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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
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きっと素敵になります


「やっぱり納得出来ません!  あんな中途半端な形で終了だなんて」


「そう怒らないでよ。課題なんてそんなものよ」


  あの後、結局オレと先輩に言いくるめられたリーさんは、残った書架整理を行うことなく帰路に着いていた。正式な課題達成証書は後日、ドラグスピアさんが帰ってきてからもらいに行く。

  現在は二人で話しながら帰っている。リーさんの家の方向もどうやらこちららしい。


「あんまり余計なことしちゃうと、依頼者側から苦情がくることもあるしね。そうなると課題達成とは認められないんだよ」


「な、なんだか見てきたようにいいますね。

経験があるんですか?」


「そりゃもう」


  昨年のじゃろ先輩との課題達成は大変だった。あの人の奇行にセレンと二人で悩まされ続けていのだ。


「まぁ、いいですよ。それにしても、今回は先輩大活躍でしたね。手紙のキーワードもそうですし、本の並び順の暗号もそうです」


「いやぁ、それ程でもあるかな」


 誰かに褒められることなどあまりないので、盛大に褒められておく。頭をかきながら歩いていると、突然隣のリーさんの足が止まった。まだ昼間だったが、それ故に世界樹のせいで辺りは少々薄暗い。少し後方のリーさんの表情は窺えない。


「私、先輩のこと感違いしていたかもしれません。ダラしないところはありますが、仕事はきちんとしてくれる人ですね」


「お、おう」


 顔をあげたリーさんの雰囲気はどこか暗い。何かあるのだろうか。自然と身構えてしまう自分がイヤだった。


「私、リエラテロ事件の生き残りなんです」


  ふいの告白に、顔の筋肉が激しく強張るのが自分でもわかった。それは、その事件は……。


「そして、私を助けて下さったのが、あなたのご両親です」


「そう、なのか」


 バカみたいに頷くことしか出来ない。


「はい。あの時の力強い腕と、優しい声が今でも忘れられません。だから、私は図書士に心から憧れて、この学校に入ったんです」


 ただ憧れたから入れるような学校ではない。それこそ、相当な努力をしたのだろう。


「そうか……。どうだった?  オレの親父と母さんは」


 もしかしたらあまり思い出したくないかもしれない。それでも、どうしても聞かずにはいられなかった。


「それはもう、かっこよかったですよ。テロリスト達を次々なぎ倒して……。あぁ、ヒーローっていうのはこういう方達のことを言うんだなと、子供ながらに思いました。私を外に逃がしてくれた後、またすぐに、他の人の救助に向かって行かれました」


「……親父達も喜んでるよ。助けた子供がこんなに立派に育ってくれてんだからな」


「私なんて……。だから先輩のことはずっと以前から知っていたんです。星六魔書と契約されたと聞いた時は心踊りました。なんて素敵なんだろうって。きっとご子息も素晴らしい方なんだろうって。いつか私も立派な図書士になって、お礼を伝えたいと思って生きてきました。ありがとう。あなたの素晴らしいご両親のおかげで私は生きています。本当にありがとうって。ただ……」


「ただ……?」


  思わず笑ってしまった。そりゃそうだろう。


「いざ学校に入って、先輩の噂を聞いて愕然としました。素行不良、成績不振、留年。いい話は一つもなく、ただ可愛らしい精霊とイチャついてるだけだって」


「最後おかしくない?  なんでかみんな言うけどさ」


「私認められませんでした。ウソかもしれない。だから先輩のことを色々調べさせてもらって、あとをつけたりもしました」


  うん、やっぱりこの娘危ないわ。


「それでもやっぱりダメダメで、もう、本当に失望していたんですけど、今回のことで、それも少し見直しました」


「少しかよ」


「少しです」


  ニヒヒ、とリーさんらしくない子供っぽい笑い方だ。でも、それもいいなと思えた。


「で、結局何が言いたいんだ?  失望してたけど見直しました、マル。で終わりか?」


「いいえっ!」


 リーさんが駆け出して、オレを追い越していく。ゆっくり歩いてあとを追った。道の中央でくるりとこちらを振り返ったリーさんは、少し傾いたことで現れた太陽に照らされて、白く輝いていた。


「私が先輩を更生させてみせます!  先輩良いところはあるんですから、そこを伸ばしつつ悪い部分を改善すれば、きっと素敵になります。悪い噂も消えますよ!」


「そうきたか」


  なかなか手前勝手で迷惑な話だ。だが、不思議と嫌な気分ではない。リーさんがこんなにも嬉しそうだから。


「それでは、先輩、また学校で!  遅刻しちゃダメですよ!」


「はいはい。それじゃな。」


  手を振るオレにお辞儀をして、リーさんは帰っていく。


『う、んん。あれ、サクラ?  終わったの?』


  シンシアがまた起き出してきた。あと少し早ければまずかったかもしれない。


「まあな。買い物いくぞ。そうだ、プリン買ってやるよ」


『え、どうしたの珍しい。なんか良いことあ

った?』


「べつに。たまたまだよ」


 世界樹の花の香りで甘ったるくなった道を歩いて帰る。降り積もる花弁が見られるのも、あと数日だ。

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