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期待しています


  ミス皇立。それは皇立図書士官学校建立以来続いているイベントだ。毎年我こそはと思う女性が立候補、もしくは推薦され、その美しさ、賢さ、品位を競う。ちなみに、ミスター皇立は存在しないが、これは生徒会長選挙がそれに値する。

  ちなみに、ミスコン優勝者は、学校の広告塔となり、様々な企画や場所に呼ばれることとなる。


「マリア・シーサイドさん!  あなたの美しさは言わずと知れたものですが、近年はそれに磨きがかかってきております。今年ももちろんエントリーされますよね?  応援していますよ!」


「あら、ありがとう」


  ニッコリ微笑むマリア先輩は昨年の三番手だ。水精霊鬼 (ウンディーネ)を使った水流のパフォーマンスが素晴らしかった。


「女史!  いやぁ、僕がこっそりエントリーした甲斐がありました。今年も是非出場して欲しいですね」


「あなたのせいで大変だったの。今年は遠慮させてもらうわ」


 こういうイベントには興味なさそうな副会長だが、去年出場していたのはそういう理由か。嫌なんだけどイベントを白けさせるわけにもいかないし仕方ない、みたいな表情が堪りませんでした。

  ちなみに彼女は準グランプリだ。


「なるほど、お二人ともお綺麗で、スタイルも完璧ですし、納得ですね」


 リーさんがどこか恍惚とした表情で呟く。アカン、やっぱりこの娘危ない。


「だな。けど、リーさんだって負けてないと思うよ」


  正直な感想だ。能力も外見も、彼女達に全く引けを取らないだろう。ただ胸囲は……うん。リーさんまだ成長期だしね。


「え、え?  そ、そんな、私なんて」


 否定するリーさんだが、頬を染めて悪くない様子だ。


「そ、それで、どなたがグランプリだったんですか?  この部屋にいるということは……」


「まぁ、待ってな。いま、あの人が発表してくれるからして」


 あまり親しみを込めたくないので、あの人呼ばわりだ。


「そして!  何と言っても驚異の得票数六割越え!  絶世の美女二人を抑えてのグランプリに輝いた……」


 一拍おく。そして、


「乙姫さん!  その美しさもさることながら、圧巻のパフォーマンスでした!」


  昨年はこの学校の六割がロリコンであると判明した画期的なミスコンとなった。

  しかし、いまだにオレを睨み続けているじゃろ先輩は全く話を聞いていないし、オーガスト先輩は……大丈夫。 あなたのノートはちゃんと守るから。だからそんな目で見ないで欲しい。

  笑顔で手を叩くマリア先輩のとなり、二人の妹達が、刺すような視線でじゃろ先輩を見つめていたことに気づいた人間がどれだけいただろうか。


「つまり、そういうことだよ、ミナセ君!」


「あ、オレに話してたんですか?」


  どういうことだ。


「今年のミスコンも本当に楽しみだ。一人にしか投票出来ないのが残念な限りだよ」


  じゃろ先輩はミスコン以後、学校案内のパンフレットにのったり、「月刊図書士」のモデルを務めたりしている。


『ふ、ふん!  当然じゃ。それに、いったいいつの話をしておる』


 少しだけ照れたような表情のじゃろ先輩だ。やはりまんざらでもないようだ。


『……ふむ。当然ついでに聞いておくが、サクラ、お主は去年、一体誰に票を入れたのかのぅ?』


 しかし、試すような視線でオレに話を振ってきた。

  会計がじゃろ先輩の見えない所でオレにウィンクしてくる。なるほど、これが狙いか。お節介なことだ。

 となりを見れば、リーさんが空気を読めと目で凄んでくる。オーガスト先輩は……あんた自分の小説絡んでくると本当ダメだな。


「そりゃ、もちろん」


『もちろん?』


  オーガスト先輩以外の全員がオレに注目していた。


「マリア先輩に投票しましたよ。パフォーマンスが凄かったんで」


  ガクリ、と会計とリーさんが態勢を崩す。


「ミナセ君!?」


「先輩!?」


「あら、嬉しい」


 嘘をついても仕方がない。


「本当は最初は副会長に投票するつもりだったんすけど、マリア先輩のパフォーマンスがやっぱり凄くて。同じ水精霊系の契約者として感動したって言うか」


  あそこまで完璧に精霊を扱っていたのは、本当に凄かった。シンシアなんか、オレの言うこと全然聞かないからな。


「ありがとう。今年はもっとレベルアップしてるから、楽しみにしていてね」


「はい。期待しています」


  マリア先輩は嬉しそうに手を振ってくれる。


『お主……』


「はい?」


『お主、最初、誰に投票するつもりだったと申した?』


 鍵盤の一番下を叩いたかのような重低音ボイスだ。


「副会長すね」


 入学以来のファンだ。壇上での美しさは際立っていた。

  オレの非常な言葉を聞くと、じゃろ先輩はぐったりとうなだれてしまった。室内の空気が一気に悪くなる。


『ちょっと、ちょっとサクラ!』


 シンシアが小さな声で話し掛けてきた。会計に見つからないように、こっそり、リュックから頭だけ出している。


『あなた空気読めなさすぎよ!』


「いや、嘘をついた方が後々不味いだろ?」


 一応それなりの理由もあるのだ。


『だからって……』


『おのれー!! 』


 シンシアとの会話をぶった切ってじゃろ先輩が叫んだ。そのままダン! と一歩片足を机に乗り出す。


『そこの泥棒猫二匹!  妾と勝負じゃ!』


  懐から二本の鉄扇、「冥海」を取り出して構える。それはじゃろ先輩が本気で闘う時だけ使う武器だ。

  理由こそめちゃくちゃだが、じゃろ先輩が本気で怒っているらしいことを、全員が悟り、それと同時に激しく緊張する。

 この場には副会長、会計を始めとした錚々たるメンバーが揃ってはいるが、それでも本気のじゃろ先輩は怖いのだ。ちょっとした思い出話が思わぬ事態を引き起こしてしまっていた。


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