高一・一学期 2
水鳥中学には「生徒指導室」などといった教室は存在しなかった。
──しごきでもやるんだろか。
乙彦は腕時計を覗きこんだ。まだ八時十分にも到達していない針。早く着きすぎたのかもしれないが、遅刻するよりはいいだろう。まだ手元に残していた謎の先輩・結城穂積から渡された名刺をポケットに押し込むと、乙彦はドアのノブをひねった。くるりと開いた。
「おお、驚いた。ノックくらいしろ」
いきなり驚かされたのは乙彦の方だった。あわててドアを閉めた後、もう一度ノックをしなおし入り直した。面接の時と同じ要領だ。改めて教室を見渡すと、どでかいソファーと低いガラステーブル、そして湯呑と急須のセットが並んでいた。奥の席、いわゆるお誕生席には、顔のてかてか光った眼鏡の男性が、その脇には青大附高の制服を着た男子生徒がそれぞれ座っていた。足が長すぎて、おさまりが悪そう。膝に両手を置いてがっと足を開いていた。
顔に見覚えはある。乙彦はまず、頭を下げた。
「一年A組、関崎乙彦といいます」
じっと見つめられる視線に、まず乙彦は自己紹介をしてみた。
面接の時も同じだった。
「あの、ここでいいでしょうか」
使い慣れない丁寧語を使う。
「ああ、君を待っていたんだ。こちらの席まで来い」
ずいぶんこの先生……おそらく年齢からいって教師であることには間違いないだろう……もくだけた人だ。大人だから見下すような物言いはしかたないにしても、なんだか調子が狂いそうだ。乙彦は言われた通り、その先生の向かって左脇まで進み、そのまま座った。真正面にはもうひとりの男子が固い顔をして乙彦を観察している。あまり口を利いたことはないが、何度か交流会で挨拶したことのある男だった。そう、確か、生徒会長だったはずである。
──名前なんて言うんだったかな。
交流会の時は結局、立村と話をすることが多くて、他の青大附属連中と口を利くことはなかった。向こうもなんだか乙彦の顔を覚えていない様子なのが意外だった。それならそれで、初対面のふりをすればよい。
「予定より早いが、では始めるとするか。藤沖」
「はい、よろしくお願いします」
藤沖と呼ばれた生徒は、腰をかがめるように先生へお辞儀をし、次に乙彦を見た。視線を逸らさずに乙彦も受けた。
「僕は、青大附高英語科一年A組、藤沖勲です。これから三年間、よろしく」
少々しゃちほこばった言い方だが、ぐっと重心が地球の底まで落ちたようなぶれのない声だった。同じくあわせて乙彦も答えた。
「こちらこそよろしくお願いします」
脂ぎった中年男性教師が、藤沖と乙彦を交互に見やりつつ、大きく頷いた。
「初対面だし、緊張もするだろうが、まずはくつろげ。関崎、まずは茶でも飲め」
「茶?」
そういえばふたりの前にはざらついた感じの黒い湯のみが並んでいる。
「午前中はまず、関崎のために用意したようなものだからな、まずはわからないことをここで片付けられるだけ、片付けておけばいい」
「片付ける?」
鸚鵡返ししてみる。言われている意味がつかめない。藤沖は先生の前でそれ以上口を利かず、ただ乙彦の様子を伺うだけだ。なにか言ってくれればまた行動の選びようもあるのだが。仕方なく乙彦は疑問を飲み込み、その教師の様子を伺うのみだった。
濃い番茶が熱いまま、目の前に出された。受け取ろうとしてあやうく落としそうになり、口をつけずにおいた。青大附中の校舎でもやたらと淹れ立てのお茶が出されて閉口したことがある。ジュースとかコーラとかそんなものだったら気にしないで飲めるのに、よくわからない学校である。乙彦は目の前の藤沖と同じくらい膝を開き、両手を置いた。
