黒猫の気まぐれ
早朝、この国の朝は早い。大半の人が仕事に行くために朝白み始めたあたりから活動する人がほとんどだ。飲食店もしかり冒険者もしかり。朝は様々な人が通りを行きかう。
そんな通りの中に他のものと比べても背が低く、全体的に黒に統一した衣装を着た者がいる。黒の長い髪であり瞳も黒。目鼻も整っており顔立ちも悪くはない。子供と間違われてもおかしくないように思う。周りと比べても一人だけ浮いてる様に感じるが誰も気に留めないようだ。
そんな彼女は一軒の店で立ち止まった。看板を見ると魚屋のようだ。
「おじちゃん、 これ、 ちょうだい・・・」
「おっ 嬢ちゃん 今日も朝早いね いつもありがとよ ほれ いつもの」
「ありがと・・・」
彼女は魚のフライを長めのパンで挟んだものを受け取るとまた、通りを進み始めた。しばらくすると通りを進め人の雰囲気がだいぶ変わってきた。先ほどまでは商人のような者や大量の荷物を積んだ魔動車や馬車が多かったが今では身体に傷のある者や柄の悪そうな者が多くなってる。そんな中でも浮いてる様に感じる彼女を誰も気に留めない。そんな中を彼女はてくてくと歩いて行く。
どうやら目的地の方に着いたようだ。その目的地は冒険者ギルド。荒くれ者が多いいこの場所に彼女は躊躇せずに入って行く。
早朝だからかだいぶ混んでいる。やはりこの場所でももう、だいぶ浮いているが誰も気に留めない。彼女は意に返さずにてくてくと進んでいき掲示板の方にたどり着いた。順々に掲示板の内容を見ていきあるクエストをみて止まった。
「うん、 これ・・・」
彼女が人差し指をクイッっとすると依頼書がひとりでに剥がれ彼女の手元までやってきた。彼女はそれを受け取ると依頼内容を確認し冒険者ギルドを後にした。その間やはり誰も気に留めなかった。
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彼女が冒険者ギルドを去った後。
ギルド内部に併設されている酒場で朝食をとっていた高レベル冒険者のあるグループが依頼書がないことに気づいた。
「あれ? ここに貼ってあった銀龍の討伐クエストはどこにいったんすか?」
「なくなってら~ おばちゃん! ここにあったクエストどこやった!」
「誰がおばちゃんだい!誰が!!! あたしゃまだ40代だよ!」
おばちゃんでしょ…という感情は飲み込んで続きを促す。
「あら? ほんとにないねぇ~ 誰かが受注したんじゃないかい?」
「バカ言え 最高難易度のクエストだぞ? 他に誰ができるってんだよ?」
おかしいねぇ~? と呟きながらおばちゃんはクエスト用紙を探している。
「やっぱりないねぇ~ コピーを渡してやるからこれで勘弁しな!」
その冒険者グループはコピーを受け取り首をかしげながらも当初の予定どうりクエストに向かうのだった。
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正門を抜けて門が小さく見えるあたり
「ん、 かいじょ・・・」
そんな短い言葉とともに魔法を解除した。街中で誰も気に留めなかったのは魔法を使っていたかららしい。
「こっちも・・・」
そんな事を言うと彼女の見た目が全く違うものになった。一言でいうなら黒猫だ。普通と違う点があるとすればと上げようと思ったがない。何の変哲もない黒猫だ。
「よし・・・」
しゃべった… この点と移動速度がおかしいのが違う点の様だ。まだありそう…
「きょうも、ちゃっちゃと、おわらす」
そんな事を呟きながら森の奥へと消えていった。
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しばらくして正門を抜けてきたのは先ほどの冒険者パーティーのようだ。
「んー 今日もがんばるっすよー」
「あまり気を抜くなよ 今回は銀龍なんだからな~」
「わかってるっすよ」
そんな気の抜けるような返事をしているのは先ほどクエストがないことに気づいた男。名はザジ。この街では上位の実力者で斥候職だ。索敵や罠解除などを得意とし武器は弓、短剣、長剣、魔法など様々な物を使う。年は25とだいぶ若く才能があるのであろう。
そんなザジに注意を促した男は名をミラン。同じくこの街では上位の冒険者でタンクとしての役割を担っている。武器は大剣のみだが魔法も扱えるため自分で傷を癒し強化するなどのことができる。演唱を唱えながら戦闘ができるため相対したものにとってはとてもやりにくい。年は38とベテランの冒険者だ。
「まぁ まだまだ距離もあるんですからそんな早くから気を張っていては持ちませんよ?」
今声をかけた男は名をキリク。これまた同じくこの街では上位の実力者であり魔導士だ。その名のとうり魔法を武器とし先の二人とは段違いの威力、種類の魔法をしようすることができる。見方を補助し相手を妨害しとどめをさす。どのパーティにも必ず一人はいる存在だ。年は37とミランと同じくベテランだ。
「キリクさんの言う通りです。もっと肩の力を抜きましょうよー」
「右に同じく」
キリクに賛同する声を上げた女は名をクルト。キリクと同じ後衛職だが弓を主にサブとして魔法を使うスタイルだ。職種的にはアーチャー。この街では上位の実力を誇る。魔法と弓を併用して使うことで長距離の狙撃を得意とし死角からの攻撃をまた得意としている。年齢は聞かないでおきなさい。
