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高一・一学期 26

 最後に口を押さえるようにして降りてきた立村に乙彦は、

「大丈夫か」

 月並みな言葉で尋ねた。黙って首を振り、数回咳をした後、片手で握り締めていたハンカチで口を覆い直しふらふら歩いていった。到着後すぐ、クラスごとに整列しなくてはならないのだがどうもそれができる状態ではなさそうだった。

「ほらほら、保健委員、早くどっかに連れてきなよ」

 古川こずえが保健委員に声をかけている。

「えー? 俺があ?」

「しょうがないでしょうよ。あいつの状況みたらもう脱水症状ぎりぎりだってわかるでしょうが。バスの中でもう何もなくなるくらい吐き続けてたんだからさ。まずは寝せないとまずいでしょうよ」

「けどそんななあ」

「早く追っかけて、ほら」

 背中をどんとひっぱたかれ、仕方なさそうに男子保健委員は立村の背中に近づいていった。何か声をかけてみるが、立村から拒絶されたのかまた戻ってこようとする。ふたたびこずえに蹴りを入れられそうになり、一歩飛んだ。

「無理やり襟首ひっつかんで、まずは保健の先生とこに連れてきなよ。それよか麻生先生かなあ」

「麻生先生が筋だろう」

 隣で藤沖が、男子連中をざっくり眺めながら冷静に正論を言う。

「そうだけどさ、当てにならないじゃないの。行きだってさ」

 返事を待たずにさっさと宿泊施設の玄関前まで走っていった藤沖を見送り、古川は乙彦ひとりにぶつけ出した。

「立村がひとりで後ろの席に避難した時も、勝手にしろって顔してたじゃないの。まあね、あれだけ酷く酔ってたとこもろに見たら、きっと周囲にもうつっちゃうからね。あいつもそのあたり気を遣ったんだろうけどさ」

「しかし乗ってから十五分くらいであんなに車酔いするものか?」

 確か、先頭の席でひとり座っていた立村が麻生先生に、

「すみません、本当に酔ってしまったようなので、後ろの席で横になっていいですか」

 と頭を下げ即、鞄を抱えて後ろにもぐりこみうめき出した時はさすがにみな青くなったものだった。かろうじて醜態をさらけ出すことはなく、いわゆるお手製のエチケット袋でなんとかしのいだようだったが、やはり相当な苦しみようだったことは想像がつく。みな、知らん顔をしていたもののやはり気分は滅入る。バスガイドがいるわけでもなく、しかたなくみな意味もなく喋りあうだけだった。

「前から乗り物酔いしやすいとは聞いていたんだけどね、立村って」

 いつのまにか二人で並んで歩いていた。古川も女子と付き合いがあるのだろうに、なぜ乙彦にひっつくのだろうか。まあいい、事情は聞いておいたほうがよい。

「ただ、なんだかんだいってバスの中でみな合唱大会やったりゲームやったりしてたからね。気も紛れていたんだろうし、羽飛や美里もいたからね。でも今回はちょっとさ」

「そういうことだな」

 乙彦は立村が保健委員に連れられて先にホテル内へ入っていくのを見届けた。古川と話をしている間に誰かかしら手配をしたのだろう。とてもだがこれから、

「ドッチボールなんてやってる気力ないよね」

「やるのか? 本当に?」

 問い返すと古川は大きく頷いた。

「藤沖も乗り気だからね。まあ、立村があの状態だったら参加するとは思えないし、もともとうちのクラス二十一人だからこれで男女混合チームが十人ずつ、半々になるし。あいつには悪いけど、まずはしょうがないんじゃないの? それにしてもねえ、藤沖もいきなり面白いこと言い出すよね。各クラス対抗円陣ドッチボール大会だなんてね。笑っちゃう」

 笑えない乙彦は黙っていた。

 藤沖にドッチボールを発案させたのは、明らかに乙彦だと自覚していたからだった。

 