「まずはだ。自己紹介がまだだったな」
もう一度奥の席についた後、先生は身を乗り出すようにして乙彦に話し掛けた。
「私は、これから青大附高英語科の担任を勤める麻生和夫、まずはよろしくな」
次に、麻生先生は胸ポケットからいきなり名刺らしきものを取り出した。
乙彦に手渡した。
「ここに私の住所と電話番号、その他学校内の連絡先が記載されている。何かわからないことがあればここに連絡しなさい」
「あ、ありがとうございます」
そのまま片手で受け取ろうとしたが、また同じく脂ぎった黒ぶち眼鏡の男の言葉を思い出し、慌てて両手を添えた。押し頂き、頭を下げた。
「そんなにしゃちほこばらなくてもいい。それと、今君の目の前にいる藤沖だが」
言葉を切り、促す気配。藤沖も若干馬面ながらも凛とした顔つきでもって受け継いだ。
「関崎くん、僕が今回、君のフォロー係となる。何かあれば、すぐに聞いてくれ」
「フォロー?」
「英語科に入る外部生は関崎くんだけだから、わからないことも多いと思う。僕も、麻生先生も、その気持ちがわからないでもない。だが英語科の生徒たちはみな、君が来てくれたことを歓迎しているんだ」
「歓迎って」
なんだか自分の頭が小学校を通り越して幼稚園児に戻されたかのようだ。朗々と語る藤沖の言葉には謎ばかりが詰まっている。
「英語科で今回、外部入学者として来てくれたのは、関崎くんだけなんだ」
「え?」
思わずふたりの顔を交互に見やってしまった。違う、そんなわけがない。
「俺が見た限り、合格発表では」
使い慣れない「僕」ではなく「俺」に一人称が代わってしまった。
「もうひとりいたはずです」
青大附高合格発表がその日の夕刊に掲載された段階で確認したはずだ。
ふたりいたはずだ。
すぐに返事をしてくれたのは麻生先生だった。頷きつつ。
「ああ、実はもうひとり入学する予定だった生徒のお父さんがな、海外に赴任することとなったんだ。せっかく仲間が出来るはずだったのに、残念なんだが」
──海外に赴任?
海外赴任する仕事なんて想像したこともない。
「ということで、今回外部からきてくれたのは君だけということになる。今日あえて朝っぱらから来てもらったのはまずだな」
藤沖にまた話を振った。慣れている様子で藤沖もつないだ。
「クラス全員のオリエンテーションは昼飯が終わってからだ。それまでにまずは、学校内を案内したいと思う。少し入り組んでいる学校だから、わかりづらいところもあると思うから、そういうことで」
「ありがとうございます」
頭の中で、自分の置かれたポジションをつかみかねていた。
もちろん藤沖も、麻生先生も、英語科入学を果たした乙彦を歓迎したくてこのような席を設けてくれたのはわからなくもない。もし自分が逆の立場だったら当然だとも思う。
しかし、自分が「迎え入れられる立場」ともなると、感覚は全く異なる。
初めてきた場所というのは重々承知している。
自分ひとりで、うろうろしつつ、嗅覚でもって掘り進んでいく、それが普通ではないのか。
何も幼稚園児のように、保護者まで用意して、「わからないことがあったら聞いてくれ」というのは何か、男子に対して失礼じゃないのか。そんな気もかすかにする。
もちろんそんなことは顔に出せないが。
しばらく乙彦は麻生先生と藤沖が交互に話す内容を、注意深く聞いていた。
お茶が少し冷めてみたようだった。まずはごくりと飲み乾した。
「まずはオリエンテーション用の資料なんだが。関崎、宿題は一通り終わらせたか」
「はい」
