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高一・一学期 10

 すでにオリエンテーションを通じて実質的入学式は終了したものだと思っていた。

 それゆえに、朝バイト後に出席した入学式に対しての感慨は全くといっていいほどなかった。感じようがなかったといった方が正しいだろうか。

「どうだ、関崎、入学式を迎えるにあたって感想は」

 一年A組の教室で二度目の整列を行っている間、麻生先生が何気なく声をかけてきた。

「はい、嬉しいです」

 とは答えたものの、やがて始まる入学式の内容にはあまり興味を持てなかった。

 

「……これだけか」

 両親も本当は入学式に参列したがっていたのだが、乙彦のたっての頼みで結局来なかった。

 別にいい歳して親にくっついてきてほしかったわけではなく、立村を通じて青大附属高校独特の入学式ムードを聞いていたからだった。まさにそれは正しかった。

「まあ、この学校の場合だと、基本として内部持ち上がりの生徒が九十パーセントを占めるわけだから、入学式といってもそれほど厳粛なものはないだろう」

 後ろで藤沖が丁寧に注釈をいれてくれている。

「その残り十パーセントの立場はどうなんだ」

「しかたあるまい。すでに馴染んでいる奴に今更派手なもてなしをしても、他人行儀な気がするだけだ」

 言われなくてもわかっている。すでに乙彦は、「新入生」「外部入学者」というレッテルを半分はがしかけたくらいに、1Aの中で馴染んでいた。少なくとも自覚としてはある。

「一応、校長と青潟の教育委員長挨拶と、あとは在校生挨拶、新入生代表挨拶か」

「そうだな。本当の意味での在校生挨拶は、来週の対面式だろう。こちらはかなり燃える」

「そういうものなのか」

 藤沖は含みをもった言い方で、乙彦に頷いた。

「お膳立てされた話なんか聞いたところで何が面白いというんだ。それよりもそろそろ、関崎も覚悟を決めた方がよさそうだ」

「何を?」

 ちょうど教育委員長の祝辞が終わった直後だった。私語を交わしていても目立たずにすむくらい、体育館内はざわめいていた。

「明日のうちにクラス内の委員を選出することになっているのは知っているな」

「聞いてはいるが」

 立村、および古川から流れは聞いていた。しかし、もう半分内部生で決定しているという噂だが。乙彦がそう言いかけると、

「男子規律委員のポストが空いている。そこにもぐりこむがいい」

 また、ざわめきが止んだ。乙彦もさすがにこれ以上私語を慎んだ。


 ──規律委員のポスト?

 ──だが、古川が話していた通り、評議委員は藤沖と、古川のふたりと聞いていたが。

 中学時代から学級委員と生徒会役員以外の「役付き」となったことのない乙彦には、今ひとつぴんとくるものがなかった。いわゆる「規律委員」とは水鳥中学で言う「生活委員」とイコールであると聞いている。と、するならば。

 ──違反カードを切ったりするわけか。

 正直、あまりそういうのは好きではない。

 ぎちぎちの校則遵守野郎と馬鹿にはされてきたけれども、乙彦にはそれなりの美意識があって、それゆえに徹していただけだった。決して周りの連中が揶揄するような「教師へのおもねり」なんかではなかった。しかし、生活委員ともなるとその評価から逃れることはできないだろう。それよりもむしろ、評議委員のようにクラスをまとめ、意見を吸い上げ、一年A組に活気をもたらす立場の方が自分には向いているような気もする。

 ここまで考えて、乙彦は苦笑した。

 ──俺はやっぱり、上に立ちたい人間なんだな。

 まだ入学したばかりだというのに、クラスの今後など真剣に考えている。

 ──この学校でなんとか授業についていけるようになるまでは、勉強のことだけ考えるとしようか。何よりもこの学校で、奨学金なり特待生なり取らないとなんないしな。

 経済観念からくる今後の計画は、次のアナウンスで霧消した。それどころではない。

「在校生歓迎の挨拶。三年A組、結城穂積」

 ──おい、あの人か!