 新歓合宿の内容は二泊三日日の予定だった。

 さすがに乙彦もそこまで捻出できなかったので、今回に関しては両親に費用を任せる形とならざるを得なかった。非常に口惜しい一方で、父の、

「おとひっちゃん、お前はできることを十分しているんだ。安心して行って来い」

 一言に救われたような気もしていた。正直この時期は弟の合宿や兄の授業関連で使う器具の用意とかで物入りのはずなのだが、全くそんな気配すら感じさせない。自分なりにできることをする努力はしているが、それが大河の一滴に過ぎないという現実にも気付いている。この合宿中、みつや書店へのアルバイトも必然的に休まざるを得ない。

「関崎、荷物を置いたらすぐに集合だ。お前が一番ルール知っているはずだから仕切れよ」

 まずはホテル内の各フロアへと向かい、乙彦は藤沖に問い返した。

「俺が何を仕切れというんだ。とりあえず今朝の段階で荷物検査は終わらせた」

 もちろん、南雲の指示通り、着替え関連の荷物には手を触れないようにして、こっそり持ち込むことに関しての逃げ道をこしらえて、だが。

「規律委員としてはそれ以上の仕事はない。が、一年A組のメンバーとしては最大の仕事がある」

「なんだそれは」

「ドッチボール大会、勝利だ」

 勝利だ、と言い切られても困る。なぜ藤沖は四角い顔に妙な気合を込めて発するのだろう。

「関崎、ゴールデンウイークは燃えたんだろう」

「それなりにな」

 雅弘たち水鳥中学の友だちと連れ立って、公園で派手にボールをぶつけ合ったのは今だに腕と膝に感覚がしっかり残っている。別名、筋肉痛とも言う。手は抜かなかった。

「それならば、今回も俺たちの圧勝だな」

 自信ありげに藤沖は鼻の穴を膨らませた。乙彦も本来ならもちろん、と言い放ちたいところだが、正直言うと若干の不安がある。一ヶ月体育でA組連中の運動能力を観察してきたところ、言っちゃなんだがいまひとつ敏捷性に欠ける印象を持った。今のところ乙彦が陸上関連の競技ではクラス一のタイムを誇っているが、果たしてこれが他のクラス連中に通用するかどうか……非常に読みづらいところではある。

 いや、なによりも藤沖に少し期待はしていたのだが。

「ひとつ聞きたいんだが、青大附属ではあまり部活動に力を入れていないと聞いたが」

 遠まわしに聞くのもなんだが、さりげなく乙彦は尋ねてみた。

「そうだ。だから中体連ではいつもぼろ負けだ。最近はそれでも少しずつ力をつけてきているとは聞くが、俺たちの代は悲惨なもんだった。競争心が失せていたからな」

「そうか、だからあまり誰も、体育の際に燃えないのか」

「その通りだ」

 いかつく答えた藤沖は、ふと乙彦に意味ありげな視線を送ってきた。

 よくわからない、まずはしっかとと見返した。

「火をつけるのは、関崎、お前だ。頼んだぞ!」

 いきなり背中をどつかれ、つんのめった。

 ──俺が火をつけるってどんな風にだ。

 みな、乙彦に妙な期待を持っているような気がする。もちろん、それが励みにならないとは言わないが、あまりにも露骨だとこちらの方が白けてしまいそうになる。


 部屋はみな、一部屋大部屋を使う形となっていた。すでに立村だけが布団を敷いてもらいあお向けに横たわっているのが見えた。障子の陰で、ちょうど出入り口の側。入り口のトイレに頭を向ける形だが、直接出入りする際には邪魔にならないような絶妙な場所にいた。

