何回見ても飽きないわね
「で? それで契約したんだー。流石のしーちゃんも、心動かされちゃったわけね」
あぁ、これで何度目だろう。
「でも意外だなぁ。ミナセ君って何て言うか、こう気怠げな感じだけど。やる時はやるんだねー」
やめてくれ。
『この話しはね、まだ続きがあるの。サクラったら、私と契約出来たことがよっぽど嬉しかったんでしょね。そのあとやってきた叔父さんにーー』
「うわぁああ!」
これ以上生き恥晒してたまるかよ! 全速力で精霊と本を抱えてこの空間から離脱する。
『ちょっと何するのよ! まだここから面白くなるのにー』
「ふざけんな! どうしてオレの恥ずかしい黒歴史を目の前で暴露されなきゃなんないんだよ!」
『だって昨日勝手に私のプリン食べたでしょ! 楽しみにしてたのに!』
「それは謝ったし、新しいのを買ってあげた
だろ! 二個も、二個も!」
大事なことなので、二回言いました。だいたい、食事の必要がない精霊が、どうしてプリンを食うんだよ!
ここは皇立図書士官学校の十二番目の根の中にある談話室だ。陽気な春の昼下がり、午前と午後の講義の間の休み時間は、生徒達のお喋りの花が、あちらこちらで咲いていた。
そんな最中でこのアホ精霊は大声で芝居がかった語りを始めるものだから、ちょっとした人だかり出来てしまっていた。
人混みの中を魔書を抱えて突っ切る。精霊の本体は書なので、これでアホごと逃げ出せる。
「ええ、終わりかよー」
「もっと聞きたーい」
「うるせえ!」
『もう! せっかく話しかけてくれてるんだから、きちんと対応なさいよ。そんなんだから三年目にもなって友達がいないのよ?』
「余計なお世話だ! だいたい、オレを友達の一人もいない寂しい奴らと一緒にするな」
『だって友達いないの事実じゃない』
「いるわ! 一人!」
『ごめんなさい、傷つけるつもりはなかったの』
何故謝る。ったく、出会った時から、相変わらず嫌な奴だ。
本にカバーをかけてから、背中のリュックにしまう。走りながらの作業だったので、少し雑になってしまったが仕方ない。こいつもわかってくれるだろう。
『ちょっと! もっと丁寧に扱いなさいよ!』
「………………」
談話室がある十二根舎から出る。外の空気を吸えば、先ほどから感じているイヤな汗も止まると踏んでいたのだが、少し甘かった。いや、正確には、むせ返る程に甘ったるかった。
『ほんっと、何回見ても飽きないわね。この世界樹の開花期は』
視界のほぼ全てが舞い散る薄桃色の花弁でうまっている。辺りを満たす甘い香りは、オレの気分を少しだけ悪くする。
ここは、図書と世界樹の街、レーゼツァイセンだ。