 黒ぶち眼鏡で真四角の頭が、遠くからもよく見える。大柄ながらもどこかずんぐりむっくり体型のせいか、こぶりに映るのは気のせいか。乙彦がぽかんと眺めているうちに、壇上で結城先輩はマイクを丁寧に直し、全校生徒に向かってにやっと笑った。

「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。私、青潟大学附属高校三年A組、結城穂積と申すものです」

 ──いいのか、あんな砕けた言い方で。一応、この場は入学式だろが。

 どう考えても結城先輩の口調は、厳粛な場にふさわしいものではないように思えた。なによりも笑顔がいけない。乙彦もつい先だって、水鳥中学の卒業式で答辞を読んだが、さすがに笑う余裕はなかった。それは礼儀に反していると感じたからだった。もちろん送辞を読んでくれた内川も、意味不明のにやにや笑いなどはしなかった。義務として、きちんと緊張したまま読み終えたはずだ。

「何人かのみなさんにはすでにご挨拶済みかと思いますが、ほとんど顔なじみ、といったとこでしょうか。ここでは堅いこと抜きで参りましょう。先生方、少々僕に、お時間をいただければと存じます」

 ──一応、了解を得てるわけだ。

 これが水鳥中学だったら誰かが止めに入っただろうに。

 信じがたいが、教師たち……麻生先生も含めて……みな、穏やかに微笑んでいる。これでいいのか。いいのだろう。身体が妙にこそばゆい。

「と、いうことでまずは青大附中から附高に進学するにあたり、一番変わっていく部分はどこかといいますと、まず先生たちの対応ですな。これ褒めてるんですよ。いいですか」 

 結城先輩は軽く言ってのけた。

「今まで中学では、みな頭をがっちり押さえつけられ、なんでこんなに規制されねばならないんだといらいらしていた人も多かったでしょう。私事で恐縮ですが、僕は中学時代、かの悪評高い評議委員会長を務め、しっかりと『委員会最優先主義』なる定義をこしらえて参りました。それでみなさん、おそらく、かなり、大迷惑を被ったのではないかと思いますがその辺はこの一年できっちり償わせていただきますんでお許しをば」

 ──償うっていったい。

 全く持って、この結城先輩という人の全体像がつかめない。

 もちろん、立村から結城先輩が青大附中時代基礎となった「評議委員会最優先主義」の提唱者であることは聞いていた。かなりの変わり者であることも。またアイドルグループ「日本少女宮」の熱烈なるファンであることも。

 だがなんで、そんな恥ずかしくなるような自分をさらけ出せるのだろう。

 少なくとも乙彦の知っている男子で、好きなタイプの女子について語ることができる奴は、そうそういなかった。かの問題野郎だった総田幸信だって、さすがにアイドルについては燃えていなかったはずだ。

「まずみなさん、中学時代はそれぞれ委員会活動、もしくは生徒会活動に燃えておられたことと思います。んで、その肩書をある人はしっかり握り締め、またある人はスタートダッシュで出遅れてしまったことに対してめげている人もいるんではないでしょうか。まあ、青大附中の委員会はいわゆる部活動と一緒なもんで、一年前期に選ばれたものが大概は持ち上がりとなり三年間過ごすのが定説。二年以降にデビューしたい人たちもですね、これだとよほどの理由がない限りもぐりこめずに不完全燃焼つう人も、多いことでしょう」

 ──それは聞いていたが。

 すでに立村が前もってレクチャーしてくれたことではある。あるがしかし、来賓も聞いている中そこまで語る必然性が理解できない。

「はっきり申し上げましょう。今まで積み重ねてきた『委員会』であり『生徒会』およびすべての部活動における肩書は、たった今の段階で、全部、消去しました。そう、今ここに並んでいる新入生のみなさんは、内部進学生も、外部からはるばるやってきたみなさんも、みな同じスタートラインに立つわけです」

