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高一・一学期 24

 予想はしていた。前もって麻生先生や藤沖からも釘は刺されていた。

「最初の実力試験結果が出ても、腐るなよ」と。

 だからといって最初から諦める気はさらさらなかった。だから全力を尽くした。二ヶ月前の高校受験勉強貯金もまだ残っているはずだったし、入学してからも補習はほぼ完璧に出席してきた。授業だって風邪での早引きさえなければほぼパーフェクトだったはずだ。

 ──俺のどこが、悪いんだ?

 今まで見たことのない点数が赤ペンで綴られた答案を五枚、ひっくり返しつつ乙彦はしばし、放心した。


 英語、五十五点。

 数学 六十八点

 理科 六十二点

 国語 四十九点

 社会 七十五点


 ──嘘だろう?

 現実を見つめよと言われても、これは酷い、酷すぎる。

 生まれてこの方、九十点以下の点数を取ったことはなかった。

 唯一しくじったのが四年前の青大附中入試のみ。

 それでも自己採点では決して絶望すべき点数ではなかったはずだ。なのに、なぜ。

 ──なんでだよ。

 読み返すこともできず、右端を折り返したまま畳み込んだ。

 本当だったらすぐに破り捨てて忘れてしまいたい。見たくもない。しかし点数は記録されすぐ自宅に送り返されることだろう。親の手元に届くだろう。おそらく、失望させてしまうに違いない。

 ──こんなんで俺はどうしたらいいんだ。

 まだ学年順位は発表されていなかった。教室内がまだ答案返却直後の騒がしさで溢れている中、乙彦はただ机のカンペンケースを見つめていた。


 五教科まとめてクラス担任が返却するというのも妙ならば、答案用紙を所定の専用ファイルに閉じこんで教室におきっぱなしにするというのも理解しがたい。青大附高の方針には今だついていけないところが多々あった。

「いいか、よく聞けよ」

 ゴールデンウイーク前日、よりによって気の重たい帰りのホームルーム。

 心なしか麻生先生の額には汗がだらだら状態で光っていた。

「今日はきちんと答案をファイルして帰るように。さすがにゴールデンウイーク前、こんな問題を読み返したい奴もいないだろうしな。だが終わった後は覚悟しろよ。問題を脳にちりめん皺ができるくらい押し込むからな」

 ──意味がわからないぞ。

 比喩が意味不明なまま、乙彦は麻生先生の顔から視線を逸らした。汗がこちらにもうつってだらだら状態になりそうだ。

「しかし、今日の結果がすべてではないぞ。今回結果がよかった奴、悪かった奴、それぞれの思いがあるだろうが、大切なのはこれからなんだ。これから死に物狂いで頑張ることができるかどうかが鍵なんだぞ。安心して手抜きをするか、やばいと発奮して必死に勉学に勤しむかによって、それぞれ変わってくる」

 ──ついていけるのか、これで。

 少なくとも国語四十九点を挽回する方法が見出せない。

「だがな、現段階において、自分がどのくらいの位置付けをされているのかはしっかりと見つめる必要がある。何が得意で何が苦手なのか、そこからは目をそらすな。点数を見るのではない。どういう問題によって足をすくわれたのか、それをじっと見つめること。それが大切だ。では、今日はこれで終わる。諸君、楽しいゴールデンウイークを過ごせよ!」

 ──楽しくならないだろうが!

 乙彦はしばらく膝をいじくりながら唇をかみ締めていた。放課後、いつものように補習授業に出なければならない。先生や先輩たちに指導してもらうのは苦にならないが、今日の試験結果を話題とされるのは耐えがたかった。


「関崎、どうだった」

 世話焼き藤沖は帰りの号令をかけ終えるやいなや、即、乙彦の席に駆け寄ってきた。そんなに嬉々として飛んでこなくてもよかろうに。内心忸怩たるものを感じつつ、それでも乙彦は立ち上がった。とにかくこの場はなんでもない風を装う。

「きつかったな」

「やはり洗礼を受けたか」

 ──なぜ、そういうわかったようなことを言う?

