表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/140

野暮なこと聞いちゃいけないよ


「本当に、本っ当に!  先輩を少しでも信用した私がバカでした!」


  オレの命の危機とオーガスト先輩が去った頃、午後一つ目の講義終了の鐘がなった。本来ならばこの後も講義は続くのだが、今日は特別課題の発表と参加受付があるのでお休みである。

  今、オレ達、リーさんとセレンの三人で、その発表を見るために中演習ルームにやってきていた。他にも課題を受けるつもりなのだろう、人気チームや、有名生徒らが続々と集まってきている。


「面白かったよー。『先輩は来ると約束してくれましたので、絶対に来ますっ』て、もうキラッキラした目で言うもんだからさ、みんなもちょっとサクラのこと待ってたの。そしたら全然こないんだもん!  普通に講義は進むし、結局こないし。コーエン先生も大ウケでさ、サクラ出席したことにしてくれたんだよ」


「まじかよ、ラッキーだな!」


「ラッキーじゃありません!」


  リーさんは怒りと羞恥で顔真っ赤である。


「来るって言ってたじゃないですか!  一体どこで何をしていたんです!」


「あー、それは……」


  一体どう言い訳したものだろうか。オーガスト先輩には、秘密にして欲しいなどとは言われていない。しかし、もちろん軽々しく人に言いふらすような内容でもないだろう。ノートのことがバレたからってオレを殺しにきてたしな。あの目は本気だった。


「言えないことをしてたんですか!?」


「まぁ、なんと言うかその、なあ?  シンシア?」


『私にふらないでよ』


「リーさん、野暮なこと聞いちゃいけないよ。若い男女が二人きりですることなんて限られてるでしょ?」


「なっ!?  なんて、ことを!  先輩わかってますか!?  ここは学校ですよ!」


「こらセレン。後輩をからかって遊ぶんじゃない。」


「えー、話逸らしてあげたのに」


 悪い方に逸らしてどうする。

  リーさんの厳しい追及からどう逃れようかと思案していると、演習ルームの入り口から、黄色い叫び声が次々に上がり始めた。


「キャー!  バッシュロ様よ!  今日も黒髪が素敵!」


「副会長だ!  すげぇ、やっぱめちゃくちゃ美人だよ!」


「こんなところでお見かけ出来るなんて……幸せ……」


  その叫びは男女入り混じり、途切れる事はない。それもそのはず、やってきたのは、この学校で最も人気のチームだ。


「あちゃー、生徒会も参加するんだ。サクラたち大変だね」


「もうオレ帰っていいかな」


「いけませんよ!  初めからわかっていたことです。頑張りましょう!」


  え、リーさん知っててこの課題受けようとしてんの?  本当に大丈夫かなぁ、この娘。生徒会チームは何を隠そう、この学校で最も優秀なチームだ。彼らの参加を知って、課題取得を諦めるチームも多数出て来る。だが、生徒会チームを一目見ようと集まった人だかりのせいで、演習ルームから立ち去ることもできない。哀れすぎる。

  オレもセレンも興味はないので、人だかりに混じろうとは思わないが、リーさんは少し興味があるようだった。


「生徒会の方々ですか。うわさはたくさん聞きますが、一体どんな方たちなんでしょうね。たしか、歴代の生徒会の中でも特に優秀な方々なんだとか」


「じゃあ見てきたら良いんじゃない?  まだ少し時間あるよ」


「そ、そんな見世物みたいな……。いいですよ。それに、あの人だかりをかき分けるのは、ちょっと」


  全くもってその通りだ。でも少しまずい。他でもない、リーさんのような女の子がそんな話をしてしまうと…。


「お呼びですか。姫」


  ほらきた。


 「キャアァアァ!!」


  女子生徒から大歓声があがる。リーさんの片手を恭しく取って、片膝をつくのは黒髪の長身の男。黒く地味なはずの制服も、こいつが着るとまるで劇団の衣装のように華やかだ。長い睫毛に高い鼻、紫色の瞳はどこか蠱惑的で見る人の心を狂わせる。学校創立以来の美青年と称えられる男、生徒会会計、トーマス・バッシュロだ。


「ちょ、え?  え?」


  なんという早業。突然どこからともなく現れた男に片手を取られている。その状況にリーさんはひどく混乱してしまっているようだ。


「おっと、驚かせてしまったかな。申し訳ない。僕の名前はトーマス・バッシュロ。生徒会会計だ。どうぞよろしく」


  リーさんの手を名残惜しそうにはなして、一歩下がってお辞儀をする。それだけで、周囲の女子生徒は嬌声をあげる。


「おや、もしや君は……。これは素敵な偶然だ。神様も粋なことをしてくれるね。君に大事な話があるんだ。どうだろう。これから2人で……」


「え、え、あの、ちょっと!」


  再びリーさんの手を取った。イケメンの猛アタックは、リーさんを一層混乱させる。

  たぶん止めに入った方がいいのだろうが、正直生徒会と関わると面倒なので、無視する。ごめんね、リーさん。


「あの、その、手をはなして、下さい」


「悪いけど、それは出来ないよ。君がその可愛らしい唇で頷いてくれるまでは……イテ!」


 なおもしつこく迫る会計に、手刀をお見舞いしたのは、もちろんオレや、セレンではない。


「トーマス。彼女は嫌がっているでしょう。手をはなしなさい」


  「うぉおぉお!!」


  今度は男達の熱い叫び声があがる。もちろんオレも混じっている。


「今すぐその手を離さないと、あなたの腕に花を咲かせますよ」


  学園のお姉様こと、リーリエ・S・ジューン副会長様のご登場だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
a href="http://narou.dip.jp/rank/index_rank_in.php">小説家になろう 勝手にランキング
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