 ちらと、乙彦の方に視線を向けられたような気がした。気のせいだろうか。

「それはすなわち、くだらないプライドやエリート意識など、どこかの世界におっぽっといていただいて、頭を真っ白くした後に、再チャレンジしていただきたい、そういうことです。いやあ、青大附属という学校は、先ほど校長先生およびご来賓のみなさまからお言葉を頂戴した通り、青潟のエリート養成学校だと言われております。僕にその自覚は残念ながらございませんが、おそらく第三者からしたらそう見えるのでしょう。それは誇り、なのでしょう」

 ちくっと刺さる。その言葉。おちゃらけているようで、何かが響く。

「もちろん、青大附高生である誇りは持つべきでしょう。しかし、天狗になってはいけない。それは僕も日々、強く感じていることなんですね。新入生諸君、君たちは確かに難しい勉強をして、試験を乗り越えて入学してきたわけですが、おつむの程度がイコール、人間性と繋がらないこともみなご承知でしょう。自分たちがいわゆる『選ばれたエリート』だなんていう勘違い意識をできるだけ早くとっぱらって、自分をゼロの状態に一度持っていて、この三年間もう一度自分を見つめなおそうではありませんか!」

 ──この人、結構真面目なこと話しているかもしれない。

 だんだんこの人がわからなくなってきた。真面目なのか、それとも純粋に「アホ」なのか。

「非常に喜ばしいことですが、青大附高には今春、新しく仲間に加わってくれる外部入学者のみなさんがいらっしゃると聞いております。これは嬉しいですよ。やはりね、こうやって新しい息吹が芽生えていくのを観るのは、おじさん、もとい、先輩としても非常に喜ばしいことでもあります。そうそう、最後に、外部入学者のみなさん」

 また、乙彦に視線が向けられた。首が露骨に向いていたから確実だ。

「この学校の誇ることができる点をひとつ、申し上げておきましょう」

 前置きがわざとらしい。

「男女問わず、青大附属の生徒たちは、先輩と後輩との関係が密です。一歩間違うとこれは危ないんではないかと思われんばかりに、ですね。ですがこれを利用しない手はないでしょう。この学校の二年、三年連中はみな、新入生諸氏に対し、自分の得てきたノウハウを一刻も早くつぎ込みたくてならなくて、うずうずしているはずです。ということでみなさん。お付き合いのある先輩がいる人はその人から、誰もいなかったらとっかかりは僕、結城からでもどうぞ、ぜひぜひコミュニケーションを取ってみてくださいな。いわゆる、上級生のしごきとかいじめとか、そういう卑劣な人間関係だけはないと、そういう誇りは持っている学校ですんで、そこのところ、みなさま、よろしゅう!」