「しかしな、今年はホテルじゃねえのか」

 低い天井を見上げため息をつく奴らがいる。

「そうだよなあ、初めてだよなあ。学校の宿泊施設なんか使うのはな」

「ほんと。なんかわびしいってな」

 立村の様子を伺いたかったのだがまずは、元気な連中と話をする。

「ホテルなんか使ったことあるのか?」

 みな、乙彦の顔をまじまじと見つめ、大きく頷いた。ひとりが「あ」と気が付いた風に口を開き、

「関崎は知らんわな。そだ、そだ」

 すぐに説明をしてくれた。

「中学の時は、みな近くの旅館とかホテルとか、そういうとこを利用してたんだ。二年の時は自分らで泊まる場所を決めてな」

「ちょっと待ってくれ。自分らで泊まる場所を決める?」

「そ。クラスによって泊まりたい雰囲気ってあるだろ? 俺たちは大部屋オッケーだけど、中には小部屋でないとやだって言い張るクラスもあったりしてさ」

「ああ、D組なんかそうだったよなあ」

 完全に日干し化して横たわっている立村にかがみこみ、「な、立村」と声をかけた。返事をせずに目を閉じたままでいる。乙彦も近づいてみたが、呼吸が荒かった。真っ白い顔のままで苦しそうに息をしていた。これ以上問うのは人間として思いやりなさすぎだろう。

 返事がないということは、語ってもかまわないということだ。そう判断したのか、さっそく続きを語り始めた男子連中。車座になり、荷物を小脇に抱え、あぐらをかいた。藤沖が乙彦に「悪い、これその辺に置いといてくれ」と囁きさっさと部屋から出て行ったのを見送り、自分も続いた。

「中学二年ったら、宿泊研修だろう? 宿泊研修に生徒が口出しする権限なんかあるのか。うちはなかったぞ」

「公立はねえよ。やっぱ青大附属だし」

 わかりきった前提条件。「公立」と「青大附属」との落差は大きい。

「評議委員が主導して、どこに行きたいか、どんな宿に泊まりたいか、で、何をしたいか、全部決めるんだ。俺のとこだと女子がやたらめたら強かったから、ファンシーな海辺のペンションとやらに詰め込まれたぜ。ま、安かったからよかったけどな」

「ペンション?」

 絶句した。もちろん「ペンション」がどういうものか想像つかなくはない。だが、修学旅行なり宿泊研修なりといえば、やはり原点は「旅館」だろう。この部屋のような大広間、畳の上でごろんと横になるのが普通だろう。立村が起きていれば「お前のクラスもそうだったのか?」と話を振りたいところだがいかんせん、相手は死んだように寝ている状態だ。

「で、立村のクラスはどうだった?」

「ああD組な。D組はすごかったよなあ。立村が全部ビジネスホテル選んで、そこでツインルームを取る形にしたんだと。これ、先生たちからは度顰蹙だったらしいぞ」

「そうそう。けどそれでも、OKが出てしまうのがやっぱ、青大附属だよなあ」

 ──ビジネスホテルでツインルームを取る? 

 いつものことだが話の展開についていけずにいる。青大附属では、合宿ごときにビジネスホテルを使うのか。乙彦にはビジネスホテルというのがどういうものなのか知らないが、まず修学旅行で使うことは考えられないような選択肢であることは感じていた。

「汽車を使うかバスを使うかも全部、評議が決めるんだがな。あの時も立村、こんなにへろへろに酔っ払ったか?」

 車座の中にどうやら立村と同じクラスの奴はいないらしかった。

「それにしてもなあ、たった一時間しか乗ってねえのになあ」

 かすかに、囁くような声が布団からした。

「余計なお世話だ」

 立村の、渾身振り絞った意思表示だった。


 すでに乙彦も青大附属独特の文化には驚かなくなってきていた。経済観念うんぬんでびくついていては楽しめるものも楽しめない。クラスの連中もなぜか、乙彦が自分で学費を稼いでいることに対して深く尊敬の念を感じているようで、取り分けて何かいやみをいう奴はいなかった。その点は安心していた。

