おっと
「はい、実は乙姫先輩に言いつけられてまして。昨日の事件でミナセ先輩、色々と物入りになったでしょう? それで身の回りの物をお届けに参った次第で」
部屋から半歩出てみると、彼のわきにいくつもの段ボール箱が積み上げられてあった。服とか日用品とか張り紙がしてある。
「僕、乙姫先輩の今のチームメイトなんです」
少し疲れた顔になってジークは言う。
「ああ、なるほどそれで」
財産を失ったオレにじゃろ先輩が色々と気を回してくれたのだろう。ただ、男子寮は女子禁制のため、代わりに彼が届けてくれたのだ。
「いや、これはかなり助かるな。本当になにもかも燃えちゃって困ってたんだ」
ここにきてのじゃろ先輩のご厚意は大変ありがたい。これで色々な手間が一気に省けた。
「きみもわざわざありがとう」
ジークにも礼を言う。シンシアもピョコリと頭を下げた。
「いえ、構いません。僕も寮生ですし、何か困った事があればいつでも言って下さい。乙姫先輩にも力になるように言われてますし」
「おお」
何と言う気の利いた手回し。まるでじゃろ先輩じゃないみたいだ。だが、あの人も腐っても国主だからな。こうして下々のことを考えて……
『ちょっと、誰の入れ知恵よ』
「え?」
『とぼけないで。あのタコ女がこんな気の使い方を出来るわけがないわ』
シンシアが突然強い口調で断言する。別に断言するほどのことでもない気がするが、やはり普段のじゃろ先輩を知る人間は、そういう考えになるのか。厳しい追及にジークもすぐ白状する。
「ああ、これはもう一人のチームメイトの案です。色々と気の回る人でして、今財産をほとんど失って傷心のミナセ先輩に恩を売っておけば、ポイント高いと」
なるほど、確かにその通りだが、嫌なことを考えるヤツもいるものだ。いや、結果的に非常に助かっているから、確かにありがたいのだが、じゃろ先輩含めて何人もが手玉に取られているようで、あまり気分は良くない。思わず苦い顔になってしまう。そして、一つある考えに思い至る。
「じゃあ、昨日じゃろ先輩をうちのチームに押し付けてきたのもそいつの案か」
あの人のおかげで良かったことは少ないし、拗ねて泣かれるという騒動があった。
「はい、そうですね。僕もありがたい話なので何も言わなかったんですけど」
少し申し訳なさそうに笑うジーク。
「まあ、だからそのお詫びも兼ねてなんです。中に運び入れるの、お手伝いしましょうか」
以前までの自室なら断っていただろうが、今の部屋には私物はまだ何もない。段ボールはそこそこの量があるみたいだし、お願いすることにした。
とりあえずよく使いそうなもの以外は部屋の奥に積むことにする。目下一番重要なのは衣類だ。昨日から着替えもしてない。
「おっと」
ガシャ、と音がして振り向くと、ジークが扉のところで大剣をつっかえていた。
「外しなよ。絶対邪魔だろ」
誰でも送れるアドバイスをしてやる。
「いえ、外したいのは山々なんですが、何と言うか、一族の誇りってやつでして」
外したいのか。オレの視線に気づくと、
「そりゃまあ。重いし、邪魔ですし、使わないですし」
と文句を並べる。まあ、明らかに時代錯誤な誇りではある。だからこそ、という見方もできるのだろうが。
「だからバイトの時は外してます」
「バイト?」
「はい。教育図書館のバイトです。だから以前お会いしてるんですよ?」
さらりと打ち明けられた事実に驚く。こんな特徴的な人間に会っているのに記憶してなかったとは。いや、待てよ。バイトの時は大剣は外してるって言ってたな。教育図書館のバイト、少し頭をひねって思い出す。
「ああ! リーさんが何度も話しかけてた係員くんか!」
書架整理の課題の時の、あの地味だが勤勉そうな係員くんはジークだったのか。世界は狭い。だが、大剣の有る無しで印象がまるで違う。それほどまでに彼の大剣は存在感が圧倒的と言うことなのだろう。
「おっと」
ガシャン、とまたジークは扉で引っかかっていた。




