという。もともと藤沖が乙彦を面倒みていたことは承知しているし、さらに古川が立村と藤沖との関係を心配していたのも伝わっていたらしい。全く問題なくことは進んでいた。

「関崎、いい友だち持ったな」

 麻生先生が乙彦に声をかけてきた。春から脂ぎったその額が、油をひいたフライパン状態に陥っている。やはり、夏なのだ。

「藤沖たちなら、視聴覚教室の使い方もわきまえているしな。まあ、この機会に顔を突き合わせて勉強するのもいいだろう。三年の後輩たちも、それなりに高校の授業内容を知っておくきっかけにもなるしな。いいだろう」

 ──本当のこと、全く気づいてないな。

 ほっとする反面、罪悪感が溢れる。ばれないうちに乙彦は頭を下げ、さっさと席に戻った。


 立村の様子をまた伺った。

「立村、お前、今日の放課後、来るだろう」

 念のために尋ねてみた。無表情なのはいつものこととはいえ、心なしか唇がまっすぐ一直線に結ばれているように見えた。さすがに七月に入るとブレザーは着られない。ネクタイだけはしっかりしめている。乙彦を見上げ、こくりと頷いただけだった。

「ならいい、わかった」

 額に手を当てるようにし、髪の毛をかきあげた立村に、乙彦はそれだけ伝えた。

 ──あいつは決して約束を破ったりしないだろう。

 杉本梨南のためならば、決して。


 予定でいくと、まず藤沖と古川がヒアリング用のテープを十本ほどと、鍵を用意してくれることになっている。視聴覚教室の場合、それぞれふたり席が用意されているが、隣同士は厚い仕切りで遮られているので隣で何をしているかは基本として見えない。机にはカセットレコーダーとヘッドホンマイクが常備されていて、授業の際は録音用のテープを持参し、そこに吹き込む。発音練習の際によく用いる。

 最初はてっきり、ラジカセを持ってきて三人で書き取り練習をするものかと思っていたのだが、藤沖に言わせると「あれだけ立派な設備があるのに使用しないのはもったいない」とかで、

「教師側の机からヘッドホンに直接流せばいいだろう。テープはたくさんあるから、切れたらその都度入れ替えればいい。関崎ならすぐ使い方もわかるだろう」」

 確かにその通りだ。実際ヒアリング訓練を予定しているのは乙彦のほか、静内と名倉だけだ。あとの連中は教師席真後ろに用意されている準備室に、壁一枚隔てる形で篭る。もちろんそこですべての話し合いを行う。

「まあ、関崎はこれ以上、何も言わないでいいよ。あとは私たちがさ、片付けるからね」

 古川の冷静な言葉に、乙彦もそれ以上考えるのをやめた。

 期末試験まで、あと一日。実はほとんど準備が進んでいないなんて、なんてざまだ。


 六時間目の授業が終わるチャイムが鳴った。もともと試験であろうがなかろうが、ぴりぴりした雰囲気の漂わない英語科だが、この時だけは違った。少なくとも乙彦には、関係する連中の表情が若干こわばっているかのように見えた。もちろん、自分もそうに違いない。

「藤沖、じゃあな、先行くからな」

 他の男子たちが軽く声をかけていく。藤沖も手を挙げて答えた。

「こずえ、ねえねえ今日、一緒に図書館で勉強してかない?」

 危険人物、清坂美里が廊下で古川に話し掛けている。髪の毛をまたふたつに結わえている。あの髪型を見ると、乙彦はむしょうにもやもやしたものを頭の中に感じる。

「ごめん、今日はさ、藤沖たちとちょっとクラスのことで打ち合わせあるんだ」

「えー、試験前なのに?」

「そうなのよ、面倒なクラスよねえ」

 知らん振りして、乙彦は荷物を片付けた。斜め前の立村はまだ席についたまま、ぼんやりと正面を見つめている様子だ。廊下からはさらに清坂の食い下がる声が聞こえる。

「関崎くんも?」

「そりゃ、規律だからね。ちょっといろいろとA組同士で準備があるのよ。またさ、帰ったら電話するよ」

 ──しかし女子というのは。

 乙彦は耳をそばだてながらつくづく思った。

 ──あれだけ毎日しゃべっていながら、今度は電話でも話するのかよ!