 一礼した。こぶしを挙げて満足のポーズ。

 ──やっぱりこの人、すごいのかもしれない。

 乙彦が呆然と壇上を眺めている間に、生徒たちの嵐のような拍手が館内を埋めていった。驚くべきことに、教師の一群も笑顔で拍手を送っているではないか。

 ──というか、この学校、やっぱり、変すぎる。


「結城先輩は、青大附属中学における『委員会最優先主義』を打ち立てた人だというのは、聞いているか」

 聞いてもいないのに藤沖が耳元で囁いた。乙彦も椅子に腰掛けたまま振り返った。

「ああ、一応」

 立村から、とは言わずにおいた。

「その弊害が、俺たちの代でいろいろあったわけだ。たぶんそのざんげだろう」」

「弊害とは?」

「じきにわかるだろう」

 それ以上藤沖はつっこんだ話をしなかった。

「俺が他の先輩たちから聞いた話だと、中学とは違い高校では毎回、民主主義にのっとったやり方で委員を選出しているという。なぜかわかるか」

 わかるわけがない。首を振るのもしゃくなので黙っていた。藤沖は続けた。

「附中時代のやり方がまず通用しないシステムが組まれているからだ」

「システム?」

「つまり、トップの委員長がこれは、と思った生徒を指名して次期委員長に任命するといったシステムが、附高の場合通じないようになっているわけだ」」

「なんでだ?」

「まず、附中時代と違うのはクラス分けだろう」

 なるほど、腑に落ちた。英語科という特別クラスがあるわけだから、それは当然だろう。

「つまり、高校だとばらばらになるから、ということか」

「そういうことになる。附中ではよきにしろわるきにしろ、三年がみな持ち上がりという形となっている。もちろん英語科もそういう流れなのだが」

 藤沖は言葉を切り、くるりと見渡した。

「附高の場合、普通科限定だが、毎年クラス替えがある。委員は毎回、選ばれ直されなくてはならない。よって、三年連続同じ委員で上がるのは難しい。もちろん英語科を除く、がな」

 ──そういうことか。話はよくわかる。

 乙彦はすぐに飲み込んだ。立村から前もって聞かされていた青大附中独特の制度、「委員会を部活動化」は、プラスの面もあるけれどもやはりマイナス面も多大だったのだろう。それゆえに立村は評議委員時代、生徒会への「大政奉還」を行ったといわれる。もっとも最終的にそれを完結させたのは、後期評議委員長だった天羽だとは聞いている。

「クラスも、どうやらそれを意識して組み替えたらしいな」

 またも、藤沖は知った風に呟いた。よくわからない。

「どういうことだ?」

「この学年の一クラスに、なぜか元評議委員が全員組み込まれている」

「言っている意味がよくわからないが」

「つまり、C組だ。あのクラスには天羽、難波、更科、轟、といった名物評議委員たちがみな詰め込まれている。しかも極めつけが南雲までいる。ああ、悪い。関崎、どこまで名前を知っているかわからないんだが」

「いや、だいたいは」

 天羽が立村の後を引き継いだ評議委員長で、難波がやたらと理屈っぽい議論をけしかけてくる奴で、更科が周囲を和ませる愛嬌のある奴で、というくらいは覚えている。しかし女子は……轟ってだれだろう。乙彦の記憶では他にももっと女子がいたような気がするのだが。確か清坂美里はB組と聞いていたはずだ。

「ああ、清坂は例外だ。C組には羽飛がいるからな」

 確か古川との会話で出てきた苗字だった。

「清坂は羽飛と仲がいいからな。先生たちもいいかげんそこらで引き離さねばと考えたのだろう」

「そういうことを考えるのか」

 まったくよくわからない。いや、教師たちの発想が、ではない。

 ──そこにたどり着く、藤沖の推理能力が。

「まだ女子評議はいたような記憶があるのだが」

「いたが、やめた。もしくは消えた」

 急に藤沖の口調が、冷えたような気がした。

「関崎も最初のうちはその辺に触れずにいたほうがいい。トラブルになるだろう」

 饒舌だった藤沖が、急に黙り込んだ。同時にアナウンスが流れた。

「新入生代表、轟、琴音」

 ちょうど噂話の中で登場した謎の人物だった。


「うわあ琴音ちゃんなんだ」

「なんでなんで?」

「ってことは、今年の奨学生は轟さんが獲るわけ?」

「なんか、意外よね」


 いきなりのささやき声が女子たちから溢れた。乙彦も耳を澄ませた。女子の噂話自体に興味はないが、「奨学生」の話題がでてきた以上、関心を持たずにはいられない。壇上にあがるその女子の姿を認めた瞬間、何かが繋がった。

 ──あの女子だ!


