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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
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出会い


  今日一日、色々なことがあったせいだろうか。オレは少しのことでは驚かなくなっていた。そう、例え開いた本のページの間で、手のひらサイズの女の子が眠っていたとしても、だ。


「…………………………」


 驚かないことと迅速な対応が出来ることはイコールではない。あまりのことにどうしたらいいかわからなくなって、思わず黙り込んでしまった。数分じっくり考えて、それでようやく頭が動きだす。これからの行動をあえて口にだして確認する。


「えっと、やっぱり予想通り『召喚型』の魔書だったんだ。この子が著者の空想した水精霊だから、この子と契約しないといけないな」


『ん……』


  少し独り言が大きすぎたのか、はたまた別の理由か、少女が不機嫌な顔で寝返りをうつ。そしてその終点で、


『ふぁ、ん、ん?』


  目を覚ました。二人の視線が出会う。

  よく見ると、精霊の女の子はオレよりも年上だった。体が小さいというだけで、見た目は十代の半ばから後半程度。白と青を基準とした膝丈のサマードレスを着ている。人の空想上の存在だからか、神々しいまでに外見は整っている。だが、肩まで伸びた髪が一筋、少女の口元に引っかかっている点で、何処と無く人間味を感じさせた。

  何か伝えなければ、話しかけようとした瞬間、少女が大声で叫んだ。


『キャァアァアァーー!』


「ちょ!?  えぇ、うぉ!?」


 そのあまりの声量に、オレまでもが驚いてしまう。この小さな体のどこにそれほどまでのエネルギーがあったのか。疑いたくなってしまうくらいの大音量だ。思わず、耳をふさいでしまう。何とか鎮まって貰おう、宥めようと努力するが、精霊の少女は取りつく島もない。


「お、落ちついて!  君にひどい事するつもりはないんだ。本当だ。ていうか、うるさい!  本当に、やめて落ちついて!  耳がわれる!」


『いやぁー! へんたい、変態!  無礼者、無礼者!』


 どんな言葉をかけても、少女は一向に落ち着く気配を見せない。それどころか、どんどん混乱していくようで、何だかよくわからない物をオレにむかって投げつけてくる。小さく柔らかい綿のような物で、当たっても痛くはないのだが、か弱い少女の明確な敵意のようで心が痛んだ。そして、向けられる敵意は投擲だけではない。グチャリと周囲の景色が歪むと、一面の美しいクリスタルが、赤茶色のドロドロとしたものに変化していく。まるで汚泥のような見た目で、ゆっくりと室内を侵食していく。世界は元の汚い廃屋に戻されてしまっていた。


「なんだよ、これ!  やめてくれよ!  じゃないと……」


 オレの言葉は精霊の少女には届いていないようだった。その両腕でしっかりと自身を抱きしめ、涙目でこちらを睨んでくる。ここまで怒らせてしまうと、少し申し訳ない気がしてくる。どうにかして許してもらわないとならない。何か手はあるはずだった。


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