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上からの指示


 教育図書館の北出入り口前には、異様な光景が広がっていた。中演習ルームほどある広場全てを、火焔兎が埋め尽くしていたのだ。その数は百や二百ではない。増えすぎて身動きがとれなくなっている程増殖していた。


「何だこれ……。一体どこにこんな数がいたんだ?」


『壮観じゃのう』


『ちょっと、気持ち悪いかも……』


  オレ達は広場脇の商店の屋上から火焔兎を見下ろしている。

  揉みくちゃになった火焔兎たちが、擬音のしようがない声をあげてうごめいていた。


「遅かったようですね」


 背後から声がかけられた。


「渚エンジェルズのマリア先輩!」


 水系統の述式転化や魔獣召喚を得意とする三人の美少女で結成されたチーム、渚エンジェルズのリーダー。マリア・シーサイド先輩が立っていた。

 副会長に負けず劣らずの豊満な肉体と、色気たっぷりの口元で男子生徒を魅了してやまない美女だ。

 彼女の戦闘スタイルである、黒いパレオの水着と、長い金髪が美しい。

  寒くないのかな……。


「私たちが来た時には、もうこの状態だったの」


「そ、そうだったんですか。アハハ」


『こら!  デレデレしない!』


『妾というものがありながら、何という奴じゃ!』


 無茶言うな。あんたらと比べ物にならないくらい色っぽいんだぞ、このお姉さん。


「おい!  いやらしい目つきで姉様をみるナよ!」


「キモい……」


 マリア先輩の後ろから、二人の少女が現れた。一人は褐色肌に銀髪を切ったボーイッシュな少女、ヘロディア・ローレンツ。言葉に少し南方のなまりがある。もう一人は青い髪と真っ白な肌がどこか神秘的な少女、タニア・クライン。

  二人共マリア先輩とおそろいの、白と青の水着を着ていた。

  渚エンジェルズ全員集合だ。成績だけでなく、その容姿からも人気を集める強豪チームだ。こんな大規模作戦でもない限り、一生一緒に仕事することのないチームである。


「いるんだヨな。姉様が優しいからってすぐつけあがるヤつ。勘違いすんなっツーの」


「キモい……」


  散々な言われようである。だが、今回はオレ一人ではない。シンシアもじゃろ先輩もいてくれるんだ。心強いぜ。


「何だあんたら。別にオレはただ……」


『そうよ!  女性の身体をジロジロみるなんてサイテー!』


「お主など、捕まってしまえば良いのじゃ!』


  オレに味方などいないようだった。








「すみません。この子達、悪い子ではないんです。ただ少し口が過ぎるところがありまして」


「いや、気にしてないっすよ。アハハ」


  ヤベェ、前屈みサイコー。


「姉様!  またこいついやらしい目つきしてルよ!」


「キモい……」


 またやかましくしやがって。あと青髪の娘は同じことしか言えんのか。


「取り込み中のところ悪いけど」


  オーガスト先輩だ。


「はい、何すか。ちょっと外野うるせぇ!  いや、何でもないです。はい。それで、え、え?」


  今なんて?


「じゃあ、もう一回言う。外の殲滅隊は直ちに全員帰還。上からの指示。それじゃ、私は先に戻るから。あんたらも早くしなよ」


『何と言うてきおったのじゃ?』


 じゃろ先輩は広場に鯨雷弾ホエールをぶち込む準備をしていた。


「全員、帰還だそうです」


「はあ!?」


 全員がハモった。


「それでは、ここの兎さん達は……?」


  マリア先輩、兎さんって呼んでるのか。可愛いな。


「放置。ひとまず帰ってこいだそうです」


 皆あぜんとしている。無理もない。作戦は進んでいるどころか、火焔兎は増殖する一方だ。今隊を引いたらしたら……。

 オレの思考が惑ったその瞬間、突然筆舌に尽くし難い巨大な音が街に鳴り響いた。


『わ!』


『なん!?』


「こ、これは!?」


  突然広場の火焔兎達が一斉に奇声を上げ始めた。ピアノの不協和音のように不快な鳴き声で、思わず耳をふさぐ。


「なんですか、これは……!」


「姉様!  あぶナい!」


  褐色のヘロディアが、マリア先輩に飛びついてその場から離れさせる。


 その次の瞬間、広場の火焔兎達、全てが同時に着火した。


「うわ!」


「熱い!!」


『きゃあ!』


「シンシア、隠れてろ!  じゃろ先輩!」


『わかっておる!  タァ!』


 じゃろ先輩が両腕を頭上で交差させ、裂帛れっぱくの気合いと共に図書エネルギーを発した。これにより、業火から身を守る巨大な海水の壁が出来上がる。


「なんだ、これ……」


 暑さ数センチの海水の壁の向こう側、一瞬燃え上がった炎の果てには、火の海と化した広場があった。

 それだけではない。最初に燃え上がった炎のせいで、至る所に火炎が飛び移っている。これは、呆けている場合じゃない。


「じゃろ先輩、逃げますよ!  なんかヤバい!  とにかく早く本部に伝えないと……!」


「待って!  あれを見て!」


 マリア先輩の右手には少し火傷の痕が出来ていた。が、それどころではない。彼女が指差す方向、炎の海の中心で、何かが胎動していた。

 脈打つそれは、まるで何かの心臓のようであり、そして……


「動き、出しただと!?」


 その心臓は、ゆっくりと周囲の火焔兎の亡骸を吸収しながら巨大化していく。少しずつ形作られていくそれは、何か、どこかで見覚えがあった。


「あれは……まさか、そんな……!」


「グガァアァァアァア!」


  現れたのは家を飲み込んでしまいそうなほど巨大な狼。

  天を貫く咆哮と共に、星五魔獣「焔狼」が降臨していた。

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