 

 清坂との話も一段落ついたようで、古川は教室に戻ってきた。まず立村の席に向かい、なにか耳打ちした。立ち上がった立村は乙彦に静かな目線を向け、紙のようなのっぺらぼうの表情で教室を出て行った。さらに近づいてくる古川。乙彦は待ち受けた。真後ろには藤沖もいつのまにかいて、ふたりの評議委員に包囲されるかっこうとなった。

「ということで、関崎」

「ああ」

「今から、テープ持ってくるからさ、先に視聴覚教室行ってな」

「わかった」

「あ、それと、静内さんたちとは別行動しなさいよ」

 顔を見合わせて藤沖と頷いた。

「美里がまだその辺、うろうろしているから」

「この前も話したがそれは関係ないだろう」

「ばかだねえ関崎、何言ってるのさ! 今ここで説明してる暇ないから、さっさと行きな! それと藤沖、あんたは」

 言葉を切った。

「わかっている」

「じゃあ、さっさと行きな!」

 教室を飛び出したのは、藤沖の方が早かった。

「脱兎のごとく、だな」

 思いついた言葉をぽろりと呟く。古川も受けた。

「そうだね。理由はともかく、本気だね」


 せっかく静内に、自分なりの英語限定山掛けノートを渡そうと思ったのだが、空振りで少々おもしろくない。以前、水鳥中学にいた頃は雅弘に全教科用意してやったものだった。雅弘が英語を特に苦手としていたことを知っていただけに、かなり綿密にこしらえたつもりだった。あの雅弘が理解していたのだから、静内なら一発でわかるだろうに。

 ──どうせ視聴覚教室で会うだろう。

 気にはなるがあえて知らん振りを通した。三階まで階段を昇った。途中の踊り場で二年生と顔を合わせ一礼した程度、あとはさほど生徒もいなかった。いつもなら音楽室からもれ出る吹奏楽部の練習曲でうるさいのだけれども、それすらなかった。もちろんざわめきは葉を揺らす風のそよぎで消えることはない。窓もほとんど開け放たれている。しかし、歩いていくにしたがって廊下には深い影が濃く浮かび上がってきた。じんわり、汗が滲んだ。

 ──藤沖は何も言わなくとも、なんとかするだろう。問題は立村だ。

 いきなり眠気が目元に沁みてきた。乙彦は片腕をぐるっと回し、駆け足で視聴覚教室に入った。すでに静内と名倉が教師席のまん前に陣取っていた。名倉が立ち上がり、

「お前、ここに座れ」

 いつものようにぶっきらぼうに指示を出した。静内の右隣だった。名倉は乙彦の真後ろに座りなおした。


「テープは古川が持ってくると話していた」

「そうなんだ」

 あっさり答えた静内は、戸を指差した。

「開いてたから入ったけど、誰もいなかったよ」

「集合までに時間がかかるらしい」

 なぜ、とは誰も問わなかった。乙彦も伝えていなかった。

 名倉が立ち上がり、乙彦の机にセットされたヘッドホンを取り上げた。いきなりかぶせてきた。遮断はされない。音はしっかりと聞こえる。

「これを食え」

 どう見ても朴訥な名倉が自費で購入してきたとは思えない、花柄の菓子箱を机に置いた。ご丁寧にピンクのリボンまであしらってある。規律委員たる乙彦には、教室内での飲食禁止を破る気はないのだが、友だちからの土産をもらうという当然の感謝はある。

「ああ、ありがとう。どこか行ったのか」

「もらった」

 静内にも箱を見せて、目で尋ねた。言葉はなくにやにや笑う。説明してくれた。

「名倉の彼女が送ってきたんだって。手作り」

「手作り?」

 それ以前に名倉の彼女とは誰なのだ。憧れの女子が青大附属中学から医者養成専用の高校に進学したとは聞いていた。しかし、付き合っているとは聞いていない。

「あいつは、クッキーを焼くのがうまい。まじでうまい。食え」

「俺は規律委員だからここでは食えない。が、喜んでもらう。ありがとう」

「静内にも渡したぞ」

 手作りクッキーとは、なかなかしゃれたことをする女子である。だがバレンタインデーやホワイトデーの季節とはまたずれているようだが。静内がすぐに注釈を入れた。

「名倉の誕生日プレゼントよ」

「お前、七月生まれか」

 肯定も否定もしなかった。静内の手元を覗き込むと、すでに箱を開けて手をつけた後がある。クッキーはハート型、星型、∞の形、その他いろいろ。確かに手が込んでいる。しかも分量がはんぱではない。ぎっしり、一部のクッキーが壊れるくらい詰め込まれている。

