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妾が決めた事じゃ


「ちょっと!  これ、どうしてくれるんですか!  部屋中水浸しじゃないですかって、え!?  これ海水!?  めちゃくちゃじゃないですか!」


 混乱しつつも大声で抗議するのはリーさんだ。まあ、当然の反応である。今も腰まで海水に浸かって、バシャバシャと水しぶきを上げている。彼女はメンタル強そうだし、多分怒ってお終いだろう。それよりも今心配なのは……


『ね、ねぇ、あなた大丈夫?  顔色が物凄く悪いんだけど……』


「うん、大丈夫……かな」


  オーガスト先輩だ。海水にぬれるのもお構いなし。椅子に座ったまま、胸元あたりまで水に浸かっている。青どころか、白くなった顔で、じっと俯いた状態で一点を虚ろに見つめている。普段他人の事など歯牙にもかけないシンシアが、思わず声をかけるほどの憔悴ぶりはただ事ではない。


『おぉ!  サクラ、そこにおったか。探したぞよ!』


「ちょっと!  私の話を聞いてますか!? 先輩、お知り合いなんでしたら、どうにかして下さい!」


「……ムリだよ。リーさん、紹介しよう。この人は星六魔書『浦島』の精霊、乙姫先輩だ」


 オレの紹介中に赤い魚がパシャリとはねた。あれは塩焼きがいいかな。


『これ、サクラ。正式名称は『海底都市王・竜宮城乙姫』じゃ。知らんとは言わせんぞ』


「精霊、ですか?  じゃあシンシアさんと同じ……?」


『やめてよ、こんなのと一緒にしないでくれる?』


『なんじゃ、ちんちくりん。まだ妾のサクラにくっついておったのか。いい加減自立するがよい』


『なっ!?  だ、だれがあなたのサクラよ!  私はそんなの認めないんだからっ!』


『何故ゆえお主の許可がいるのじゃ?  サクラは竜宮城に連れていく。妾が決めた事じゃ』


『だから、勝手に決めるなって言ってるの!!』


「ちょっと先輩……」


「ん?」


「説明して下さい。もう何が何だか……!」


  あのリーさんが頭を抱え込んでしまった。だから言っただろ。ムリだって。







「とりあえずじゃろ先輩、この海水なんとかしてもらえますかね」


『うむ、お安いご用じゃ』


  ピシッと自身のしっぽをくねらせると、オレの腰まであった海水がみるみるうちに引いていく。さながら津波の前の引き潮のようだ。


『どうじゃ?』


「いいっすね。あと、壊した扉と痛んだ壁とか家具とか、あと服のクリーニング代とか、諸々の損害費は竜宮城に請求させてもらいますんで」


 この手続きは慣れたものだ。


『うむ!  よかろう!』


  なんで元気いっぱいなんだよ。金だけはあるからな。海底都市。


「先輩!  それだけじゃなくて、生徒会の方にも報告しないと……」


『まてまて! それは困る。次何か公共物を傷めたら停学じゃと言われておるのじゃ。報告してはいかん』


「えぇ……」


  さらっとむちゃくちゃな事を言ってのけるあたりは変わってねぇな。だったら何故色々壊しながら登場したのだと、リーさんが強く表情で訴える。


「こういう人だ。いちいちちゃんと相手してたらキリがないぞ」


「そのようですね……」


『うむ、わかってもらえて何よりじゃ』


『ねぇサクラ。私の本は濡れてないでしょうね?』


「あぁ、バッチリだよ」


『そう、ならいいけど』


「ごめん」


 みんなでワイワイ話していると、オーガスト先輩が幽鬼のような姿で立ち上がった。


「私、ちょっと先帰るから……」


「えぇ!  そんないきな……はい、わかりました」


 リーさんも思わず言葉を飲み込むほどだ。先輩の落ち込み具合がわかる。


「あ!  ちょっと待って下さい。服を乾かさないと。先輩!?  せんぱーい!」


 あとから気づいたリーさんが慌てて追い掛ける。


『何じゃあやつは。妾が何かしてしもうたかのう』


「絶対そうだよ」


『もう、タコ女が現れるといつもこうなんだから!  服が磯臭くなっちゃったじゃない。どうしてくれるの!』


「はいはい、ちょっと待ってろ」


 あまり得意ではないが、述式転化でシンシアの服を乾かし、匂いをとる。不足があるようなら、あとでリーさんに頼もう。


『あ、こら。またサクラに甘えおって!  ずるいぞ。サクラよ、妾の分もたのむ』


「あんた服乾かさなくてもいいだろ。てか自分でやれよ」


  じゃろ先輩は精霊だが、述式転化が使える。


『ぬぁー!  冷たい、冷たいぞサクラ!』


『ふんっ、当然よ!  ってぃやん!  サクラ、ちょっと強い!』


『おのれ、見せつけおって!  許せぬ。そこのちんちくりん、勝負じゃ!』


『望むところよ!  くらいなさい!』


「うるせぇ!  静かにしてろよ!  あとシンシア、お前は動くな」


  何度も言うが述式転化は苦手なのだ。


「なにやってるんですか……」


 いつのまにか帰ってきたリーさんが、オレ達をみて呆れていた。

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