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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
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脅したりしちゃダメよ?


 大変ムダな時間だった。リーさんにも軽々と投げ飛ばされたという現実もついでに襲ってきて、オレのメンタルは限界だ。やはり外で一人遊びするのはよくないな。


「それで、何かわかりましたか?」


  軽めの夕食をとりながら、もう何度目かの作戦会議だ。これを最後に今日は解散することになったいる。


「ダメ。色々試してはいるんだけど、どれもピンとこない」


  どうにもこうにも行き詰まっていた。本を調べようが棚を調べようが、これといって打開策が浮かばない。さらに、この部屋は考え事をするのに向いていない。秒針の音がうるさ過ぎるのだ。今も奥のベッドの間で挟まっている兄さんは、よくもこんな部屋で熟睡できるものだ。


「序盤にトントン拍子に進みましたから、今日中に解決できるかと思ったんですが、甘かったですね」


「今日のことは置いておいて、明日からの仕事を決めてった方が早いかもしれない」


「明日ですか?  終わっていない棚の書架整理以外になにかありますか?」


「うん、やっぱり、オレに検索頼んできた娘にアプローチするのが得策だと思う」


  最悪脅せば何か喋るかもしれない。


『サクラ、脅したりしちゃダメよ?』


「おう、わかってるよ」


「平然と返事するあたり怪しいですね。言っておきますが、そんな卑怯な事は私が許しませんからね」


「お、おう。わかってるよ」


 ヤバい、リーさん怖い。


「はいはい。とりあえず今日はお開きにするよ」


  両手を叩きながら、先輩が解散を促す。皆それなりに疲れている。妥当な判断だろう。


「鍵は私が持っておくから。明日の、そうね

。九時には開けるようにするから、よろしく」


「はい」


「うす」


「あとミナセ」


「なんすか」


「この本片しといて」


  まじか。そういうのって普通一年の仕事なんじゃないすかね。と思うが、思うだけだ。口には出さない。


「すみません先輩、私はこの部屋を少し掃除してから帰りますので」


「あ、そう?  じゃあ、鍵も任せていい?」


 先輩自由すぎる。だが最高学年なんてそんなものなのかもしれない。先輩はさっさと帰ってしまった。


「シンシア、悪いけど本集めてくれねぇ?  オレ寝てるから」


『ふざけなさんな』


 そう言いつつも、手伝ってくれたりするシンシアは優しい。


『ああ、重い。どうして本ってこんなに重いのかしから』


  元々単行本一冊分くらいの大きさしかない彼女には、少々酷すぎるお願いだった。


「ごめん、やっぱいいよ。オレがやるから」


『当然よ』


 ペタンと腰を落とした彼女は息が上がっている。そのままゴロンと寝転んでしまった。ちなみにシートの上だ。流石に床に直接寝転んだりしない。


『ねー、サクラー、今日のご飯なにー』


 さっき食べただろ。


「んー、そーだなー」


「そう言えば、精霊って食事が必要なんですか?」


「いや、全然。なのにコイツは食うんだよ」


 本をペラペラとめくっているシンシアを二人で見やる。鼻歌を歌いながらご機嫌な様子だ。オレも散らばった本を回収していく。何度見ても規格や分類もバラバラだ。


『ねぇサクラ!』


「今度はなんだよ。また飯か?  それなら適

当に作ってやるから……」


『そうじゃなくて、これってどの本も全部一行四十二文字なのね』


「あぁ、そうだな。ん、あれ?  そうなの?」


  やれやれと言った雰囲気でリーさんが話しかけてくる。


「やっぱり先輩、きちんと報告書よんでなかったんですね」


「いやぁ、アハハハ……」


  笑ってごまかす。


「でも、これだけ種類があって全て文字数一緒ってのは、妙だな」


「今頃その話をしますか……」


  聞こえてないふりしてごまかす。


  共通する文字数、手紙のキーワード、動かせない本。何だか喉元まで出かかってる気はする。何か、何かあと一つピースがそろえば……


「どうしましたか?  また一人遊びですか?」


「それはもう忘れてくれ」


  もう!  リーさんが話しかけるからわかんなくなっちゃったじゃん。喉元まで来ていた何かは、腹のそこまで落ちていってしまった。


「いや、何でもないよ。それより、掃除は終わった?」


「すみません、まだかかりそうなので、お先に帰って下さって構いませんよ」


  あら、そう。でも、こんな遅い時間に後輩の女の子一人を残して帰るというのは如何なものか。


「じゃあ、オレ帰るから。おさきー」


 やはり面倒なので、帰ることにする。何より疲労がたまってる。明日からのことを考えると、今日は少しでも早く帰って眠った方がいい。


「ほら、シンシアいくぞ」


  九冊の本を抱えて仮眠室をあとにする。流石に九冊もあるとなかなか重い。はやく棚に返してしまおう。

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