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高一・一学期 39

 互いにそれぞれのクラスで過ごす時間の合間を見つけては、三人、廊下か図書館かもしくは中庭で集った。もちろん、しょっちゅうではないのだけれどもほんの一、二分語るだけでもそれは友だちとしての会話としてしっかり繋がった。

「名倉は今、クラスの人としゃべったりしないの?」

 静内菜種が何気なく尋ねる。

「しない。話題が合わない」

「わかるわかる」

 名倉時也も言葉すくなではあるけれども、教室で気の合わない連中とたむろうよりは乙彦や静内と語り合うことを選んだ。おそらく名倉の周辺ではいろいろと面倒な噂が立っていることだろうが、そんなことなど全く気にも留めていない様子だった。

「話題といったって、そんな高級な話なんぞでるのか」

 A組ではそれなりにしゃべることもあり、コミュニケーションに今のところ苦労のない乙彦は、名倉に詳しく問いただす。

「洋服の話題が出るとついていけん」

「それはあるな」

 乙彦は頷いた。青大附高の連中はきっと無意識なのだろうが、ファッションに対して過剰なほど関心を持っているようだった。女子ならまだ理解できなくもないが、同じクラスの男子たちが懸命に、髪の毛の手入れのしかたとか服のコーディネイトだとか、さらには店、床屋、美容室に至るまで語り合い始めた時には、さすがについていけなくなった。いつも適当なところで親に全部やってもらっていた乙彦には、腕の良し悪しなどよくわからない。

「洋服は拘る人多いね、この学校。私なんて普段はTシャツとジーンズ」

「そういうのが普通だと思うが」

「まあ、人の好みよ」

 確か去年の交流会で、青大附中では規律委員が中心となり制服の着こなしを研究し季刊誌として発行する「青大附中ファッションブック」というのがあると聞いたことがある。しかも編集担当は南雲だったと聞いている。想像するのも不気味すぎて、乙彦はまだ、仔細を確認していない。高校でも同じような本、作るのだろうか。

「うわあ、ファッションブック? そんなのあるんだ!」

「実際俺も去年、見せてもらった。評議委員の誰かを無理やりモデルにして写真を撮って掲載するらしい」

「それはいやね。評議って、そんなモデルまがいのことまでしないとだめなの?」

「よくわからないが」

 あらためて静内菜種の顔と全身をみやった。

 決して醜いとは思わないが、いわゆる美人には分類されないタイプだろう。

 美しいとか綺麗とかそういうのではなく、顔自体に強烈な印象がない。ただ、浮世絵の女性のように線で形作られていて不確かな雰囲気が漂っている。もちろんこうやって語っている分には、存在感全開でぶつかってくるのだが。

「静内、安心しろ。お前にモデルの申し込みは来ない」

「すっごい失礼!」

 軽く拳骨を乙彦の鼻先に突き出すまねをし、静内は吹き出した。手を打って笑う。

「ほんと、青大附属の中を歩いているだけで観光旅行しているような気分になるね」

「歴史の証人も学校の中にはたくさんいるしな」

「そうそう! カメラがあれば記録とか全部撮っておいて、記録データとして残しておきたいよね。笑える」

 ぽつんと名倉がくちばしを挟む。

「カメラマンは俺がやる」

「って、カメラ? 名倉、写真好きなの?」

「好きでもないが嫌いでもない」

「そうか、じゃあさ今度」

 静内は乙彦の肩を叩き、次に名倉の腕をひっぱり、頭を寄せ合った。

「放課後、校内見学ツアーやらない?」

「なんだそれは」

「この学校ってやたらと広いし、中学もあるし、大学だってあるし」

 静内の指摘通り、この学校全体は本当に広い。

「中学の校舎も私、まだ、見たことないし。大学に関してはまだ、学食しか行ったことない」

「そうか」

 言われてみればその通りだ。乙彦はオリエンテーション早々藤沖に引っ張られてあちらこちら連れまわされたおかげでそれなりに、把握はしている。また交流会を通して中学の校舎は出入りしているし、それほどものめずらしいものではないと思っていた。しかし、静内も名倉も、まだ中学校舎に足を運んだことはないはずだ。