 小柄でかつ、髪の毛を限界までくりくりに刈り取り、同時に背を丸めるようにしてマイクに向かうその女子。横顔も、正面から観た顔も、おそらくスカートをはいていなければ女子とは思えなかっただろう。唇と目が落ち着きなく動く。どことなくざわざわする。

「あの女子も評議だったのか?」

 何度か参加した交流会において、あの顔を見た記憶はない。立村も話題にはあまり出さなかった。話をしている間に私語を交わすのはいけないとわかっていても、聞かずにはいられない。

「そうだ。覚えてないのか」

 乙彦は頷いた。藤沖もかすれた声で、私語ともいえないくらいの小声で。

「そうだな。あの時は轟が裏方を志願したはずだ。だから表立って働いていたのは、一年後輩の連中だけだった。特に女子はな」

「三年を表に、出さなかったということか」

「そういうことだ」

 言われてみればそれもわからなくもない。一生懸命お茶を出したり、ものを運んだりしていた女子の中に、今壇上に上がっている轟の顔は見かけなかった。その後の打ち上げでも。

「あいつはまあ、悪い奴じゃない。女子にしては話がわかる」

「そうか」

 違う、何かが反論している。乙彦は記憶をまさぐりながら、その飛び出た目と口、そして落ち着きなくきょろきょろするその挙動を見つめていた。彼女の新入生代表挨拶など、聞いてはいなかった。


 ──あの、ゴミ捨て場でうろうろしていた、あの女子だ!


 記憶力には自信がある。

 久田さんが「要注意人物」として指名した、ゴミ漁りで得た収穫物を古本屋に売ろうとし、怒鳴られたというかの女子。間違いなかった。ちらと戸口でその姿を見ただけだが、その背丈といい、髪型といい、すべてが一致していた。

 ──同学年だったわけか。

 決して忘れられないであろうその顔。

 乙彦は目に焼き付けた。


 館内はまだひそやかなつぶやきを消すことが出来ずにいる。型通りのつまらぬ挨拶を終わらせ、轟琴音は壇上から降りた。女子たちを中心にどこか冷ややかな空気が流れてくるようだった。やがて話が終わると堂々とおしゃべりが再開された。

「藤沖、ひとつ聞きたいんだが」

 今まで一方的に聞かされる立場だった乙彦が、今日はじめて、質問に転じた。

「さっきから女子が奨学金のことをやたらと言い立てていたが」

「ああ、そうだ。知らなかったか」

 こともなげに藤沖は答えた。

「青大附中内部進学者の中で、極めて優秀な成績を納めた生徒には、高校三年分の授業料が免除される仕組みとなっているんだ。奨励金といったほうが正しいか」

 ──だから奨学生なのか。

 心がぐさりと掘り起こされそうだった。狙っていただけに、理不尽だが悔しい。

「本来ならば学年でトップを取り続けた生徒がもらうのが自然だ。だが今年は少々事情が違っていたわけだ」

「事情とは?」

「つまり、学年トップを取っていた水口という生徒が、他の高校に進学してしまった」

 また、家族で留学でもしたのだろうか。

「知っているだろう。水口病院。あそこの御曹司だ」

「あまり良い噂は聞かないが」

 藤沖は声を殺して笑った。

「そこのお坊ちゃまは非常に賢く、将来病院を継ぐために医学部進学専門の高校へ留学した。今年はふたりほど、その学校に進んだこともあって、外部生が若干多く入学できた部分もある」

 ──それとは関係ないだろう。

 乙彦は黙って聞いていた。

「学年トップが消えた後、内部生の間では誰が奨学生となるのかで話題が沸騰していた。二番以降はいつも入れ替わり立ち替わりだったからな。おそらく激戦になっただろう。でだ。この入学式で新入生代表になる生徒が、毎年恒例で奨学金を手に入れているということもあり、みなそのあたりにおいて興味津々だったと、そういうわけだ」

 藤沖は自分で言い終えた後に頷き、乙彦を見ながら付け加えた。

「俺としては、順当な選出だったと思うがな」


 ゴミ捨て場で粗大ゴミおよび古本を漁り、背中を丸めて走り出していたあの女子。それが。

 ──青大附中きっての才媛とは。

 人間として、人の恥部を決して決して口にすべきではない。乙彦の矜持だった。

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