目をそらしてもダメですよ!
特別課題とは、年に三回学校側から全生徒に向けて出される課題だ。その難易度は超級で、本物の図書士でさえも達成できないものもある。もちろん、その分得られる成績は絶大で、これ一つ達成できるだけで、ほぼ進級が確定するというものだ。ただし、失敗すれば当然成績が下がるわけで、よほどの自信家か、切羽詰まっているチームしか挑戦しない。受けるかどうかの判断は各チームに委ねられているのだ。
「先輩方! 今、私たちのチームは『返し』が五つも付いた課題をクリアしたことで、成績的にかなり余裕があります」
「だ、だから、これからコツコツ課題をやっていけば十分余裕で……」
「ですが! それでもなお我々に普通課題の依頼はきていません。何故だかわかりますか? 先輩方!」
途端に、オレは窓の外へ、オーガスト先輩は部屋の隅っこに視線を向ける。
「お二方の評判がすこぶる悪いからです! こら、目をそらしてもダメですよ!」
言っちゃったよ。身もふたもないな。
「このままでは週に一度の公課題を受けて行くしかありませんが、それだと成績はギリギリです。もちろん、コツコツ続けることで評価は変わってくるでしょうが、それだと不確定要素が多すぎて確実性がありません」
「ちょっと待って! それだと特別課題なんて受ける方がよっぽど確実性なんてないでしょ!」
そうだ、そうだ! 先輩言ってやれ!
「ミナセ先輩!」
「お、おう!? なに、どうしたの?」
「考えてみて下さい。もし、もしですよ? 我々が特別課題をクリアした場合、その時は既に、全員の進級が確定するんです! ミナセ先輩、課題を受けなくても、講義に出なくても良いんですよ?」
「な、なに!?」
「あ、こら、バカ!」
「毎日毎日、惰眠貪り放題、ダラダラし放題ですよ? どうですか、良いと思いませんか?」
「そ、そうか、そんな手段が……!」
「惑わされんな! 講義は出席少なすぎれば成績引かれるし、課題も同じ! そもそも、そんなダラけた生活、リーが許すわけない!」
オーガスト先輩が何か言ってるのが遠くで聞こえたが、オレの心までは届かない。だって、オレの憧れのスクールライフが目の前にあるんだ……!
「受けよう! 特別課題!」
「あぁ、もう……」
「やったぁ!」
バンザイして喜ぶリーさんと、両手で頭を抱えるオーガスト先輩が対照的だった。
散々先輩に怒られた後、まんまとリーさんにはめられたことを知ったオレは、もう誰も信じられなくなっていた。
「とはいえ、多数決で決まったことですからね。きちんと従ってもらいますよ!」
「うぇーい」
「はぁ」
やる気ゼロの返事を返す先輩二人。だが、リーさんはそんなこと気にもしない。
「それでは早速話し合いと行きましょう」
リーさんかなり熱が入ってるな。オレなんかもうどうでも良すぎて、眠くなってきた。
『ちょっと』
と、ここでシンシアが再び本から出てきた。眉間にしわをよせて、非常に不機嫌な様子だ。
「おう、どうしたんだ」
「あら、シンシアさんこんにちは」
『磯臭い』
「え?」
『嫌な匂いがするわ』
「どういうことですか?」
突然のシンシアの発言に困惑するリーさん。しかし、オレは気が付いてしまった。これは「あの人」が迫っているということだ。
「マジかよ。嫌だなぁ」
オーガスト先輩も勘付いたようで、ウンウンと頷いている。そうか、先輩と「あの人」は今同学年だ。
「何がですか? ちょっと、皆さんだけで納得してないで、私にも……」
教えて下さい、そう続けようとしたリーさんの言葉は、突然背後で起こった轟音にかき消された。後ろの扉が破壊されたのだ。299の個室内に扉を破壊した大量の水が流れこんでくる! その中には大小の魚や貝、海藻なんかが混じっており、強制的に一瞬で室内を水族館に様変わりさせた。
「ちょっ! なんですか、これは!」
「また迷惑な登場の仕方を……」
「あ、あぁ!」
意外とオーガスト先輩が一番悲しそうな声をあげている。まるでこの世の終わりのような悲しみ方で、かなりガックリして見える。え、どうしたの、何があったの。
『ちょっと、私まで濡れちゃったじゃない! タコ女!』
激怒するシンシアが扉の奥にむかって怒鳴る。そこには世界樹の木漏れ日を背景に、小柄な人影が腕組みをして立っていた。
『ふっふっふ。ようこそ我が城、竜宮城へ。て、誰がタコ女じゃ!』
長い黒髪に極東の島国独特の民族衣装。そして何より目立つのは頭についた二本のツノと竜のような長いしっぽ。皇立図書士官学校創設以来のトラブルメイカーと呼ばれる、「海底都市王・乙姫」。通称「じゃろ先輩」の初登場だった。