 ただ、ひとつだけ心配なのは。

 乙彦は小声で確認した。

「カメラは校則で持ち込み可なのか?」

 残るふたりは顔を見合わせた。

「そうか、授業に関係ないものは、持ち込み不可の可能性あるかあ」

「俺はこれでも規律委員だから、できれば校則違反はしたくない。が、気持ちはわかる」

 ふたり、にやにやして乙彦の顔を見上げている。何か期待されている様子だ。

「とりあえずだ。今日の放課後カメラなしでまず、中学校舎を見学してこよう。俺が案内する」

「誰もカメラなんて持ってないのにね」

 思い立ったらすぐに動かないと気がすまない、それが関崎乙彦の性格だ。しょうがない。

 静内菜種はこぶしを作って自分の頬のところで、軽くエイエイオーと振り上げた。


 決して、英語科A組で過ごす時間が苦痛というわけではないのだ。 

 教室に戻ればすぐに藤沖を始めクラスの男子連中と、それなりの馬鹿話をする。

 最近は藤沖の応援団結成リアルタイム報告が主であるが、それもまた興味深い。

 ちらと横目で、ひとり孤独を囲っている立村の様子を伺うのもすでに習慣だ。

 規律委員としての仕事もせいぜい、朝一、夕方の週番といったものが中心であって、今のところ「青大附高ファッションブック」作成の話はもちかけられていない。南雲もB組の東堂といつもつるんでいろいろ語っているようで、乙彦との接点は「みつや書店」のみ。

 やたらと清坂美里が話し掛けてくることもあるけれども、それなりに流せばいい。他の女子たちと同じ扱いをしているつもりだ。好意を持っているという噂はまだ噂に過ぎない。なら、最初からないも同じだ。

 

 しかし、なぜか、静内や名倉と足を留めて似たような馬鹿話に花を咲かせていると、時間の流れが少しはや回りする。あっという間に時間が過ぎてゆき、名残惜しさの中で教室に戻るはめとなる。

 互いを苗字の呼び捨てで通すことに決めてから一週間が経ち、その間に積み重ねられた会話が自然と発火し、ふわふわ燃える。夏が近づいてくる合図のように、汗ばみ、胸躍る。

 ──まさに俺たちは不思議の国の旅人だ。

 いつか静内菜種が教えてくれた「不思議の国のアリス」。合宿以来一度も尋ねていない。ただ、自分たちが青大附属という不思議の国に取り込まれて右往左往していることだけは確かに思えた。静内はその国を旅するに当たって、どういう覚悟を携えて飛び込んできたのだろうか。いつか聞いてみたいことのひとつだった。

 ──青大附属中学校舎。

 すっと記憶の隅に刺さった、腫れを伴う刺の跡。

 ほんの一瞬だけ、かすめた。

 ──ま、大丈夫だろう。放課後だからみな、帰っているだろう。


 中間試験の結果は予想通り芳しくなかった。

 最初の一年はとにかく我慢するしかない、と麻生先生もいろいろと言い聞かせてくれたけれども、やはり五十点以下の点数を目にする羽目になると、気持ちもふさぐ。

 自分なりに努力もし、補習にも参加しているつもりではいるけれども、やはり結果が出せないことにはどうしようもない。

「関崎、今日は補習か」

「いや」

 藤沖に声をかけられた。たぶん何か言いたいことでもあるのだろう。また説教されるのだろうか。悪いが今日は静内たちとつるんで遊ぶ方を優先したい。乙彦は荷物を鞄とボストンバックにまとめ、素早く教室を出ることにした。

