名前でわかれよ
「今回の特別課題の参加チームは今のところ四十七チームです。受付が今日の夕方までなので、もう少し増えると思われます」
五十を超えそうなのか。いつもの特別課題の倍以上の参加数だ。
「どこどこ参加してるの? 生徒会はもちろんだけど、あんまり強いチームばかりだとヤル気なくすよ」
そもそもないヤル気をさらになくすのか。これは実質リタイア宣言だな。
「そうですね。私もどのチームが優秀なのか、まだいまいち把握していませんが、力があると目されているチームはほとんど受けるようですよ」
「辞めようぜ もう」
「ポッター兄弟とか、渚エンジェルズ、カランザ先輩のチームや、あ、シェアラ先輩のチームもですね」
「勝ち目ないね。今のうちに辞退して、公課題受けたほうがマシだと思う」
リーさんが今挙げたチームは、学内どころか、皇国レベルで期待されるようなホープ達だ。図書士としての輝かしい未来が約束されている連中である。
「そんなことはありませんよ。今回、討伐より捕獲の方がポイントが多くもらえる仕様です。きちんと作戦を立てて臨めば、十分勝負になるはずです」
リーさんはどこまでも前向きだ。先輩二人が置いてけぼりなほどに。
『ねぇサクラ、この火焔兎ってどういう魔獣なの? すごく可愛いけど』
会計がいなくなってしばらくたったから、シンシアが顔を出してきた。配られた資料の写真を見て喜んでいる。
確かに、火焔兎は、真っ白な毛並みにところどころ赤い紋様が入った耳の長い兎で、愛玩動物のようではある。
「そうですね。まずそこから話していきましょうか。火焔兎、自己増殖する小型魔獣ですね。性格も温厚ですし、普通にしていれば害のないタイプです」
『えー! サクラ! この子捕まえて飼いましょうよ!』
「ところが、そう簡単にはいかないんだな」
「その通りです。この火焔兎は非常に危険な性質を持っています」
『な、なに? 実はすごく臭いとか?』
「ちげぇよ、炎を吐くんだよ。名前でわかれよ」
臭いのは臭いので迷惑だけどね。
『え、じゃあ、ものすごく危ないんじゃないの? 火事が至る所で起きちゃうじゃない』
「いえ、そこまでではありません。吐ける炎の大きさもマッチの火くらいのものです。」
『そうなんだ。じゃ、じゃあ……!』
「ただ、雑食で何でも食べる。大きさも五十センチくらいあるから、シンシアなんかひと飲みだな。 だからダメ」
『そんなぁ。私小動物に食べられる程鈍くないわよ』
いや、お前体格的に食物連鎖の下位だから。
「それに、放っておくとどんどん増えますし、そうなると火事の心配が大きくなります。事実、大火災と呼ばれる事件を二つ引き起こしていますね。一個体としては弱いですが、やはり魔獣であるということを忘れてはダメですね」
「私の消火隊の友達も、今相当参ってるみたいね。小さなボヤ程度はあちこちで起こり始めてる」
先輩、友達いたんだ。
「ミナセ、何か言いたいことある?」
「い、いいえ! 何も!」
「彼らは自分の好みの物を燃やしたがりますし、それに集まってきます。なので、最初に逃げ出した個体の好みが分かればかなり楽に捕獲できますね」
火焔兎の好みは、増殖元の一体のものが遺伝していく。学校側が元祖の兎の好みを把握しているかどうか、また、それを知らせてくれるかどうかで課題の難易度は大きくかわる。
まあ、その可能性は低いけど。奴らの最大割合を占める個体の好みを掴むこと。それが今回の課題のキモだろう。




