私もやっぱり苦手
「まさかミナセが解いたとはね。意外」
何故オレの評価がここまで低いのだろう。一度しっかり考えてみる必要がありそうだ。
「蓋を開けてみると、案外単純なもので、気づかなかった自分が恥ずかしいです」
たしかに、キーワードさえきちんと発見出来ていれば、さほど難しい問題ではなかった。それでも、実際に作業で体感しながら見つけ出したオレとは違い、データとの睨めっこだけで正解に辿り着いたオーガスト先輩は、凄いと言わざるを得ない。
そのことを素直にリーさんが褒めると、とたんに先輩の様子がおかしくなった。
「ま、まあ、あんたらとは達成してきた課題の数が違うから」
いつもそっけない先輩だが、それとは異なる、話をそらすような言い方にピンときたのは、オレだけではない。
「ははーん。もしかして、オーガスト先輩、目の下のクマはそれが原因ですか?」
「はぁ!? 違うから。これは……その、遅くまで本読んでたから!」
言いよどみつつ赤くなっていくオーガスト先輩。別に隠すこともないのにと思うが、先輩にとっては隠したいことなのだろう。
「そうですか、そうですか! あんまり遅くまで読書してはいけませんよ!」
笑顔いっぱいで頷くリーさんと、それを苦々しげに見る先輩。仲が良いようで何よりだ。教育図書館までの道のりは、いつもと違いにぎやかなものとなった。
休館日なので、来館者はオレ達だけかと思っていたが、実際はそんなことはなかった。フリースペースでは子供達向けの絵本の読み聞かせ会が行われていたり、会議室では、何やら怪しげな研究の発表会が催されたりしていた。バイト君たちもせっせと仕事をしており、昨日の係員くんも元気に働いている。
「なんだか、予想してたいたよりずっと賑わっていますね」
「もっと閑散としてると思ってたけど」
「そっすね」
「大扉のカギも普通に開いていましたし、このカギはどこの物なんでしょうか」
三人とも作業に夢中で、根本的なことを忘れていた。可愛いらしい亀のキーホルダーが付いたカギは、なかなか精巧な造りをしている。それ故、オレ達はこのカギが大扉を開けるためのものと勝手に感違いしていた。
「ちょっと聞いてみましょうか」
リーさんはそう言ってまた、昨日の係員くんに声をかけた。全く深い意味はないのだろうが、係員くんは、なんだか緊張している様子だ。
「わかりましたよ。どうも仮眠室のカギのようです」
「仮眠室ってカギなんかあったんだ」
「どうやら、中に誰も居なくなると自動でカギが閉まる仕組みのようです」
なるほど。まあ確かに、あの部屋はもうドラグスピアさんの私室みたいなものだから、勝手に誰かに入られちゃ嫌だよな。絶対に何か間違っている気もするが。
休日でも図書館は元気に機能していることがわかったが、図書の棚からの持ち出しや、貸し出し業務は停止していた。当然のことだが、そのおかげで本棚たちもまったりと休日を過ごしているようだ。ただ、それでも、ほとんどの棚はいつものように静かに整列しており、つくづくここの棚たちは上等だと思われる。
さて、昨日とは打って変わって楽々と仮眠室の前にやってこれた。
カギを使って扉を開けば、お馴染みの時計の大合唱がオレ達を出迎える。
「うっ。昨日だいぶ慣れたと思いましたが、改めて今日来てみると、気味の悪さを感じますね……」
「私もやっぱり苦手」
二人はまだこの部屋には慣れないようだ。
「みんなそうなんで、普通ですよ。オレとシンシアはその日のうちに大丈夫になったけど」
「先輩とシンシアさんはやっぱり特殊ですね」
やっぱりって何だよ。シンシアは確かに少し変だが、オレはいたってノーマルだ。
「はいはい。そんなのどうでもいいから、始めるよ。今日の昼までには終わらせるから」
両手を叩いて作業を開始してしまうオーガスト先輩。オレ達も慌てて時計探しに乗り出した。