「ははあ、デートか」

「そういうわけではない」

 みな、男子連中がいきなりにやりと笑い出す。

 静内の真似をするわけではないが、青大附属上がりの連中は幼稚なからかいをかけようとしない。特に恋愛がらみの話題では男子に限って言えばみな、穏やかに送り出してくれる。そこが妙に女々しくて不思議なところでもあるが、実際当事者に立ってみればそちらの方が色々と楽ではある。余計な話をしなくてもよい。

 例外、が藤沖だ。乙彦の保護者を買って出ている藤沖には気になるらしかった。

「静内とか」

「いや、もう一人いる」

「どこに行くんだ?」

 隠すこともない。違反の品も持っていない。あっさり答えた。

「中学校舎だ」

「呼び出されたのか」

 これはしたり。誰に呼び出されるというのだろう? 乙彦なりに想像たくましくして返事をした。

「いや、さすがに俺も下級生に呼び出されるような悪いことはしていない」

 藤沖は無理に笑いをこらえるように、唇をゆがめた。

「そういうことを言ったのではないぞ、関崎。俺もよく生徒会の後輩たちに相談を持ちかけられて呼ばれることがある。お前は交流会なんかで結構顔出ししているから、そのあたりで呼び出されたのかと思っただけだ」

「残念ながらそれはない」

 なるほど、藤沖もしょっちゅう中学校舎に通っているということが判明した。ということは、これから乙彦たちが探検ツアーに出かけても何ら障害はないという結論となる。

「単に、外部生のふたりが一度も中学校舎を見たことがないというから、この機会に連れていってやろうと考えたという次第だ」

「なるほどそれはいい案だ」

 単純に藤沖は褒めてくれた。

「じゃあまた、明日にでも感想など聞かせてくれ。来週から今度は球技大会の準備だ。そんなにちょろちょろしていられないぞ」

 もう拘るのも面倒くさい。いつもの兄貴分的口調を聞き流し、乙彦は教室を出た。すれ違いざま、一緒に扉をくぐりぬけた立村と目が合った。

「立村、また明日な」

「お先に」

 立村がいきなり何かを言おうと、口を開きかけた。すぐに首を振った。

 気付いて乙彦もすぐ近づいて尋ねた。立村本人が発しようとした言葉、貴重だ。拾わねば。

「どうした、何か言いたいこと、あるんだろう」

「いや、なんでもない」

 戸惑いを隠す風に立村はすばやく顔を背け、小声で「じゃ、まあ明日」とだけ呟き、階段を昇っていった。結局、今日も立村の言葉は拾えなかった。


 B組の静内を待つため乙彦はまず教室を覗きこんだ。すでに授業は終わっているようだった。だがまだ騒がしく声が聞こえる。主に女子たちのざわめきが聞こえるのだが、静内がその中に含まれているかどうかはわからなかった。出てきた東堂を捕まえ、静内がいるかどうかを尋ねた。

「ちょいと、またうるさいことになってるみたいなんでね」

「またもめてるのか」

「さあ」

 あまり東堂とは、規律委員同士とはいえまだ語り合う仲ではない。南雲と気の合うというところからして、まず違うだろう。乙彦はもう一度黒板側の扉から顔を覗かせた。教室後方でやはり、女子たちが五人ほど、話し合いをしている様子だった。五人集まれば文殊の知恵というが、はたしてそんなのあるのだろうか。その五人の中に静内が混じっているかだけ確認できれば、あとは廊下で待っていればよい。しかしその確認が取れない段階で、ひとり女子の誰かがぽろっと転がり出て、乙彦に駆け寄ってきた。静内ではなかった。