 しかし、こういう時にふと出てくる、一歩進んだ経験を知ると、どこからか焦りがにじみ出てくる。修学旅行の際にもちろん、自由行動の計画を立てて先生に提出し、その通りに行動したことはある。しかし、たかが三時間程度。もちろん宿の決定権などあるわけもない。青大附属の修学旅行自由時間というのは、本当の意味で「自由」だったらしいし、それで特段問題も起こらなかったらしい。大抵の中学ならば、

「中学生を野放しにするなんて、なんて無責任な!」

と絶叫される内容ではないだろうか。それがうまくいくところに「青大附属」というものがあるのかもしれない。

 ──俺だって、やれ、と言われれば、やれたはずだ。

 自信はもちろん、ある。やることを許されなかったからやらなかっただけのことだ。

 しかし、その自信と、実際「やり遂げた」者との差は歴然としているのもまた事実。

 ──今度、夏になったら、一人旅の計画を立ててみよう。

 ゴールデンウイーク中の家族旅行でリーダー争いを父・兄と自分の三つ巴でやらかしていただけでは、こいつらに追いつくことはできない。


 一応、藤沖からは第一日目の予定をバスの中で逐一説明してもらっていた。しばらくクラスの男子連中と、干からびた立村の寝姿とを交互に眺めながら乙彦は予定を確認した。

「これからまず、クラス内ドッチボールの選抜戦を行うわけだが」

 藤沖の説明によると、まずクラスのメンバーを適当に混ぜ合わせ、その上で男女半々の混合二チームをこしらえる。その上でドッチボール予選を各クラス内で行い、そこで生き残ったチームがくじ引きで勝ち抜き戦を競っていく。ただ英語科はどうしても人数が少なめなので、勝ち抜き戦となった段階で普通科のチームは人数を減らさざるを得ない。でないと不公平になる。

「ほおお、俺たちの人数に普通科連中が合わせてくれるってことか。少々優越感がなきにしもあらずか」

「不公平でないように、男女ともどもこれからくじを引くんだそうだ」

「立村がぶったおれているから、問題なくフィフティ・フィフティになるな」」

 倒れている立村も異論を唱えなかった。

 ──本当は身体動かしたいだろうに。車酔いしやすい体質てものも因果だな。

 乙彦はそっと片手を立てて、立村に無言の詫びを入れておいた。目を閉じているので気付いていないようだった。

「午前中にクラス予選を行った後、昼飯食って、その後でまたってとこだな」

「まだ十五分くらい時間があるぞ」

 腕時計をそれぞれ覗き込んだ時だった。


「わりい、立村、いるか?」

 どやどやと乗り込んでくる他クラス集団に、思わず身がまえた。いや、身構えたのは乙彦だけだった。A組の男子どもは特に驚いた顔もせず「よお」とかなんとか声を掛け合っている。見たことのある顔ぶれだが、こうやって同じ部屋で会話を交わすのは久しぶりの連中だ。

 ──天羽、難波、更科。

 元・青大附属中学男子評議委員の顔ぶれを忘れてはいなかった。

 もっとも乙彦を覚えているわけではなさそうで、すれ違ってもたいして声もかけてこなかった。おそらく忘れているのだろう。少し場所をこしらえるべく、窓辺にA組男子は輪を作り直し座った。ひょいと見ると、隣にはいつのまにか片岡がいた。音も立てずに身軽なことだ。