続けて同意の意を示した女は名をキャシー。見た目は小柄ながらもミランとともに前衛職の物だ。武器は槍、長剣、盾、魔法など様々な物を臨機応変に使い分けトリッキーなところが売りだ。同じく上位の実力を誇っている。年齢も…うん。
以上の5人がこのパーティメンバーだ。とてもバランスの取れた構成だ。最高のパーティーと言えよう。
「それもそうだな 今から気を張っても仕方ないか」
「では、いくっすよー」
「なんでザジが仕切るんですか~」
そんな雑談を交わしながらも銀龍討伐に向けて歩き始めた。
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「・・・ん ついた、」
先ほどの黒猫が着いたのは森を抜けた先の山の中腹、討伐依頼に記載されている銀龍の目撃情報があったところだ。その場所は、木々が点々と生えており曰くはげ山のようになっている。よく観察すれば地面が焼け焦げた跡があることがわかるだろう。
今回の依頼は、最近街に現れた銀龍の討伐だ。採取に出かけた冒険者やその近くの山や森の生態系に影響が出ているようであり至急討伐することと書かれている。黒猫はその依頼書を見てここまで来た。
「ん さがす、てまがはぶけた」
「無謀にも我の縄張りへと踏み込む者は誰だ」
しばらくすると四つの四肢と四枚二対の翼をもつ銀色の竜が現れる。竜は年月が経つごとに翼の数が増え鱗がより光沢を放ち頑丈になる性質を持つ。最上位の竜にもなれば翼の数は八枚四対にまで増え鱗は何人にも傷つけることは不可能であろう。また、他の魔物や動物と違い高い知性を持つ。そのため、竜を己の身一つで倒した者には恩恵が与えられるというおとぎ話があるほどの生物だ。
「我は誰だと聞いている 猫よ」
「・・・なるほど、まだわかいりゅうか」
「我を無視するとはいい度胸だな!!!」
銀龍はその口から蒼き炎を吹き放ち黒猫を飲み込んだ。
「避けもせぬとは・・・」
「はぁ~ めんどくさい・・・ なんでわかいりゅうは、、 やつあたり けってい!」
「!!??」
蒼い炎は突然霧散しその中から何もなかったかのように黒猫が現れる。銀龍は予想外の状況に硬直してしまい何も返せないでいるようだ。
「いちよ ここ わたしのなわばり かえれ・・・」
「、、!? わ、我を竜と知っての言動か!! その屍をさらせ!!」
銀龍はあまりに激昂していたがために判断を間違った。先ほどの一手で彼我の実力差は明らかであるはずなのにだ。冷静に判断できず行動を誤った。
「ちゅうこく ・・・無視したね?」
黒猫は銀龍が再度威力を上げたブレスを放とうとするが動かない。ただ、黒猫のしっぽが右から左に揺れただけだ。それだけで目の前にいた銀龍は大質量の物体に跳ね飛ばされたかのようにものすごい勢いで黒猫の目の前から左へ木々をなぎ倒しながらと飛んでいった。打たれた正面は焼け焦げたかのようになったいる。それ以降銀龍はピクリとも動かない。
「・・・はぁ ん、 ちょうど。いい」
そういうと黒猫はもう一度森の中へと消えていった。
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例の五人の冒険者パーティーは順調に森の中を進んでいた。途中遭遇する魔物も手こずることなくまるで一連の作業のように倒していく。
「もう少しで目撃情報のあった場所っすねー」
「ああ、気を引き締めろよ 相手は竜なんだからな」
「わかってるっすよ」
途中軽口をたたく余裕もあるらしい。この辺りはなかなか強い魔物の生息地のはずだが問題ないようだ。
「お、あそこっすか?」
ザジが目的地の場所を指さす。
「。。んっと 着いたか さて、銀龍はどこに、い、」
「どうしたんですか~?」
「あれだ、よな?」
ミランが指さす方にはすでに倒された銀龍。左側を大きく陥没させ、陥没させた箇所が黒く焦げたようになった銀龍が存在した。
「えっ? もう倒しちゃったんですか?」
「そんなわけあるか!!!」
クルトが驚きながら聞くが答えは当然ながらノーだ。
「ん~ まぁ 倒されてたならそれはそれでいいじゃないっすか」
「そうなのだが・・・ ん~む・・・」
「まぁ 素材剥ぎ取りましょう」
「は~い」
ザジがよかったのでは?と聞くがミランは何か納得のいかない様子。キリクとクルトは早速剥ぎ取りを始めている。
しばらくして剥ぎ取りも終わり・・・
「そういえば、キャシーはどこです?」
そういえばさっきからキャシーを見ないな~とクルトが周りを探すと茂みの方でしゃがんでいるキャシーを見つける。
「おーい! キャシー! 何してるんですか~」
「可愛い・・・」
クルトが呼ぶとキャシーの腕の中には一匹の黒猫を抱えている。
「にゃ~・・・」
「わぁ~ かわいいですね~ 近くにいたんですか?」
「うん 持ち帰る」
「お~い いくっすよ~」
「はーい」
冒険者五人は今日は運がいいと道中話しながら元来た道を帰って行った。
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「ん、きょうのところは、おわり・・・」
彼女は街中を歩いていた。彼女は人ごみに紛れると姿を見失ってしまった。