「関崎くん、ちょっと来て」

 乙彦は返事をせずに背を向けようとした。いきなり腕にしがみつかれた。清坂美里が強引に教室の中へ乙彦を引きずり込んだ。同時に四人かたまりとなった女子たちの中から、

「ごめん関崎、ちょっと待ってて。名倉にも言っといて」

 静内の声がぴんと、響いた。

 乙彦も返事をしようとした、その瞬間、腕の肉を思いっきり握り締められた。清坂の手だった。

「他の子に聞かれたくないでしょ。ちょっと言いたいことあるの」

「俺は特に何もないが」

 静内に視線を投げた。早くお互い終わらせたいと、そういう意を伝えたかった。すぐに乙彦の方が無理やり清坂にひっぱられている。少し長めのおかっぱ髪がつややかに輝いていた。

「静内さんをなんで中学に連れて行かなくちゃいけないのよ!」

「見たことないという話だったからだ。それに静内だけじゃない。名倉という奴も一緒だ」

「そういう問題じゃないの! 問題はね、関崎くんなの!」

 清坂は声をささやきかける形にしつつも、語調は荒く続けた。

「関崎くん、青大附中にはね、杉本さんがいるんだよ! 杉本さんがどんな想いで待っているか、わかってるよね! ちゃんと!」


 ──ああ、あの女子だ。

 大きなキャベツの切り口のような花を、鉢植えごと持ってきて手渡してくれた、あの女子だ。感情が殆ど動かない人形のような女子。いったい乙彦のどこが気に入ったのか今だに不明だが、ひたすら一途に想いをかけてくれていた女子だ。覚えている。

 ──立村に懇願されて、俺なりにきちんとけじめをつけたはずだが。

 体調を崩し、水鳥中学の用務員室で横になっていた杉本梨南に乙彦は伝えたはずだった。

 想いに答えられない旨、伝えたはずだ。

 古川こずえによれば、その言葉は伝わっていないとのことだが、それ以上乙彦にできることはなにもなかった。だからそのまま、放置していた。

 ──だが、しかし。

 清坂のまっすぐな瞳と、怒りをも帯びた表情に、言葉が止まった。

 

「関崎くんがどう思っているかわからないけど、杉本さんはね、ずっと関崎くんのことを好きなままでいるのよ。今、学校でたったひとりぼっちで戦っている杉本さんにとって、たったひとりの味方が関崎くんなのよ。そう思っていないかもしれないけど、杉本さんにとってはそうなの!」

 ──いや、立村の方が……。

 言いかけてやめた。清坂美里はかつて、立村と永らく交際していた相手なのだ。傷口に塩をもみ込むようなことはすべきではない。

「だけど、杉本さん、卒業するまではずっと関崎くんと会わないようにしよう、顔も見ないようにしようって願掛けしてるの! 願掛けってわかる? 公立高校に合格するまでは、大好きな関崎くんのことを考えずに勉強に専念しようって! 杉本さん、頭がいいからそんなことしなくたって合格すると思うんだけど、関崎くんにふさわしい自分になって卒業してから、改めて関崎くんに打ち明けるって心に決めてるの。一途なの!」

 ──いや、話自体はもう、終わったはずでは……。

「私、関崎くんがどう思っているかはわかんないよ。けど、今、関崎くんが杉本さんと顔を合わせることになってしまったら、あの子がどれだけショック受けて動揺するか、少しでも考えてほしいのよ! たったひとり、関崎くんがいるからこそ、杉本さんは必死にたえていられるの。でも、でも」

「すでに俺は話を済ませているつもりだが」

「理屈と感情は別なんだから!」

 首を激しく振り、髪をさらさら揺らしながら清坂が訴えた。いつのまにか声はゆっくり、大きく響いている。

「関崎くんにふさわしくなってから、関崎くんに誇りに思ってもらいたいから、だからこの一年、がんばるって杉本さん、努力しているのよ! 色々大変な思いしているの。だからこそ、今、関崎くんたちが中学に行ったら、周りの杉本さんのこと苦手だと思ってる子たちがいろいろといじめるかもしれないよ」