「お前、先生に見られたら呼び出し食らうぞ」

 からかうつもりで声音を使うと、静内も言い返した。

「今、これからのことが、十分校則違反でしょう」

 ──まあ、確かにな。


 しつこいようだが、事情が事情だ。だからあえて何も二人に告げなかった。

 しかし、今の静内の口調からして、もしかしたらこれからの集まりに関する事情を知っているのではないだろうか。確認してみた方がいい。

「静内、お前、今日なんでうちのクラスの連中が名前を貸してくれたのか、聞いたのか。たとえば古川とか」

 静内は首を振った。今日はロングヘアーを一本にまとめた、いつものスタイルだった。ブラウスの襟元にちらりと、銀色の細いものが覗いた。もちろん校則違反だろうが、ここで責める気はない。

「A組の人とはあまり話さないよ。ただね、逐一教えてくれる人がB組にはいて」

「クラスの女子たちか」

 名倉が顔をしかめた。ということは名倉も事情を知っているということか。

「事後申告で申し訳ないけど、知ってる」

「中学女子の、一件ということもか」

 静内と名倉は大きな溜息を吐いた。それ以上の答えはなかった。


 ──なんだ、知ってたのか。

 一番長い溜息を吐いたのは乙彦だった。一瞬重たくなりそうな空気が、すっと柔らいだ。

「もちろん、そのことは誰にも言う気ない。けど、関崎、事情を無理に隠さないでもいいから、安心して」

 名倉も口にクッキーを詰め込みながら、「そうだ」と呟いた。

「悪い」

「けど、私たちには全く関係ないことだから、今日はとことんヒアリングやろうよ」

「そうだな」

 乙彦はノートを取り出した。静内と名倉ふたり分用意したコピー紙二枚を挟み込んであった。

「これが俺の考えた、明日の英語の山かけ答案だ。使え」

「サンキュ」

 ふたりとも合掌して受け取った。何か仏様にされてしまったような気がする。

 とはいえ、テープが届かないと始めようがない。なぜこの部屋でのヒアリングについて、静内がなぜ拘ったのか、正直わからずじまいではあるが、乙彦のとなりでとりあえずは機嫌よさそうなのでよしとしよう。

 すぐ側の扉が開いた。思わず振りかえってしまった。

 ──まずい、知らん振りすべきだった!

 乙彦が後悔したのは、次の瞬間だった。

 杉本梨南が立村を背に、ひとり、立っていた。


 ──俺はどうすればいいんだ。

 立村も無表情だが、さらに上をいくのっぺらぼうな女子。

 頭のてっぺん近くまでポニーテールに結い上げ、白いショールのようなものを羽織っていた。制服の形がさすがに高校のものとは異なってはいて、灰色と茶色を混ぜ合わせたような奇妙な色合いをしている。しかし、変わっていないのはその眼差し。にらみつけて、相手を寄せ付けないような瞳は、乙彦も苦手だし、他の男子はもっといやなものだろう。

 目と目が合い、逸らすタイミングも逃した。

 ここでいきなり顔を背けたら無視することになってしまう。

 かといって、事情を知っている乙彦が明るく「こんにちは」と呼びかけるのも、何か妙だ。

 後ろで静内と名倉も、杉本梨南を見つめている。

 ──なんとかしてくれ、立村……。

 さすがに杉本梨南よりは背丈のある立村が、耳元に何かを囁いた。顔をそっと寄せるようにして、入るよう促した。同時に乙彦へ首を小さく振り、頷いた。

「なんだあいつ」

「うちのクラスの立村だ」

「あの人が」

 静内が小声で何かを確かめるよう呟くのが聞こえた。立村のことを、隣のクラスの静内が知らなかったとは思えなかった。

 杉本の後ろについて、準備室へ向かった。杉本梨南はいきなり一礼をし、そのまま俯いた。顔をそっと両手で覆うように、まっすぐ教師席の真後ろを通っていった。側で囁きつづけるう立村の呟きが、まん前の席にいる乙彦にははっきり聞き取れた。


「大丈夫だ、杉本」

 手を触れることはなく、ただ囁くだけ。しかし響いた。風のざわめきすら消すことはない。

「関崎にはまだ、付き合っている相手はいない。あの人は、関係ない人だから」

 言葉が途切れると同時に、乙彦に今度は、凛とした感情の篭った瞳を向けた。

 ぽかんとしている間に、ふたりは視聴覚準備室へ吸い込まれていった。


 隣で黙ってクッキーを食っている静内を伺った。

 後ろで憮然としたまま両腕を組んでいる名倉に振り返った。

 手元には、重たいクッキーがリボンのかかったまま、残っている。

「関崎、聞いていい」

「どうした」

 静内はクッキーをそっと机の上に置いた。

「今、『関係ない人』っていうの、私のことかな」

 言葉に詰まった。そうだ、立村の言葉を聞いていたのは、乙彦だけではなかった。黙るしかなかった。静内も俯いたまま指を絡めていた。


 ──何で立村の奴、静内の前でわけのわからんことを言うんだ!

