勝手にしなよ
「あら、私たちが猫ちゃんだとお魚さんは食べられてしまうわよ?」
「ここだと施設に被害が及びます。闘うなら場所を変えて頂かないといけません」
マリア先輩も、副会長もどこ吹く風で返答する。流石は士官学校生徒。二人共気が強い。簡単には引かない。ただ、やはりじゃろ先輩と本気でぶつかるつもりは無いようで、ゆっくりと先輩の怒りを鎮めていく方向で話を進めていく。
「いやぁ、羨ましい。君のために校内でも絶世の美女達が争っている。できることなら代わって欲しいくらいだよ」
「オレもだよ」
「ためじゃありません! せいです! 先輩、あなたという人は!」
こっそり逃げ出そうとしたオレは会計とリーさんの二人に捕まってしまった。
そうこうしている内にじゃろ先輩はどんどん舌戦で追い込まれ、丸め込まれていった。
「確かに欲しい票が貰えなかったというのはつらいけれど、それで一々腹を立ててはいけないわ」
「そうです。それにここで私達を力で負かしても、ミナセ君は貴女を見直したりしませんよ」
『う、うぅ……』
「だからこそ、乙姫ちゃんが今するべきことは、誰かを蹴落とすことじゃなくて、自分自身を高めることよ」
「残念ながら、ミスコンは今年も開催します。そこでもう一度頑張ってみてはいかがでしよう? 私は出ませんが」
『うぅぅ……』
みるみる内にじゃろ先輩が萎れていく。鉄扇もその輝きを失っていくようだ。
そして、じゃろ先輩はとうとう完全に黙り込んでしまった。
うつむいた彼女は……
『サクラのアホー!!』
「結局かよ!」
わんわん泣きながらオレへの悪口を叫んで会議室から飛び出して行ってしまった。室内のほとんど全員のじっとりとへばりつくような視線を身に受ける。
オレ自身もどうしたものかと、嫌な汗をかきながら思案していると、また校内放送の音がした。
助かった。皆の注意が放送の方と移行する。
「街の複数箇所で再び火焔兎の出現を確認しました。殲滅隊の皆さんは直ちに迎撃して下さい。繰り返します……」
「では皆さん、これまで通り作戦を遂行して下さい。焔狼出現の際は速やかに会長に連絡を。マリアは……」
「大丈夫。闘えるわ」
副会長の指示で会議室内のメンバーも動き出す。
「ミナセ君」
「は、はい!」
「今すぐ乙姫さんを追いかけて、闘える状態にまで戻してきて下さい。彼女はとても大切な戦力ですから」
「はい……」
一応責任はあると自覚しているが、仕事としてこんなことを請け負うことになるとは思わなかった。
「わかりました。でもどこ行っちゃったかわからないので、何人かにじゃろ先輩を捜すのを手伝ってもらって構いませんか?」
色々と思うところがあったので、提案をしてみた。おそらく、副会長ならオレの意図を察してくれるだろう。
「いいでしょう。では、ヘロディア・ローレンツさん、タニア・クラインさん、お二人でミナセ君の手伝いをして下さい」
「な!? どうして私たちが? それに、私達は姉様と……」
「……」
「いえ、やはりマリアにはもう少し休んでいてもらいます。手負いで仕事はさせられません。そうなると、あなた方は手が開きますね? 頼みましたよ。マリアもいいですね」
有無を言わせぬ、副会長の指示に妹分二人は黙り込む。流石は副会長。オレの意図を完璧に理解して、動いてくれた。やはりマリア先輩には休んでいてもらいたい。
「じゃあ、オレは向こうを捜す。あんたらは……まあ、勝手にしなよ」
「うるさい! 指図すルな!」
そんなつもりはなかったのだが、怒鳴り返されてしまった。怖いなぁ。
「先輩! ちゃんと迎えに行ってあげて下さいね!」
会議室を出たすぐのところで、リーさんが声をかけてきてくれた。
「わかってるよ。リーさんも頑張ってね。何の仕事してるのか知らないけど」
リーさんは一体どんなことをしてるのだろうか。この歳になって作戦本部って言葉は憧れる。
また慌しくなってきた。オーガスト先輩や会計は既に見当たらない。
火焔兎討伐作戦第二段階が始まった。




