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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
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あんた後で集合ね


  銀の振り子時計は、この部屋で唯一、一時間ごとの時刻を知らせてくれる時計だ。他の時計は全てドラグスピアさんの目覚まし時計である。


「よっ、あれ、意外と頑丈だな、この、ふんっ!」


「ちょっと、何やってんの」


  現在、オレは振り子時計を調べる作業をしていた。なかなか高いところにあるので、脚立に登っての仕事だ。ただ、思ったより小窓が固く閉じられており、ビクともしない。


「はぁ、しょうがないですね。ちょっと先輩どいて下さい」


「いや、リーさん、これめちゃくちゃ固いよ!」


  女子の力で何とかなるとも思えない。なんか工具とか持ってきて……。


  パコン!


「え」


「ミナセ……」


  オレの驚きの声と先輩の呆れた声が重なる。片手で小窓を開いたリーさんは、そのまま中に手を突っ込んで、ゴソゴソと調べている。


「あ、ありましたね。流石にこれはダミーではないでしょう」


  一冊の単行本を掴んで、リーさんが脚立から飛び降りる。一瞬スカートの裾がひらりと舞って、オレの心をドギマギさせる。


「え、リーさんてやっぱりすごい力持ち……?」


  怪力と言わなかったオレの気遣いを褒めて欲しい。


「失礼な!  違いますよ。先輩が非力すぎるんです」


「ちょっとミナセ、あんたもう少し身体鍛えた方がいいよ」


  まじかよ。どうしよう、ちょっと情けない気がしてきた。


「ともあれ、見つかりましたね。『恋文の技法』」


  女性陣が少し嬉しそうなので、オレも嬉しい気持ちになる。

  色々あったが、課題もラストスパートだ。





「さて、あとはこれをどうしましょうか。あの女生徒さんがくるのを待ちますか?」


  例の検索を頼んできた娘か。だとしたら今日、明日中に来館してくれるかは微妙なところだ。なんて言ったって休館だし。


「私考えたんだけど」


「昨日の夜遅くですか?」


  先輩の発言に茶々を入れて行くリーさん。この後輩は先輩のことが大好きなのかもしれない。


「いや、さっき」


  動じない先輩も流石だ。


「ふつうに棚に返せばいいんじゃないの。そしたら自然にあの女子も借りられるわけだし」


 極めて現実的な案だ。ただ待っているだけでは話も進まない。


「そうですね、書架整理も残っていますしね。とりあえず皆さんで棚の方へ……」


『ねえ』


  ベッドに腰掛けているシンシアが小さな声を掛けてきた。三人で精霊を見下ろす形となる。


「どうかしましたか、シンシアさん」


『いえ、あの、ね。その……』


「なんだはっきり言えよ。先輩が怒っちゃうだろ」


「ミナセ、あんた後で集合ね」


  しまった、墓穴だ!


『……お昼ご飯は食べないの?』


「あ」


  三人共すっかり忘れていた。みんなで顔を見合わせる。正直、このまま作業を進めたいところだろう。ただ、こんなしおらしく言われてしまうと、どうもいけない。


「わかりました。私もお腹は空いてます。行きましょうか」


「まって、もうどうせだから私もいく」


 結局は団体行動になった。図書館近くの売店てま軽く買い物をして、その場で食べてきた。ちょっとした飲食スペースがあるのだ。


「しかし、シンシアさん本当によく食べますね。ミナセ先輩より食べてたんじゃないですか?」


「な、本当に勘弁して欲しいよ」


 当の本人はお腹一杯になったら寝てしまった。牛か。


「んじゃ、帰るよ」


 食後のコーヒーを飲んでいた先輩が立ち上がる。彼女は小さなサンドイッチしか食べていない。長身に似合わぬ少食だ。


「はい。今日で終わらせてしまいましょう」


  机の上を片付け終えたリーさんも続く。面倒だが、オレも立ち上がらなければならないようだった。

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