 九十パーセント、事実ではある。乙彦には付き合っている相手がいないし、静内も現段階ではそういう相手ではない。ないが、露骨に「関係ない」はないだろう。

 現に、静内の様子は、女子そのものの落ち込みだ。

「わかった、立村にはあとで文句を言っとく。元気出せ」

「いい、言わないで。それよりも」

 また途中で遮られた。後ろの扉がまた開いた。懲りたので振り返りはしなかった。そのまま静内を見たまま乙彦は、クッキーを一枚所望した。


 見ないようにしたつもりではあったが、視界の隅にどうしても入ってしまう。

 まず、藤沖とその影に隠れるようなかっこうで、女子がひとり。

 顔は見ないように努力したつもりだ。髪にヘアバンドが刺さっている。おかっぱ髪だった。

その後ろに、古川が付き従っていく。うまく隠すように覆い被さろうとしている風だったが、準備室に入る前に気がついたのか、すすっと乙彦の座っている席に近寄ってきた。露骨に敵愾心露わにしている名倉を気にせず、ちらとたたみ終わった紙箱を見つめた。乙彦に十本ほどカセットテープを渡した。一本だけ残し、素早く教師机のカセットにセットした。また戻ってきた。

「これ、もしかして、彰子ちゃんの手作りじゃん!」

 名倉に話し掛けている。反応をあえてしないと決めたのか、名倉は無視している。

次に乙彦の手元を、カセットテープごと見下ろした。

「そういえば南雲も持ってたよ。けどなんで関崎が持ってるわけ?」

 最後に静内の机前に立った。まだ動揺が収まらないのか、言葉が出ない静内。おそらくだが、静内は古川タイプの女子が苦手に違いない。不必要な下ネタなどぶつけないでほしいと祈った。

「彰子ちゃんの手作りクッキー、美味しいんだよ! ひとつ、ちょうだい」

 静内が返事を躊躇している間に、ひとかけら摘んだ。あっという間に口に放り込んだ。

「名倉、彰子ちゃんに連絡つくようだったら伝えといて! 私たちも美味しくいただきましたって! うわーラッキー! 彰子ちゃんってすっごい性格いい子だったんだよ。きっと寮生活のストレス解消のために、作ってみんなに送ったんだね。あの色気づいたすい君が襲ってないといいけどね。じゃあ、悪いけど、よろしく!」

 ほぼ九割、意味不明。

 三人、ただあっけにとられたままだった。下ネタなしでノックアウトされることは、珍しい。手元のカセットテープが到着したのだから、すぐにヒアリングの訓練をしなくてはならないとわかっているのだが、古川こずえの強烈な一撃にぶった押されたままだった。


「何で俺と奈良岡のことを知ってるんだ」

 返事しようのない問いを名倉が呟いた。そんなの乙彦にもわからなかった。

「とにかく、まずは静内のクッキーを全部食おう。それから、やろう」

「えー、私のを全部あんた平らげる気?」

 おどけた風に静内が声を挙げた。

「お前には俺の分を全部やる。それでいいか、名倉」

「異存はない」

 まだたっぷり残っているクッキーを、三人で摘んだ。さくさくしていて、言われる通り美味しい。無言で口の中に放り込んでいるうちに、やがて準備室から激しい泣き声が響き渡ってきた。女子の声だった。何か物を言っているようだが、聞き取れなかった。


「ごめんなさい、だって」

 静内だけが聞き取ったらしい。それが合図だった。三人、そのままヘッドホンを耳に当てた。乙彦が教師席に向かい、藤沖から教えてもらったとおりにボタンを押した。席に戻りヘッドホンを当てるほんのわずかな間に、静内の言った通りの声が響き渡った。

 ──私、私、お願いします、ごめんなさい。助けてください。


 杉本梨南の声でないことだけは、確実だった。

 乙彦はヘッドホンから流れてくる英語の会話をじっくりと耳に入れた。すぐに謝る声は耳奥で打ち消された。そうでなくてはならなかった。それが、藤沖と立村とを対話させる最大の条件だったからだった。

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