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わっかんねぇな



「あのですね、じゃろ先輩」


  突如出現した星五魔獣「焔狼」は、じゃろ先輩が瞬殺してしまった。


「物語には展開ってものがあるんです。普通は巨大な敵が現れて、皆んなであたふた、試行錯誤しながらも、何とか倒すってのが流れなんすよ」


『知っておるぞ。天使がおるところじゃな』


「それは天界」


 「焔狼」の出現と共に大量の「火焔兎」も消えた現在、一部の生徒を除いて、一時待機の状態に入っていた。

 リーさん以外、オレ、じゃろ先輩、オーガスト先輩の三人は、チーム299の個室にて休息をとっている最中だ。


「ていうか、あんた自分のチームに合流しなくていいの?」


『かまわん。色々と事後処理が面倒だからそっちのチームで好き勝手やってきてくれと言われておる』


 かまわんくねぇよ。じゃろ先輩のチームメイト、なかなか食えない奴らみたいだ。


「まだ話は終わってないすよ!  あんな簡単に倒しちゃったら、出オチ感すごいじゃないですか。一体どうやってこれなら話を盛り上げていくんですか?」


『そんなことを言われてものう。倒せるから倒したまでじゃ。そもそも考えもみよ。あの狼は星五、妾は星六の魔書じゃ。それだけで倒せる理由としては十分じゃろう』


「それに、ミナセの理屈だと、もう一人説教しなきゃいけない相手がいるね」


  そうなのだ。

  そしてまたここで校内放送だ。


「乙姫さん、生徒会長。グリーマン先生が『焔狼』についていくつか聴きたいことがあるそうです。至急、中演習ルームに集合して下さい」


「瞬殺した人達に何を聴くって言うんだよ」


 そう。「焔狼」は二体出現した。教育図書館前と西公園に。だが、その両方が、出現してからわずか数分で討伐されてしまった。


「じゃろ先輩はまだわかる。でも、なんで古びたナイフ二本で星五魔獣が倒せるんだよ」


「うちの生徒会長、バケモンだからね」


『あやつも振り切っておるのぉ』


  振り切りすぎだ。


『それじゃ、サクラ。行くぞ。ついて参れ』


「なんでですか。呼ばれたのあんただけでしょ」


『妾は今狙われておる身じゃぞ。こんなか弱い乙女を一人にするというのか?』


  ぜんっぜんか弱くないのですが、それはどうしたらいいですか?


「行ってやんなよ。あとリーにもよろしく言っておいて」


  味方などいない。


「はいはい。わかりました」


『良し良し。では参るかの』


  嬉しそうなじゃろ先輩がすっと、自然に手を繋いできた。面倒なので振りほどかない。好きにさせておく。


『ふふん、今の妾達はさぞ似合いのかっぷるに見えることであろうな』


  どちらかと言えば兄妹だろう。


『ふぁーあ。疲れちゃったわね……って!  あなた達何してるの!』


  仮眠していたシンシアが起きてきたようだ。


『ふふん?  かっぷるのようで羨ましかろう?』


『いや、全然釣り合ってないから、そうは見えないんだけど……とにかくダメ!  はなしなさい!  サクラも、何で振りほどかないの!?』


  何でと言われると、面倒なのはもちろんだが、あと一つ、じゃろ先輩がすごくいい匂いがするというのもある。


『なっ!?』


『そ、それは、なんとかいうか……照れる、というか、のう?』


「あ、声に出てた?」


 まあ、いいや。言い訳くらいはすべきだろう。


「いや、前々から思ってたんだけど、じゃろ先輩って何か婆ちゃんの匂いがするんだよ。ん?  いや、正確には婆ちゃんの家、か?  まあ、ともかく、それが安心するっていうか……」


  年長者としての落ち着きも貫禄もないが、流石は数百年生きてるだけはある。と、一人納得していると、やけに、繋いでいるじゃろ先輩の手が震えているのを感じた。


「じゃろ先輩?」


『……じゃ』


「え?  なんて……」


『お主というやつは!  もう!  お主なんか嫌いじゃ!!』


「えぇ!?  何いきなり!?」


  力強く俺の手をはたいたかと思うと、ふえーんと情けない声をあげながらじゃろ先輩が走り去ってしまった。


「あれ?  何か不味いことしたか?」


『サクラ……』


  何故かシンシアも呆れている。


『今すぐ追いかけてあげなさいな。あれはちょっと同情するわ』


「わっかんねぇな」


『もう!  本当にバカなんだから!』


  だが、じゃろ先輩を一人にもしておけない。追いかけるしかないのか。


「じゃあ先輩、行ってきます」


  椅子に座って頬杖をついたオーガスト先輩も、どこか表情が芳しくない。


「はいはい。 行くならさっさと行きなよ」


「うす。 それじゃまた」





  やっと行ったか。全く、あの子達は何かしようとするたびに一騒動挟まないとやれないのだろうか。おかげで落ち着いて読書もできやしない。

  まあいい。これで一人きりになれた。先ほど、作戦中にいいイメージが浮かんだのだ。さっそくノートにメモしておかなくては。


「ってあれ、ノートない……あ!」


  しまった!  ミナセがノート持ったままだった!  あれを持ったままウロウロされると不味い。急いで追いかけないと!


「ちょっとミナセ!  待って!」


  フィオ・オーガストも慌てて個室から飛び出した。

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