合格発表後すぐに送られてきた問題集、五教科の宿題として渡されたワークノートを取りだした。麻生先生は受け取り、テーブルの上に置いたまま、
「今日の帰りに、君にだけあと一週間分の宿題を渡すが、これは決して君をいじめているわけではないので、それはよく理解してほしいんだ」
──なんだよそれ、なんでまた。
いくら水鳥中学三年連続首席の乙彦も、宿題を愛しているわけではない。
「まだピンとこないのも当然だろうな。青大附高の授業は、基本として青大附中からエスカレーター式で入ってきた生徒に合わせざるを得ない」
「はい」
「また、青大附中の授業内容は、公立中学の授業内容と大幅に進度が異なる。英語で言えば、一通り文法知識の授業は終わり、高校に入ってからは主に長文読解と作文、あとはヒアリングの訓練一色になるわけだ。しかし公立高校においてはまだ、文法の授業はまだ残っているはずで、君もまだ、習っていない単元がかなりあるはずだ。水鳥中学の学習授業要項をまず見る限りではな」
その可能性はあるだろう。しかし、そこまで差をつけられていると、露骨に言うのには何か意味があるのだろうか。わけがわからない。
「もちろん、それについては私を始め他の先生たちが君のために全力尽くしてフォローを行っていく。あとで説明するが、六時限の授業後、君には一年間、二時間分の補習を毎日行う予定となっている。まずは一年、他の内部入学者たちの授業に追いついてもらえるよう、先生たちが全力で叩き込む」
──本気なのかよ。
また目眩がしてきた。本当は放課後、可能ならば夕刊の新聞配達アルバイトをしようかと考えていたのだが、それも不可能だ。
「最初のうちは授業が何言っているかわけがわからないだろうし、成績の順位も、こういったら何だが、かつての自分とはかけ離れていると感じることもあるだろう。だが、そのことは一切心配しないでいい。この一年はまず、青大附属の空気と授業に慣れることに専念してほしい。そのための準備は、私の方で完璧に整えておく」
「俺のため、だけにですか」
またも麻生先生は頷いた。
「補習自体はこれから先いろいろな生徒が出たり入ったりするだろう。が、まずはやってみることだな。それからまたゆっくり考えればいい」
──補習なんて、生まれてから一度もやったことないってのにな。
決して、名誉あるものではない。自慢じゃないが乙彦は宿題も忘れたことがないし、もちろん追試も受けたことなどない。補習なんてとんでもない。
なのに、青大附属に入学した途端、補習坊主の扱いをされてしまうとは。
膝をなんどか掻いた。
「次に教科書に関してだが」
もう一枚、手書きのメモを手渡してくれた。そこには十冊ほど問題集の題名が記載されていた。
「これは、主に青大附属の生徒たちが日常的に使用している問題集だ。オリエンテーション用のプリントには記載されていなかったが、これはある意味副読本のようなものなので、必ず用意するようにしてほしい。また、英英辞典、ことわざ辞典、その他も」
──また金がかかるのかよ。
家に帰ってまた、母にねだることになるのだろうか。
頭を抱えたい。乙彦は溜息を押し殺した。困ったことになる。これから制服をさらに三着用意しなくてはならないし、おそらく夏服の問題も出てくるだろう。入学前でこれだけかかり、しかも補習のからみで放課後以降のアルバイトもできないとなると、関崎家は火の車だ。さらにこれから弟の進学も考えるとなると、どうにかして捻出するところを考えなくてはならない。乙彦はしばらくその紙を見つめていたが、やがて決心した。
──貧乏くさいといわれたって、うちは貧乏なんだしょうない!
