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たまったもんじゃねぇぜ


「じゃ、じゃあ先輩は結婚されるんですか?」


「しねぇよ。じゃろ先輩が勝手に言ってるだけだ」


『当然よっ!』


「そ、そうですか」


『ちなみに正室はセレンじゃぞ!』


 聞いてねぇよ。


「セレンさんって、あの金髪の方ですか?  それはご本人は承諾されてるんですか?」


「いや、じゃろ先輩が勝手に言ってる」


「……めちゃくちゃですね」


『そんな事はないぞ!  これは妾が陸に上がってからの壮大なすとーりーになるのじゃが……』


「かいつまんで説明すると、じゃろ先輩が初めて話した若い男子がオレとセレンだったんだ」


  こら、何故妾の話を遮るのじゃ、もう先輩うるさい。話が前に進まない。


「初めて会ったって、でも乙姫さんは四年生ですよね?  去年ミナセ先輩達とチームを組まれるまで、どうされてたんですか?」


『うむ。海底都市で課題やぷりんとをもらって勉強しておった。自宅学習というやつじゃな』


『そのまま海底に沈んでればよかったのよ』


「リーさん、海底都市についてどこまで知ってる?」


  意外と込み入った話があるのだ。


「えっと、たしか極東の島国の昔話『浦島』の原本が暴発したのが、そもそもの始まりですよね。それで世界型の星六魔書だった『浦島』の能力が発動してしまって、海底都市が出来たとか」


 その通りだ。海底都市誕生は今から数百年も前だが、当時まだ図書士協会や、大陸連盟が脆弱だったため、大変な混乱を招いたとか。なにせ、自分達からは絶対に干渉できないところに「都市」とは名ばかりの立派な国家が突然生まれたのだ。その混乱は想像に容易い。


「ですが、国交というか、海底都市との交流はつい最近の話ですよね。それは一体どういう経緯なんですか?」


『うむ。知らなかったのじゃ』


「え?」


 じゃろ先輩は大真面目な顔で言う。


『知らなかったのじゃ。陸という概念があることも、そこに人という生命がおることも。妾は数百年間、あの竜宮城の中でタイやヒラメと舞を踊りながら退屈な日々を無為に過ごしていたのじゃ。まさに籠の中の鳥じゃな』


『ツボの中のタコでしょ』


  何だかセンチメンタルに話しているが、さらっと出てくる数百年という規模は正直笑えない。星六魔書の凄まじさを感じさせる。


『じゃから妾は嬉しかったのじゃぞ。初めて人というものと出会い、言葉を交わした。もちろん、良いヤツばかりではなかったが、皆、イキイキとそれぞれの人生を懸命に楽しんでおった。妾もぜひそんな毎日を送りたくてのぅ。タイやヒラメに無理を言って、ここまでやってきたのじゃ』


 この海底都市王の地上訪問に関して、最も密に関わったのが図書士協会だ。常に最悪の事態を想定しながら、海底都市だけでなく、大陸中の国々と交渉、調整をし、やっとの事でじゃろ先輩の皇立図書士官学校入学にこぎつけた。


「なるほど。でもどうして二年もの間自宅学習を?」


『ひとえに、慣れのためじゃな。妾は人の生活について知る必要があったし、お主ら、人も妾について知る必要があった。そのための時間じゃ。ただ自宅学習をしていただではないぞ。時々地上にあがって、色んな国を訪問したり、国主と会ったり、忙しい日々を過ごしておったのじゃ』


  大変バカっぽいじゃろ先輩だが、一応は国王であり、どんな場においても国賓なのだ。そうは全く見えないが。


『そして!  そしてとうとう正式に学校に通い始めた妾とチームを組んだのが、セレンとサクラじゃったというわけじゃ。どうじゃ、壮大であろう』


「確かに壮大なんですが、結末がいかんせん……。ていうかよくも、こんなスゴい人のチームメイトにミナセ先輩たちが選ばれましたね。」


「そうなんだよ。たまったもんじゃねぇぜ」


  この学校は中に入れば外の身分、出自は一切考慮されない。しかし、ここまでしなさすぎるのも流石にどうかと思う。


『そういうわけじゃから、セレンは正室、サクラは側室として決定しておる。近いうちに皇国にも断りを入れるつもりじゃぞ』


「やめてくれよ。まじで」


「初めて会ったから正室、側室って。何という刷り込み……。乙姫さん、きちんと意味を理解して仰られてますか?」


  リーさんの辛辣さが少しずつ戻ってきた。大分普段の調子と言える。


『もちろんじゃ。これからの竜宮城の発展のために、妾とサクラ達で子を成し、毎日家族で舞を……』


「あー!  もういいです!」


『な、なにを言ってるのよ、ばか!』


  少し赤くなったリーさんが話を遮る。じゃろ先輩はこういうところが開けっぴろげで恥ずかしい。


「そ、そうだ!  どうして先輩は側室で、セレンさんが正室なんですか? これと双子の兄弟みたいに、先に出てきた方がみたいな話ですか?」


  リーさんの言っていることはイマイチわかっていないようなじゃろ先輩だったが、返答ははっきりしていた。


『いや?  単純にセレンの方が見た目が良いからのぅ。正室は来客の相手をする際に、隣にいてもらわねばならぬ。そんな時見た目が良い方が良いじゃろ?  サクラにはちょっと任せられぬ』


「なるほど、たしか……じゃなくて!」


「うわーん!」


『サ、サクラ、泣かないで!  大丈夫!  昔のあなたは黒髪黒目で素敵だったわよ。今でこそそんなだけど!』


「うわーん!」


『え!?  どうして!  ちょっとあなた達も謝りなさいよ!  サクラ傷ついちゃったじゃない!』


『いや、今のはお主が悪いと思うぞ』


「シンシアさん……」


『ええっ!?』



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