出会い
今日一日、色々なことがあったせいだろうか。オレは少しのことでは驚かなくなっていた。そう、例え開いた本のページの間で、手のひらサイズの女の子が眠っていたとしても、だ。
「…………………………」
驚かないことと迅速な対応が出来ることはイコールではない。あまりのことにどうしたらいいかわからなくなって、思わず黙り込んでしまった。数分じっくり考えて、それでようやく頭が動きだす。これからの行動をあえて口にだして確認する。
「えっと、やっぱり予想通り『召喚型』の魔書だったんだ。この子が著者の空想した水精霊だから、この子と契約しないといけないな」
『ん……』
少し独り言が大きすぎたのか、はたまた別の理由か、少女が不機嫌な顔で寝返りをうつ。そしてその終点で、
『ふぁ、ん、ん?』
目を覚ました。二人の視線が出会う。
よく見ると、精霊の女の子はオレよりも年上だった。体が小さいというだけで、見た目は十代の半ばから後半程度。白と青を基準とした膝丈のサマードレスを着ている。人の空想上の存在だからか、神々しいまでに外見は整っている。だが、肩まで伸びた髪が一筋、少女の口元に引っかかっている点で、何処と無く人間味を感じさせた。
何か伝えなければ、話しかけようとした瞬間、少女が大声で叫んだ。
『キャァアァアァーー!』
「ちょ!? えぇ、うぉ!?」
そのあまりの声量に、オレまでもが驚いてしまう。この小さな体のどこにそれほどまでのエネルギーがあったのか。疑いたくなってしまうくらいの大音量だ。思わず、耳をふさいでしまう。何とか鎮まって貰おう、宥めようと努力するが、精霊の少女は取りつく島もない。
「お、落ちついて! 君にひどい事するつもりはないんだ。本当だ。ていうか、うるさい! 本当に、やめて落ちついて! 耳がわれる!」
『いやぁー! へんたい、変態! 無礼者、無礼者!』
どんな言葉をかけても、少女は一向に落ち着く気配を見せない。それどころか、どんどん混乱していくようで、何だかよくわからない物をオレにむかって投げつけてくる。小さく柔らかい綿のような物で、当たっても痛くはないのだが、か弱い少女の明確な敵意のようで心が痛んだ。そして、向けられる敵意は投擲だけではない。グチャリと周囲の景色が歪むと、一面の美しいクリスタルが、赤茶色のドロドロとしたものに変化していく。まるで汚泥のような見た目で、ゆっくりと室内を侵食していく。世界は元の汚い廃屋に戻されてしまっていた。
「なんだよ、これ! やめてくれよ! じゃないと……」
オレの言葉は精霊の少女には届いていないようだった。その両腕でしっかりと自身を抱きしめ、涙目でこちらを睨んでくる。ここまで怒らせてしまうと、少し申し訳ない気がしてくる。どうにかして許してもらわないとならない。何か手はあるはずだった。