「質問していいですか」
乙彦は顔をあげた。
「なんでもこい」
「うち、今すぐ全部用意する金がないんですが、何を優先順位で用意すればいいでしょうか」
あっけに取られたふたりの顔を読み取って、乙彦はあらためて、自分が異邦人であることを自覚した。もう少しオブラートに包んだ言い方をしろと、母は言うかもしれないが事実は事実だ。仕方ないのだ。こんな大金、悪さでもしなければ手に入るわけがない。乙彦は勢いづいて続けた。
「プリントには冬服を四着とありますが、うちにはまだそれを準備する余裕がありません。後日用意するつもりではいますが、今すぐと言われると、困ります。勉強はたくさんしたいし、補習も皆勤するつもりですが、これ以上本を買う量が増えると、制服を買い足すことができません。それと、ジャージもです」
「制服なら、先輩たちが譲ってくれると思うぞ」
気まずい沈黙を破ったのは藤沖だった。最初のしゃちほこばった口調とは違い、真面目ながらも柔らかな空気が漂ってきた。やはり乙彦に向かい、前かがみで。
「生徒会関係で先輩たちに当たってみようか。俺もそれなりに心当たりがある」
「そうかそうか、藤沖、そうしてくれるか」
いきなり頷きあう二人を、乙彦はあっけに取られて見つめていた。さらに藤沖は首をのけぞらせて考えていたが、
「それと、問題集と辞書も先輩たちにあたって聞いてみようか。たぶん、英英辞典とことわざ辞典はわけてもらえるだろう。さすがに問題集は難しいかもしれないが、俺の分をコピーするという手もある。先生、それでいいですか」
「コピーか。できれば直接本を持っていてほしいしなあ。わかった、それは私の方でも古本がないか探してみよう」
「先生、僕が古本屋にこれから連れて行きます」
なんと、乙彦をさておいた状態で、話がどんどん進んでいく。
あっけに取られた乙彦に、ふたりはまた前かがみの状態で、メモを取ろうとしつつ尋ねた。
「他に、困っているものはないか? 関崎?」
「関崎くん、何でも言ってくれ」
──何でもったって、俺が何か言ってどうなるっていうんだ?
しばらく乙彦は麻生先生の説明を聞きながら、頭の中のそろばんを必死にはじいていた。どうやらこの学校でははんぱじゃなく副教材費が掛かりそうというのがひとつ、同時にその教材のほとんどは先輩たちから融通してもらえる可能性があるというのもひとつ。さらに教科書関連はうまくすれば古本屋で手に入れられるというのもひとつ。
なによりも仰天ものは、
──俺の家が貧乏だってのを、全くばかにしないで受け止めてるこいつら。
である。制服四着も購入できないとか、これ以上教科書を買えないとか、そういうタイプの生徒が今まで青大附属に入ってきたことがあるのかもしれない。だがしかし。目の前にいる藤沖にいたっては、留年でもしていない限り乙彦と同い年のはずだ。フォロー役に選ばれるということからしてそうだろう。
──俺の顔を覚えていないにしてもだ。生徒会長だしな。
なんで藤沖は乙彦のことを知らない風に振る舞い、そのくせフレンドリーに接しようとするのだろう。このあたりも理解できない部分だった。先生がいなければそのあたり、確認をしてみたいところではあるのだが。
「ではまず、藤沖に従って、学校内をじっくり回っておいで。それが終わってから一度この教室に戻り、それからあらためて、君の授業スケジュールについて説明したい」
麻生先生に促された後、乙彦はふたたび生徒指導室を出た。藤沖が自ら立ち上がり、ドアを開けて待っていた。
それにしても妙なものだ。
すでに顔見知りで、おそらく何度か話もしたことがあるはずなのに、初対面のふりをしてしまったというのは。普段の乙彦なら先手を打ってさっさと挨拶をしていたはずなのに、なぜかふたりに気圧されてしまい、そのペースに乗せられてしまったといえばいいのか。
