これはすごいな……
「恋文の技法」を戻す場所は簡単に見つかった。ミリモは作品数が多いし、人気作ばかりだ。例の棚のすぐ隣が定位置のようだった。
「それじゃあ、戻しますよって、本当に私でいいんですか? これで終わっちゃうかもしれませんよ?」
リーさんが窺うようにこちらを見てくる。
「いいよ。今回あんたが一番貢献度低いし」
うっと、リーさんがうめく。そうなのだ。自信満々だった彼女だが、終わってみれば成果は大して挙げていない。銀の時計を発見したくらいだ。
「まあ、リーさんが取ってきた課題だからね。リーさんに締めてもらうのがいいんじゃないかな」
オレはあまり意地悪なことは言わない。先輩は昼間の仕返しも含んでいるのだろう。
「くっ! 何ですか二人共ニヤニヤして! いいですよ、次こそは私がガッツリ課題達成してみせますから! とりゃ!」
おっといけない。顔が緩んでしまっていたか。まあ、ここは先輩として当然といったところかな。発言の割に気の抜けた掛け声で、リーさんが本を棚に差し戻した。すると、
「あ!」
「へぇ」
「これはすごいな……」
変化したのは隣の例の棚だ。全ての書が一瞬溶けるように消えていき、一度本棚が空になる。そこからまた少しずつ書がポツポツと出現していき、ものの数十秒で棚が全て元どおり埋まった。
「これは、全部綺麗に並べ替えられていますね。いつの間にか棚も九段から八段に戻っています。どういう仕掛けなんでしょう」
リーさんが手で触りながら確認する。おそらく何らかの述式転化なのだろうが、オレなんかでは想像もつかない。
「はぁー、終わった、終わった。やっと帰れる!」
先輩が背をそらして大きく伸びをする。美しい胸のラインが強調されて、思わず目をそらした。
「え? ちょっと待って下さい。まだ終わりじゃありませんよ! 書架整理の仕事は残って……」
棚の前でブツブツ述式を検証していたリーさんが慌てて振り返る。確かに、リーさんの言う通りまだ仕事はも終わっていないように思えるが、
「リーさん、あれ見てみなよ」
少し遠く、仮眠室の方を指差す。
「え? あれって……、あぁ!」
仮眠室の扉の前には、巨大な張り紙がはられており、大きな文字で「お疲れ様。課題達成おめでとう」と書かれていた。