 最近は藤沖の兄貴分的口調にも慣れつつあったのだが、やはり精神的ダメージが強い時には避けたかった。聞こえないふりをするつもりだったがやはり突っ込んでくる。

「この前も話したが、決して落ち込むことではないぞ」

「落ち込んでいい点数というのがやはりあるだろう」

 とてもだが藤沖の前で国語四十九点というのを口には出せない。女子たちが教室からまとまって出て行くのを見送りながら、藤沖はさらに喋りつづけた。

「今回の試験内容は、内部生の俺たちでもかなりきついというものだったから、当然だ。特に英語、あれをあっさり解ける奴はそういないだろう」

「立村は満点取ってたが」

 個人点数を発表したわけではない。ないのだが側の席で古川が、

「立村、あんたの答え見せてよ。どうせ模範解答なんでしょ」

 とか口走りながら無理やり立村から答案を奪い取っていたのを目撃しただけだ。その右端あたりに小さく「100」と勢いよい文字が走っていたのも。

「人は人、それぞれだ」

 藤沖はあっさりと流した。

「問題がすべて英文で、しかも半分以上は英作文というのは、はっきり言って公平ではない。関崎はこういう問題を解いたことあるか?」

「ない。英語の問題は日本語で書いてあるのが普通だと思うが」

 答案を最初に配られた時、頭の中が凍りついたのは日本語が一文も載っていない問題用紙だったから。それを読まねばならない、そこから躓いた。しかも後半半分はまるまる英作文ときた。長文読解かつ英文での要約。ただでさえ出された長文の内容が意味不明なのに、それを要約というのはどうすればいいのかわからない。適当につないで意味が通るようにしてはみた。そのつもりだったが結果は数字としてはっきり現れた。現実だ。

「藤沖、附中ではやはりあのような問題がちょくちょく出たのか」

 信じがたいが聞いてみることにした。補習には遅れてしまうかもしれないが、聞いてみないことには動けそうにない。ついでだ、根を生やしてしまおう。

「ああ、ある。附中の場合だいたい中学二年の段階で文法関連の授業は殆ど終わる。理由は考えたことなかったが、今思えばそれ以降英作文とスピーチの授業ばっかりやってたからそのあたりが原因なのかもな」

「文法の授業が終わるって、どういうことだ?」

「俺にそれを聞かれても教師じゃないしわからないが。ただ、中学三年からは作文をやたらと書かされたぞ。それを全部読み上げさせられ、恥をかかせられ、また赤ペンを入れられるという胃の痛くなりそうなことをやらされるわけだ。一応、リーダーというものはあるんだが、主にそれはスピーチの練習みたいなものだ。とにかく大変だ」

 半分以上藤沖の言いたいことが理解できないが、とにかく公立中学の授業よりも進んでいるということだけはなんとなく伝わった。

「次に、数学についてだが」

 頼みもしないのに藤沖は次々と結果分析を行っていった。いったいこいつは何点くらい獲ったのだろう。こちらは聞かれたくないので聞く気もないが、気にはなる。

「あれも一応、附中では習った問題だが、微分・積分なんぞまだ公立ではやっていないだろう。ああいうのを外部生と比較するのはかなり不公平だ。関崎、お前は決して恥ずかしいなどと思う必要はないんだぞ」

 ──余計なお世話だ。

 朗々と語る藤沖を横目で見ながら、改めて数学の答案に並んでいた問題を頭に浮かべた。もともと数学は得意だったし、運良く補習で習ったばかりの問題が出てきたのでなんとか点数を稼ぐことはできた。五教科内唯一八十点以上を狙えると思っていたのだが、返ってきた点数が六十八点というのはあまりにも悲惨である。

「数学が得意な奴は多いが、それでも五十点取れれば御の字だ。赤点で恥ずかしいことはないぞ」

「赤点とはどのくらいだ?」

「四十点以下だ。それ以下だと追試だ」

 寒気が走った。ということは、あと九点足りなかったとしたら乙彦は国語の追試を受けるはめになっていたというわけだ。

「まあ、近いうちに科目別の成績上位者が廊下に張り出される。それを見ればだいたいの点数差はつかめるはずだ。安心しろ」

 その他、藤沖なりの解釈を込めた各教科ごとの説明が続いた。乙彦なりにまとめてみると要点としては、


 ・青大附中の生徒たちは一応経験したことのある形の設問だった。

 ・ただし外部生にはわからなくて当然。

 ・選択肢を選ぶ問題ではなく、直接文章として綴らせる形のものがほとんど。

 ・五十点取れれば御の字。今回は赤点を取らなかっただけまだまし。


 附属上がりの藤沖ですらそう言うのだ、外部から来た乙彦が頭を抱えてもそれはしかたのないこと、そう言いたいのだろう。ありがたき友情だとは理解している、頭では。しかし、それでは自分が納得できない。

「藤沖、お前が俺を勇気付けようとしてくれているのはありがたい」

 まずは礼を述べた。

「だが、それでもってろくな点数が獲れなかった自分を正当化したくはない」

「関崎、お前」

 乙彦は頷いた。これだけは断言したかった。

「俺はまだまだ、努力が足りない。これからもさらなる努力をしつづけねばならない。それだけのことだ」


 とりあえずは明日から始まるゴールデンウイーク中もしっかり勉学に励め、ということなのだ。そう乙彦は受け取った。

 先日の日曜に雅弘と相談し、中学時代の友だちを集めてドッチボール大会をやろうと計画していたのだが、それもやめて勉学に集中すべしというご沙汰なのか。しかし、この一ヶ月ほどやたらとしゃべったり語ったりと「頭」だけを使うことが多すぎて、身体がなまってきているのを強く感じている。病み上がりというのもあるのかもしれないが、とにかくはっちゃけて暴れたい。むしょうに感じている。ゆえに、ドッチボール大会は絶対に出る。