 清坂は大きく頷いた。こくんと、何かを飲み込んだ。

「静内さんたちを中学の校舎へ案内してあげたいんだったら、せめて、杉本さんたちが修学旅行に向かう、六月の第一週まで待っていてほしいの。その時なら、杉本さんいないから。杉本さんにこれ以上、惨めな思い、させないですむから! ほんとに、ほんとに、杉本さんは関崎くんのことを」

 教室内へ声は朗々と響き渡っていた。

 乙彦にみなの視線が教室内から、また廊下から飛び交い、突き刺さっていた。

 ずっと清坂を見つめていたが、乙彦はそっと静内に顔を向けた。首を振って、乙彦たちに近づいてきた。

「もういいよ、今日はやめとこ」

 また短く、簡潔に告げた。

「名倉も待ってるし、今日は天気もいいから、大学の庭で話の続きしようよ」

 簡単に清坂にも。

「そういうことで、お先に」

 乙彦が清坂に捕まる前に、さぞすごい話を聞かされていたのだろう。それをほんの一言で断ち切り、静内菜種は他の女子たちに手を振った。明るく「お疲れ!」とだけ残した。明らかに清坂に向けた語調とは違う、温かさが伝わった。


 静内がB組内で、清坂以外の女子たちに好かれているのは大体理解できた。

 たったひとり、清坂とうまくいかないだけと噂には聞いていたがこれほどまでとは思わなかった。

 廊下で不安そうに立ちんぼうしていた名倉を手招きし、静内はわざとらしく溜息をつき、またくすりと笑った。乙彦に両手で「ごめん」のポーズをした。

「何があったんだ」

 ぶっきらぼうに名倉が尋ねた。もっともな質問だ。乙彦がどう答えるべきか思案しているうちに、静内があっさりと答えてくれた。

「こういうことが多いから、やっぱり青大附属は不思議の国なのよ」

「つまり」

「うっかり打ち明け話でもしようものなら、あんな感じに放送されちゃうんだね」

 さっきの清坂のことを暗にさしているのだろう。

「放送?」

「あのさ名倉、関崎」

 三人ならんで廊下を歩き、生徒玄関まできた。それぞれ別クラスの靴箱で履き替える前に静内は、乙彦と名倉、それぞれの顔を見やった。

「自分の方から言わない限り、決して人のプライバシーを詮索しない! これ、私たちの間でのルールにしようよ。もちろん、自分から打ち明ける分には喜んできくけどね」

 静内にしては長いセンテンスで、提案された。

「ということで、今の話題は関崎の個人的事情だから、もう終わりにする。ってことでどう? 異論ある?」

「異議なし」

 すぐに名倉からの返答があった。了解。乙彦に異論のあるわけがなかった。

「助かる」

 一言だけ、乙彦なりの礼を伝えた。もう三人の話題に、杉本梨南の話題も清坂美里の叫んだ言葉も、浮かび上がってこなかった。


 ──だが、聞いてたんだろう。

 すでに噂として流れていたのかもしれない。黙っていてもいつか知れ渡ることにはなっていただろう。乙彦が一年前、杉本梨南に懸想されていたことを。そして、今だに思われつづけているらしいということを。恋愛事件に巻き込まれてしまった過去は決して、勲章とは思えない。できれば封印しておきたい過去だった。

 ──静内は、清坂の言葉を聞いていたはずだ。いや、もしかしたら俺が来る前に詳しくそのあたりの事情を説明されていたかもしれない。

 いや、それも静内菜種に対するプライバシーの侵害となる。これ以上の追求は控えなくてはなるまい。頭の上に余計な記憶というショウジョウバエのようなものがもし、飛び交っているならば、すぐにぱちっと叩いてつぶしてしまいたかった。消してしまえるものなら、消してしまいたかった。

 ──どこらへんまで聞いているんだ? 本当に、興味がないのか?

 読めなかった。静内が名倉相手に、大学内の探検ツアーについて相談をしている際、乙彦は静内の頭に吹き込まれた幾つかの記憶をどうやったら消すことができるかを、少し真剣に考えていた。

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