相変わらず二人は仲良いなぁ
次の講義は二根舎だ。皇立図書士官学校の学舎は、全て世界樹の根をくり抜いてつくられている。十二本の根の中にそれぞれ二つか三つの講義室があり、幹の中は職員の私室や、事務室、大中小の演習ルームがある。そして、その上の階層には中規模の私立図書館が二つもある。これだけ根やら幹やらに大穴をあけられても、倒木する危険は一切ないそうだ。 何だか、魔書や聖書のからんだ複雑な計算式があるそうだか、オレはよくわからないので割愛する。
「おー。きたきた。サクラー、シンシアさーん」
一根舎の方から名前を呼ばれた。夏に吹く涼風のような爽やかな声でオレの心のムカつきを取り払ってくれる。
「待ってたよー」
根舎の窓からひょっこりと顔だけ出して、ニコニコ笑っているのは他の誰でもない。唯一無二のオレの親友、セレンだ。少し長めの金髪がまぶしい。
「セレン、どうした? 次は書史学だろ、向こうの二根舎だぞ」
「知ってるよ。サクラも一緒だから待ってたん」
やばい、嬉しくて涙がでそうだ。
『ニヤニヤしないでよ。気持ち悪い』
「うるさい」
「あはは、相変わらず二人は仲良いなぁ」
「そう見えるかねぇ」
セレンの視力が心配になるぜ。
挨拶ついでの下らない会話の後、セレンは十二根舎の方へ歩いていく。あまりに自然だったので、思わずついて行ってしまった。
「って、おいおい。次の講義二根舎だろ?」
「あぁ、それねぇ、急遽変更になったんだよ。グリーマン先生の自宅が花びらで埋まっちゃったんだって。だから、講義室は九根舎だよ」
「九根舎ぁ!? マジかよ、全然知らなかった。てか、このままだと完全に遅刻……」
「だよねぇ、もう少し早く情報公開してくれないと困っちゃうよ」
「……わざわざ伝えるために待っててくれたのか?」
セレンが得意げに片目をつぶる。その後少し照れたように耳を赤くした。ウィンクと照れ姿がここまで似合う男子がいるなら、オレの目の前に連れてきてほしい。もう、ほんとすき。
「そ、それより、『担当講師コーエン』って書いてあったから急ごうよ。また罰則にかこつけて色々手伝わされそうだし」
「よりによってアイツかよ……」
「走るけど、大丈夫?」
うっと、言葉がつまってしまう。別に運動が苦手なわけではない。ただ、基本だらけているから、運動不足なのだ。
それと、魔書契約の制約上、長時間体を動かすことができない。
「ま、まあ、頑張る。遅いようなら置いて行ってくれ」
『図書士候補が体力ないってどうなのよ』
「うるせー」
「ほらっ、いくよ!」
ここから九根舎まで、中央幹舎を通っても、二十分はかかる。オレの体力がもつとは思えなかった。後々のことを考えると、周囲の香りがよけい甘く感じられて、また少し気分が悪くなった。