 髪の毛をスポーツ刈りにした天羽が、片岡の顔を覗き込み、

「お前、うまくやってっか」

 ぽんぽんと頭をはたいた。真剣に頭をなでさする片岡に、また天羽は何かを囁いた。乙彦には聞き取れなかった。

「元気だよ」

 返事をする片岡。少しイントネーションが変だった。

「お前の愛だよ、愛」

「そんなんじゃ」

 意味不明な会話を交わしている間にも、めがね面の難波とやたら小型犬風の愛想のよさをふりまく更科が、立村の枕もとにかがみこんでいた。

「お前、たった一時間でへろへろしてんじゃねえよ」

「……悪かった」

「謝るんじゃねえ。それよか、お前、起きられるのか」

 結構きついことを言っているようだが、難波の奴、意外と友だち思いではないか。側で相変わらずにやにやしている更科が、難波の肩に両手を置いて立ち膝して話し掛けている。

「それよか、夕方、いつものあれ、やる?」

「……そうだな」

 また、死にそうな声で返事をする立村。

「とにかく、無理すんじゃねえ。ドッチボール終わったら俺たちからこっちにくる」

「……いや、たぶん起きられると思う。こっちから行く」

 あえて場所を移動したのも、彼ら三人がやたらと秘密めかした会話をしたそうに見えたからだったが、なにやら意味ありげなことを口にしているようだった。クラスでなんとなく浮いているままの立村だが、休み時間はいつもC組で語り合っている様子だった。もう少しA組連中と積極的に馴染んだほうがいいんじゃないかと、他人事ながら乙彦は思うのだが、立村にはまた別の理由があるらしい。

 しばらく片岡相手に話を振っていた天羽が、突然乙彦に興味ありげな目線を送ってきた。慌てて受け止める。全くの初対面では決してない。

「よお、お久しぶり」

「ああ。挨拶が遅れてすまない」

 軽いようだが、目つきがやたらと鋭いのが気に掛かった。そういえば確か、天羽は立村がわけありで評議委員長から降りた後、後釜に入ったと聞いている。でもこうやって見舞いにくるのだから、特に気まずいことはないのだろう。交流会で何度か顔を合わせてそれほど印象はなかったのだが、やたらと人を笑わせたがるところが妙にひっかかっていた。うまく言えないのだが、「作り笑い」に似ていて素直に笑えるところがなかった。総田とはかなり話も合い盛り上がっていたようだが、乙彦とはどうも住む世界が違うような人種に思えた。結局乙彦は立村としか連絡をとらなかったわけだが、仮に天羽が評議委員長だったとしたらここまでの交流は取れなかっただろうとも思う。

 まあ、それはそれ、これはこれ。これからは同期だ。

「規律委員はなかなかしんどいだろ?」

「いや、面白い」

 正直に伝えた。

「持ち物検査がか?」

「いや」

 かみ合わない会話、やたらと重たい。内容はくだらないものなのに、話すだけでしんどくなる。天羽が評議委員長となった後期評議委員会、いったいどういう風に進んだのだろう。全く想像がつかなかった。

「まあ、なぐっちゃんがいるからなあ。ま、これからもよろしゅう、お願いいたします!」

 わざとらしさを感じる明るさでもって、天羽は頭をかきつつまた一礼した。

 同時に、難波が鋭い目で乙彦を見やった。

 更科がやはり作り笑いでもって、乙彦に小首を傾げてみせた。


 ──俺、何か、あいつらにしたか?


 横たわり、弱々しい声で会話を続ける立村との距離はまだ感じない。

 ただ、何か天羽たちのかもし出す空気に、強烈な違和感を覚える。

 総田や川上たちともまた違う、独特の冷ややかさがある。

 冷たくどろりとしたヨーグルトのような、すっぱい匂い。


 ──たいしたことじゃない。まあいいか。

 そんなことを気にしていては青大附属独特の文化を受け入れることなんてできはしない。

 もともと、細かいことを気にする性格ではない。天羽たちのことはさておいて乙彦は、隣の片岡に、

「この前迎えにきた人、親戚の兄さんと妹か」

 まず尋ねた。まずは会話のとっかかりを見つけたかった。後部座席に座っていた大人しそうな女子はおそらく、片岡の妹だろう。

 顔を下に向け、片岡は首を振った。

「そうじゃない」

 それ以上、答えなかった。乙彦も今はそれ以上尋ねなかった。合宿関連の定めで夜はたんまり語り合うことになるだろう。その時にでも聞けばいい。

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