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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
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怖がりすぎだよ


  仮眠室の外は真っ暗で、辺りがよくわからない。誰のせいかと問われれば、オレのせいだったかもしれない。


「これじゃあ、危なくて歩けませんね」


 そう言うとリーさんは、例の九冊の書から一冊を取り出し、術式転化で光を生成した。瞬きする間に灯りをともしてしまった。


「さて、本を返してしまいましょう」


「あぁ、そうだ、な?」


  ピタリと、突然リーさんの足が止まった。どうしたのかと思って振り返ると、これまでとは一転、真っ青になった彼女が、廊下の真ん中で立ち尽くしていた。


「どうしたの?  リーさん。早くしないと術式転化切れちゃうよ」


 余談だが、オレの術式転化は数十秒しか持たない。


「い、いえ、なんだか、声が聞こえませんか?」


「声?」


「はい、女の子のすすり泣くような……」


  ふむ。どうやらリーさんはそういうオカルトチックなことは苦手らしい。声が震えている。そう言えば、少し前の話でも幽霊がどうとか言ってたっけか。


「なに言ってんの。ちょっと暗いからって怖がりすぎだよ」


「いや、良く耳を澄まして下さい!  ッ!  ほら、また!」


 もはや悲鳴に近い声のせいで、耳を澄まそうにも聞こえないのだが。ただ、確かに家鳴りとは違う、人の声のような音がしないでもない。


『ひっく……、ぐすっ……』


 いや、聞こえた!  確かに女の子の泣き声がする。


「ほ、本当だ」


「ちょっ!  否定して下さいよ!」


  聞けと言ったり、否定しろと言ったりめちゃくちゃだ。聞こえてしまったものはどうしようもないじゃないか。


『うぅ……、ぐすっぐすっ……。暗いよぉ……、怖いよぉ……」


  もはや感違いや幻聴ではない。確実に何かがそこにいる。オレは幽霊というものを信じている。と言うか、魔書やら精霊やらが存在してしまっているこの世界で、幽霊はいないとする方が不自然だ。なので幽霊を怖いとは思わない。いるところにはいるだろう。ただ……


「せ、せ、せ、先輩!  ど、どうしますか、どうしますか!  と、とにかく今すぐ除霊師の方を読んで、術式転化で爆破しないと!」


  隣でこうも錯乱されると、オレまで怖い気になってきてしまう。


「リーさん落ち着け。図書館爆破とか洒落になんないから。テロだから。あと、ちょっと離れて、痛いから!  って何これすごい力!」


  腰にガッチリと両手を回されロックされてしまっている。

  こんな可愛い娘に抱きつかれているなんて、とんでもないラッキーに思えるだろうが、実際は違う。あまりに強すぎる力でホールドされているので、息ができない。短く切り揃えているであろうはずのリーさんの爪が、腹の肉に食い込む食い込む。苦しいし、痛いしで泡を吹きそうだ……!


「ちょっと!  本っ当に、リーさん、離れて……!」


『ぐすっ……、許さないんだからぁ!」』


「きゃー!!」


「ぐぅえっ!」


  リーさんが叫ぶ。オレの体がくの字に折れ曲がる程、強く抱きつかれる。あまりの苦しさに意識が飛びそうだ……!

  ああ、つまらない人生だった。そして何より、なんてふざけた死因なんだろう。これまでの人生が走馬灯となって流れた。

  様々なことが思い出される。そのほとんどがモミジとクソジジイのことばかりだ。あとはやっぱりシンシアとのことで……ん?  シンシア?  そう言えばあいつは今どこで…


「あ、忘れてた」


 これは不味い。非常に不味い。おそらくこの泣き声は……。


『バカサクラー!』


  顔いっぱいに涙を浮かべたシンシアが飛びついてきたのと、リーさんが気を失ったのは同時だった。


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