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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
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答えがわかりますね!


「本っ当にわかったんですか?  嘘じゃありませんよね。それか、また昼間みたいなことでしたら許しませんよ!」


「大丈夫だって、信用してよ」


  オレにしては珍しく、今回のことに関してはかなり自信がある。まず問題ないはずだ。


「いいかい、リーさん。最初のミソは四十二っていう数だ。本の一行ごとの文字数と、棚の一段に並ぶ本の冊数が一致してるんだよ」


「言われなくても知ってます。私とオーガスト先輩はずっとその不審点からアプローチしてました」


  ……まじか。教えてよ、そういうことは。多分相当な時間ムダにしちゃったよ。リーさんの顔に不信感がみるみる募っていく。


「あの、私まだ部屋の掃除がありますから……」


「まって! まだ序の口だから!  見限らないで!」


  はぁ、とかなり気の無い返事を返されてしまった。ええい、ここから巻き返しだ。


「つぎは本の位置だ。こいつら、場所を動かせない本たちはその場所にいることに大きな意味があるんだ」


「まあ、そうでしょうね」


「もう単刀直入に言うよ。九冊のうちの一冊目、「記憶の架け橋」が意味するものは『ぎ』だ」


「……『ぎ』、ですか? それは忠義とか正義とかの….…、」


「いや、違う。もっと単純な、ただの文字の『ぎ』だ。」


「あの、いったい、どういう……」


「これを見て!」


  取り出して見せたのは「記憶の架け橋」だ。ペラペラとページをめくり、目当ての箇所を探す。


「ここ。今日一日、オレ達がずっと調べてた、この手紙の記述がある ページを見て」


「はあ、ここにいったい何があるんです?」


「よく見て。『ぎ』の文字はどの行の何文字目にある?」


「えぇと、一行、目の十三番目ですね」


「そう、分かった?  そういうことだったんだよ!」


「……あの、何をおっしゃっているのか、よくわからないのですが」


「……!?」


 この娘、めちゃくちゃ鈍いな!  ここまで来て見当もつかないといった顔付きだ。オレの話を聞いていないとかではなく、本気で考えて、それでもわかっていない。


「あの、あのね、リーさん。棚にある動かせない本がある場所の並び順の数字と、本の文字数が一致する箇所を、探してるんだよ。それが『ぎ』だ」


「ん……えぇと、ん、ん、ん!?  そ、そういうことですか!  なるほどじゃあ、次の文字は!」


「二冊目は『月曜診療所』、棚の二段目の十九番目にある」


「ということは、手紙の記述のあるページの二行目の十九番目……!  えっと文字は、『ん』です!  『ん』!」


「正解だ。あとは九冊分全ての文字を特定してつなげれば……」


「答えがわかりますね!  私、こっちの本から見てみます!」


  やっと伝わったか、でもこれであとは一気に文字を見つけていくだけだ。この場にいない先輩には悪いが、オレ達だけで終わらせてもらおう。これしきの作業にそれほど時間がかかるわけもない。ものの数分でオレ達は全ての文字を見つけた。


「……『ぎんのとけいのなか』、ですか。これで問題なさそうですね。」


「な?  オレの言った通りだっただろ?」


「悔しいですが、素直に賞賛するしかありませんね。 腹立たしいです」


「全然賞賛してないじゃん」


  さて、あとは「銀の時計」とやらを探すだけだ。ひとまず、この部屋のどこかにあると思っていいだろう。ただ、これだけの大量の時計の中から一つを探し当てるのは、少々面倒かもしれない。だが、やるしかないだろう。


「さて先輩」


  よしきた。


「今日はもう帰りましょうか」


  時計の山に頭から突っ込んでしまった。


「ちょっと!  そんな芸人さんみたいなリアクションしなくても」


「するわ。え、なに。帰るってどういうこと

?  探さないの?  あと少しなんだけど」


「だからこそですよ」


 リーさんの意図がわからず、オレはただ首をかしげるばかりだ。


「せっかく難しい課題を達成できたんです。最後はチーム全員で終わらせましょう」


  今度はリーさんの意図がわかった。確かに、その方が良いのかもしれない。だが……。


「今回、一番成果を挙げて下さったのはミナセ先輩です。ですが、一番真剣に取り組んで下さったのはきっと、オーガスト先輩なんです。そんな方を差し置いて勝手に課題を終わらせてしまうのは、違うと思うんです」


 確かに、リーさんの言う通りだ。先輩は驚くほど真面目に仕事をしてくれていた。リーさんの言動に腹を立てていた時もあったが、それでも文句一つ言わずに作業をしてくれている。

  可能な限り早い課題達成を、本来なら目指すべきだ。しかし、今ここで二人だけで課題を終わらせてしまうのは、不義理に過ぎるか。


「わかった。リーさんの言う通りだ。明日、先輩が揃ってから銀の時計を探そう」


「はい。ありがとうございます!」


  そう言って花が咲いたように笑うリーさん。その笑顔が眩しくて、オレはそっと目をそらした。普段大人っぽい彼女が見せた年相応の姿に不覚にもドキリとしてしまう。


「さ、さて。仕事もすんだことだし、帰るとするか!」


「そうですね。私も帰宅します。この部屋掃除しても掃除してもキリがなくて……」


「まあ、兄さんそういうところは無頓着だからなぁ」


「無頓着すぎます!」


  リーさんが簡単に本をまとめるのを待って、二人で仮眠室を出る。いつものギスギスした会話と違って、心なしか穏やかに談笑できる気がした。


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