 となると、残りの時間をすべて勉学に費やせということか。

 そうはいかない。今回は久々に家族旅行という大イベントが用意されているのだ。

 二泊程度だが、それでもしっかりとハイキングは予定している。

 こんなところで教科書持ち込んで英単語の暗記なんぞしたくもない。


「ドッチボール大会って、お前」

 簡単にゴールデンウイーク中の予定を説明するやいなや、藤沖はいきなりしゃがみこみ咳き込み始めた。咳き込んでいるのではない、笑いこけているのだ。

「何そんなに受けている?」

 笑う必然性が感じられず乙彦が問うと、藤沖はゆっくり立ち上がりつつ、両手を机に置いて俯いたまま喉仏を揺らした。

「この歳になってドッチボールか、そんなに燃えるか」

「しょうがないだろう。バレーやバスケだとネットが必要だし、さすがにこの歳で鬼ごっこはしないだろう。バドミントンは一対一かダブルスか、どちらにしても偶数人数でないとできないし、となるとベストなのは円陣組んでドッジだろう。間違っているか」

「間違ってはいない、いないが」

 笑いはまだ収まらず、藤沖はその笑みを浮かべたまま乙彦に尋ねた。

「たとえばどこか遊園地に行くとか、街でたむろうとか、そういうことは考えないのか」

「考えるわけがない。金がかかる」

 夢のない答えが不満だったのかどうかはわからない。藤沖は黙り、溜息をついただけだった。

「関係ないが藤沖」

 せっかくなので乙彦も以前から思うことを伝えてみた。

「俺はいつも不思議に思うのだが」

「なんだ?」

 不承不承藤沖が顔を上げた。藪睨み気味に。

「どうして青大附属の奴らは、やたらと一対一で語りたがるんだ?」

 非常に疑問に感じていたことだった。

「女子ならまだわからなくもない。しゃべるのが好きなんだろう。だがこの学校に来てから男子もやたらと真面目に語ってくる傾向があると感じているんだが、何か理由があるのか」

「真面目に語るのはいやか」

 当てこすっているつもりはない。乙彦はすぐに否定した。

「そういうわけではない。時と場合による。俺は基本として嘘なく真っ直ぐぶつかってくる人間は好きだ」

「ならなぜ、そんなことを聞く?」

 説明するにしても、いい言葉が見つからない。少し考えた。

「語り合うのも悪くはないが、それ以上にもっと身体で勝負するようなことをもっとしたほうがいいと俺は思う。たとえばこういう休みの日、外で意味もなくたむろうよりは走ったり野球したりする方がずっと面白いだろう。残念ながら今は二チーム分の人数を集められないので野球やソフトはできないが、そういった方がもっとクラスの団結を図ることができるんじゃないのかと思う」


 ここまで言い切った後、苦笑した。

 ──俺は二年前の総田と同じことを言っているらしい。

 フォークダンスか座談会か、大もめにもめた二年前の学校祭を思い出した。

 あの当時は乙彦が熱く語り合うこと、総田がフォークダンスで盛り上がることをそれぞれの立場から主張し、ぶつかり合った。結果としてはどちらも行い、どっちもどっちの決着となったのだが、二年たった今ならば総田の主張も受け入れられる。頭と身体、どちらも動かさなくてはバランスが取れないのだと。


 青大附属の連中がもともと、頭を使ってしゃべりたがる傾向にあるのは、一年前の交流会前後から感じてはいた。

 もともと立村がそういうタイプだったし、他の評議委員たちも懸命に自分の言葉でいろいろと難しいことを訴えて来ていた。さらにいうなら入学後、一対一で面と向かって説教されたり語られたり愚痴られたり、その連続に少々食傷気味でもあった。

 特に、この前。清坂美里の場合。

 ──ああいう場合は何か運動でもして気分を発散させるのがベストだ。男子でないならバッティングセンターにも行きづらいかもしれないが、誰かに愚痴るよりは健康的じゃないのか。

 どうも、ぶつけられる自分に疲れが溜まって来ているようだ。

 さらにいうなら藤沖に対しても同じことを感じている。面と向かっていう気もないが、今のように試験の傾向と対策について語りつづけるよりも一緒にグラウンドを走ろうかと誘うとか、もっと別の方法があるはずである。

