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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
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少しだけ心配しましたよ


  声が聞こえる。なにか、言い争っているような声がする。誰の声だろう。凛とした澄んだ声だ。聞き覚えがある。あぁ、そうか。シンシアだ。シンシアの声だ。何をそんなに怒っているのだろう。あんまり問題を起こさないでくれよ。尻を拭うのはいつもオレなんだから。


『なんでこんなひどいことするの!?  見なさい!  白目向いちゃってるじゃない、可哀想に!』


「ですから!  いきなり襲ってきたのは先輩ですよ!  私は自己防衛したまでです」


『だからそれが過剰だったって言ってるの!』


「ん、うん……?  なんだ、あれ、オレ、どうして……」


「あ、気がついた」


「え、先輩!」


『サクラー!』


「どぉえふっ!」


 シンシアが飛びついてきたその衝撃で頭をぶつける。


『大丈夫!?  どこも痛いとこない?  あなた気を失ってたのよ!』


「う、うん。わかった、わかったから、ちょっと離れて……」


 思いっきり抱きつかれているこの状況はかなり恥ずかしい。


「先輩大丈夫ですか?  少しだけ心配しましたよ」


「少しかよ」


「当然です!」


「でさぁ」


 そんなものどこにあったのだろう。救急箱を膝の上にのせて正座しているオーガスト先輩は、少し困り顔だ。


「何がどうしてこうなったわけ?」


「あの、それはですね」


  オレも少しずつ思いだしてきた。これは、かなり危ない状況だ。いや、もう詰みなんだけど。

 あんまり話すことはないんですが、そう言ってこちらを見てくるリーさんの視線が痛い。





  私が皆さんのお食事を買いに外に出たことはご存知ですよね。それが今ここにあるんですが、あとで召し上がって下さいね。

  館内に入ってきた時からおかしいとは思っていたんです。だってランプの明かりが消えて真っ暗になってたので。もしかしたお二人共仮眠室にいらっしゃるのかと思ったんです。そしたら、何やらガサガサ音が聞こえきて、い、いえ?  別に幽霊がどうこうとかは思ってませんよ。ただちょっと不思議だなぁくらいのものです。本当ですよ。人の気配したんですが、それがフッと消えたので多少は怖かったですが……って何ですかその目は!

  それでも仮眠室に行かないわけにはいかないので、普通に歩いていたんですよ。そしたら、いきなり本棚のかげから何か飛び出してきたんです。


「で、それをとっさに投げ飛ばしたら、ミナセだったと」


「……はい」


『サクラだと認識して投げたの?』


「いえ、それは。ただ、長めの乾パンを握っているのは見えました」


「ふーん」


  ヤバい。すごい恥ずかしい。今すぐここから消え去りたい。あーって叫びたい心を必死て抑えつける。


「でさ、さっきから小さくなってるミナセは、一体何をしてたの?  もう怒んないから言ってごらん、ね?」


  なんだろう、先輩が優しい。つらい。


「……ーションを……」


「はい?」


「今なんて?」


『サクラ、もっと大きな声で言いなさい。』


「シュミレーションをしてました!!  趣味なんです!  大災害とか、刺客に襲われた時とかの妄想して、色々行動するのが!  皆んなもあるでしょう!?  色々な状況を想定するってことですよ、要は!」


『途中から開き直ったわね……』


  先輩とリーさんにどうだとばかりに向き直る。ただ、女性陣はオレの想像とは掛け離れた白け具合だった。


「えぇと、つまり……?  ごっこ遊びのようなものでしょうか」


「はぁー、何で男子っていくつになってもこういう事するんだろうね」


『ちょっと!  サクラが特殊なだけよ。他の男の子も一緒にするのは良くないわ』


「オレのフォローはどうした」


「まあ、一人遊びするのはいいわ。百歩譲って。でもそれを周囲の現実にまで波及させるのってどうなの?」


「はい……、すんません」


  先輩お説教モードだ。ただ、明らかにオレが悪いので、甘んじて受け止める。リーさんは怒っているというより、呆れている。


「だいたいさ、あんた乾パン振り回してたんでしょう?  食べ物を遊び事に使っちゃダメ。知ってるよね」


「….…はい。知ってます。反省します」


 それから三十分間お説教を賜り、心身共に疲れたが、仕方ない。オレが悪い。でも怒らないって言ったじゃんと、少し恨めしく思う。

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