肩を並べ、ふたりはゆっくり階段を降りていった。かすかに外から運動部の練習している様子が掛け声とともに伝わってくる。それぞれの教室には人気もない。ただすれ違う先生たちに藤沖が、必ず一度立ち止まり、四十五度の礼をしている姿が目立つのみだった。乙彦もあえてそれに習った。なにせこの学校の校訓は「紳士であれ、淑女であれ」なのだ。
しばらく黙ったまま一階まで降りると、藤沖は肩を怒らせて深呼吸し、乙彦に向き直った。
「初対面のふりして悪かった」
「やはり覚えていたのか」
「当たり前だろう。生徒会長としてそのくらいは常識だ」
「いや、覚えていたんだったらそれはそれでいいんだが」
どうしてそんなことした? そう聞きたい。藤沖も少し表情を和らげた。
「麻生先生は青大附中の状況をあまりご存知ないらしい。また、俺も生徒会時代のごたごたを高校まで持っていきたくない。クラスの連中とは所詮そんな小細工する必要もないのだが、先生たちとの付き合いにおいては不必要なことをばらす必要も、今のところはない」
「ごたごたって、なんだそれ」
すでに知り合いである以上、丁寧語を遣う必要もない。
「あとで関崎にも話すことになるだろうが、まずは青大附属の校風に慣れてからでいい。今の麻生先生の話を通して考えると、これから俺が、否応なしに関崎と真正面から話をすることになるわけだ。いろいろ、その時おりに知ることもあるだろう」
つまり、今話す気はないということか。どうも歯にものの挟まったような言い方だ。
乙彦には苦手な思考回路である。
「だが、俺は」
言葉を切り、改めて藤沖は乙彦と歩調を合わせた。
「お前のようにはっきりとものを言う男とは、ぜひ三年間じっくり話をしたい。まずはさっさと慣れてくれ。まずはここが一年A組の教室だ」
しゃちほこばったような口調と共に、にじみ出る熱の温み。春の陽射しにも似ていた。
誰もいない教室のドアをさっと開いた。勢いよく開き、ゆっくり閉じようとするのを乙彦は押さえた。中から溢れてきたのは、真っ白い光の洪水だった。
──まぶしすぎる。
目を細め、ふたたび乙彦は手をかざした。
「あとから麻生先生がプリントを用意するだろうが、五十音順に男女並ぶ形となるはずだ、たぶんこのあたりが席だろう。どうせ二十一人しかいない教室だ。顔もすぐ覚える」
「本当に二十一人しかいないのか?」
その、外国に家族で赴任した生徒がこないということは、そうなるはずだ。藤沖は両腕を組み頷いた。
「うちの学校の英語科は、中途半端なところがある。しかたないだろう」
「中途半端とはどういうことだ?」
藤沖は視線を宙に舞わせたまま、継ぎ足した。
「麻生先生は親の仕事の都合と言っていたが、本当のところは違う」
「特別な理由でもあるのか」
「どうやら、本人の能力に合わせて、父親が海外赴任を選んだらしい」
言っている意味がわからない。まぶしすぎた。藤沖もわかりづらいと判断したのか、すぐに説明を付け加えた。
「英語にとどまらずかなりの能力を持った奴だったらしい。青潟で生活しているのならばもちろん、青大附属がベストな選択肢なのだろうが、世界的な視野から見ると学校のレベルが低いと親が判断したらしい」
「世界的な視野?」
ますます宇宙語状態だった。世界的な視野からというが、青大附属のレベルが低いとはどういうことだろうか。それ以上の学校選択肢というのはあるのだろうか。藤沖はさらに続けた。
「その生徒にふさわしい学校を、青潟だけではなく全世界の中から選んだ結果、外国の学校に進学させた方がよいと、両親が判断し、それを最優先に考えた結果、父親の海外赴任が決まったという、それだけのことだ」
──まぶしすぎる。
視界がまだ白いままだった。乙彦はまだ真新しい自分の制服を見やった。
茶色に薄い黒のチェックが入っているその制服をまとうのに、重ねた日々。
織り込まれた誇り。
それ以上のものを、簡単に選ぶことの出来る同い年の生徒がいる。
「人は人だ。合格発表から俺は、関崎が青大附属に来てくれるのが楽しみだったがな」
その声も、乙彦には白い光にとけて、かすれていった。