表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/140

ちゃんとわけがあるんですよ


  やはりじゃろ先輩は足が速いようだ。わずかな時間で完全にどこに行ったかわからなくなってしまった。あの人もアホではない。それ程危険な場所までは行っていないだろう。と、思いたいのだがいかんせん信用できない。


「シンシア、匂いで追えたりしないのか?」


『私は犬じゃない!』


  使えねぇな。そうこうしてると、通路の向こうからヘロディア・ローレンツが一人でやってきた。いつも一緒に行動しているタニア・クラインはいない。


「見つかったか?」


「いナい」


  割と真面目に捜してくれているようで、少し汗をかいている。


「たく、どうして私達があいつなんカを……!」


  ただ、納得はしていないみたいだ。


「仕方ないだろ。単騎で『焔狼』と闘えるのは、会長とじゃろ先輩くらいしかいないんだから」


  本当はこの学校にもっといるのだろうが。


「そ、そんなの私達渚だって本気を出せば……」


「そうだろうけど、今マリア先輩は負傷してるだろ。ケガ人を闘わせるのか」


 そう言うと、キッと強い敵意を持った目で睨みつけられる。が、ローレンツはそれ以上何も言わない。

  少し、カマをかけてみようか。


「まあいい。そんなことよりじゃろ先輩だ。あの人、自分が狙われているってことわかってんのかな」


「なんだソれ。何かやったのかあイつ」


  流石に引っかからないか。だが、オレとこいつで会話が成立したこと驚く。


「なんか、図書士協会宛てに脅迫状みたいなものが届いたんだと。だから今じゃろ先輩は生徒会の監視つきだ」


「生徒会……」


 これといっておかしな反応はない。なんだ、オレの思い違いか? 会議室の中で、まるで親の仇のようにじゃろ先輩を睨んでいたのはなんだったんだ?


「おい、いタぞ」


  彼女が指差したのは、廊下の突き当たり、奥の少し薄暗い場所で、じゃろ先輩が体育座りしていた。


「はぁ、やっと見つけた。捜しましたよ」


 声をかけるが、じゃろ先輩は何も言わない。ローレンツも何故かどこにも行かずに立ったままだ。


「ほら、帰りますよ。皆心配してます。だいたい、あなた自分が狙われているってことわかってますか?」


  立ち上がらせるために引こうとした手を、振り払われた。


『ふん! 何が心配じゃ。お主はババ臭い妾のことなど、これっぽちも想ってはおらんくせに!』


「ババ臭いってあんた……」


『それに、お主はいつもいつも妾のことを無敵の化け物のように扱いおって!  妾はピチピチの女の子じゃぞ!  それにそれに……』


  うわぁ。何かオレへの不満が溜まってたんだなぁ。堰を切ったように色々な不満や文句をぶつけられる。

  まあ、確かに、ピチピチかどうかは置いておいて、じゃろ先輩も女性だ。


『ピチピチじゃ!』


「あ、はい。そうですね。ピチピチです」


  えっと、どこまで話したっけ?  あ、そうだ。ピチピチの女性である。彼女の言うように、これまでじゃろ先輩に対して、少し扱いが雑すぎたかもしれない。本人も人知れず気に病んでいたのだろう。


「すみませんでした。これからは気を付けます。だから一緒に行きましょう?  兎を吹き飛ばしてストレス発散しましょうよ」


  差し出したオレの手を、じゃろ先輩はまだ取らない。


『知らぬ。お主はあの、ボインの女共のところへ行けばよい』


 ボインて。古い。古いよ。


「じゃろ先輩、あのですね。去年のミスコンで、あなたに投票しなかったのはちゃんと訳があるんですよ」


『わけ……?』


  初めてじゃろ先輩がこっちをむいてくれた。


「そうです。実はオレ、じゃろ先輩のパフォーマンス見てないんですよ」


『え……?』


  驚いたように目を丸くする。


「いや、オレあの時具合悪かったでしょ?  ちょうどじゃろ先輩のパフォーマンスのときに気持ち悪くなっちゃって、トイレで吐いてたんですよ。それが治ってやっと帰ってきたらパフォーマンス終わってたんですよね」


  何にも知らないで帰ると、特設会場の全員がスタンディングオーベーションしていたので驚いたのを覚えている。


『お主、見ておらんかったのか……?』


「はい。なんでパフォーマンスも見ずに票いれるのも失礼だし、あの感じからして、絶対じゃろ先輩が優勝すると思ったから、投票しなかったんです」


  これが去年のミスコンのてん末だ。オレにはオレなりのきちんとした理由があったのだ。聞かれなかったから言わなかったまでで。


『そ、そうか……。そうなのじゃな……』


「すみません。まさかこんなことになるとは思ってなくて」


 まあ、予測しろと言われても無理な話ではあると思うが。


『はぁ……。わかった。もう良い。お主はそう言うやつじゃった』


 じゃろ先輩は力なく笑う。


『じゃが!  これからは妾のことをババ臭いなどと申さぬように!  次申せば離縁じゃぞ!』


「結婚してる前提が謎だけど、まあいいでしょう。わかりました」


 あと、別にババ臭いとは一言も言ってない。


「もうイい?」


「お、うん。たぶん」


 まだいたのか。ヘロディア・ローレンツが声をかけてきた。


『そうだったの。よしよし。妾が兎共を蹴散らしてくれよう!』


「ほどほどに頼みますよ」


  じゃろ先輩も元気が出てきたみたいだ。


「教育図書館前にうじゃうじゃいますよ」


 さっきから校内放送では絶え間なく火焔兎の出現を知らせている。焔狼も一体出現したみたいだが、それ以降何も言わないので、おそらく会長あたりが瞬殺したのだろう。第二段階に移行した討伐作戦も、順調にことが運んでいるようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
a href="http://narou.dip.jp/rank/index_rank_in.php">小説家になろう 勝手にランキング
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