 言うならば、「頭でっかち」。 

「そうか、身体を使えか」

「俺はそちらの方がいい。だからドッチボールのような単純な球技の方がよい」


 藤沖はそれでも、やはり頭を使った話をしたかったようで最後に締めた。

「いいか、関崎」

「なんだ?」

「もしもこれから先、授業についていけないと感じるようだったら何時でも声をかけてくれ」

 しつこいくらい言われてきたことだけに、聞き流そうとした。回り込んで真正面に立たれた。これだけは言わねば、と仁王立ちされてしまうとしかたない。聞くしかない。

「これは、俺の本心から言わせてもらいたい」

「本心?」

「俺は、青大附中において、授業についていけなくなった奴を何人か見たことがある。それと、ついていけなくなった結果学校を退学になった奴もいた」

 ──退学。

 瞬間、耳の奥がびんと鳴った。

「うちの学校は決して問題児だからといってすぐ放校にするような無責任なことはしない。しないが、それでもついていけそうにないと判断した場合は、他校に流される。実際、本人の意思とは別に他の女子高に進学するように勧められ、結局そうせざるを得なかった奴もいたんだ」

 ──女子高か。

 女子なのに、相手に「奴」を使うのがアンバランスだ。

「そいつは学年の誰よりも真剣に勉強していたし、懸命に努力もしていた。それでも、ついていけず、附属高校に上がることを許されなかった。そういう奴もいる」

「そんな真面目人間がなぜ」

 藤沖の目からみて「真面目」だとしたら、相当なものであろうに。

「どこの高校に行ったんだ?」

「可南女子だ」

 再び、乙彦に耳鳴りが生じた。可南女子、知っている女子のいる学校だった。


 耳鳴りしていても全く気付かれず、藤沖は視線を窓辺に移していた。顔を覗き込まれずにすんだのは幸いだった。

「関崎も知っているだろうが、可南女子は青潟の私立高校でも最低ランクとされている。青大附中からの進学というのはまずありえないことだとされている。しかし、彼女の進むことのできる高校はそこだけだった。推薦で進んだと聞いている」

「それはもちろん、推薦しかないだろう」

 学校ランクは一応頭に入っている。藤沖の言葉に嘘はない。

「だが、もっと早い段階で誰かが手を差し伸べていれば、彼女は青大附属の中で過ごすことができたかもしれない。あくまでも仮定だ」

「先生たちは何もしなかったのか?」

 それは教師の仕事だろう? 問う乙彦に藤沖はやはり視線を彷徨わせたまま続けた。教室内には誰もいなかった。

「担任は、彼女のためにこそこの学校を出るべきだと言い張ったと聞いている。青大附高に学力の伴わないまま進学しても、恐らく途中でドロップアウトするだろう。それだったら早い段階で彼女に合った高校へ進学させて、ふさわしい場所で過ごすべきだ。噂ではそう訴えたと聞いている」

「だが、それでも可南女子以外にも選択肢は」

「なかったはずだ。俺はなかったと聞いている」

 藤沖は断言した。いつのまにか「奴」が「彼女」に切り替わっていた。


「関崎、どうしてもこれだけは言っておきたい」

 髪をかきあげながら藤沖は乙彦に向き直った。

「俺はもう二度と、成績が理由で退学になる生徒とすれ違うのはごめんだ」

「いや、俺は退学する気はないが」

「いいから聞いてくれ」

 言葉を挟めなかった。

「バイクで事故った、煙草すっているのが見つかった、シンナーやらかして御用になった、そのあたりの理由ならば俺も納得する。自業自得だ。だが、例の彼女に関して言えば、本人の努力と根性を誰もが知っているだけに、せめてなんとかできなかったものかと誰もが感じているはずだ。これは、青大附中上がりの連中がみな、悔いと共に感じていることだろう。だから、だ」

 ──なにが、「だから、だ」なんだ?

 混乱しつつ、それでも乙彦は藤沖の瞳を正面から受け止めた。それが義務だと思ったからだった。

「お前も気付いただろう。うちの学年の連中がみな、必死に外部生を手助けしたがるのがなぜか。やたらとお前を呼び止めたり、気安く接したりするのは、もう二度と学校に馴染めず退学していく生徒を生み出したくないからなんだ。これは古川も、清坂も、おそらく女子連中みなそうだろう。男子である俺も同じように感じているんだからなおさらだ。もっとも関崎ならそんな心配なんてないと誰もが思っているようだし、俺も九十九パーセントは安心している。いるが残りの一パーセント」

「いや、百パーセント俺も退学したいと思うことはないと思うぞ」

 乙彦は言い切った。退学、とんでもない。誰がするか。親に泣く泣く出させた入学金、なぜ無駄にするか。


 藤沖がまた、乙彦の方に手を置いた。

「彼女にも、俺たちは、そう思っていた」

 首を振った。

「死のうとするなんて、百パーセントありえないと思っていた。それでも」

「自殺したのか!」

「いや、未遂だった」

 最後に視線を足元に落とし藤沖はうなだれた。ほんの一瞬だった。

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