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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
32/140

今何て言った?


 九冊の本を確認していく。 

 タールマン作「闇と光」、トイツ作「動く人」、ニーベスト作「記憶の架け橋」……。比較的古い書が多いな。しかし、これは……!


「やっぱりそうか!」


『なに?  なにかわかったの?』


「え、マジ!?」


「本当ですか、先輩!」


「はい、わかりましたよ……」


 なんだ、簡単なことじゃないか。


「これらの書は……」


「書は?」


「全部名作です!  良い趣味してやがるぜ、ちくしょう!  ってイダッ!!」


 感動に震えていると、三人に思い切りしばかれた。


「痛いじゃんか! 何すんだよ!」


「そんなことはわかっています!  何をもったいぶって言ってるんですか!」


「はぁ、ちょっとでも期待した私がバカだった」


『どうせそんなことだろうと思ってたけどね』


  三者三様にオレを責め立ててくるが、これはオレだって譲れない。


「だってどれも本当に名作ですよ! 『記憶の架け橋』はSF小説の金字塔ですし、『動く人』はトイツの最高傑作と名高い作品です!!  過去と未来を行き来することで少しずつ生まれていくズレを繊細に描いた前者の作品と、荒廃した世界の中で……」


『もういい!  わかったから!』


「とは言え、そんなにすぐに何か分かれば苦労しませんよね」


「私、紅茶頂いてくるか、今度こそよろしく」


  本当に、どうしてみんなオレの話を聞いてくれないんだ。これだから女どもは。セレンなんか文句も言わずにずっと聞いてくれるのに……。


「本当にどれも名作なのに。作中に手紙が必ず登場するって点でも共通してるし」


「え?」


「え?」


「ちょっとあんた、今何て言った?」


  いきなり先輩が怖い顔で迫ってきた。リーさんも後ろからすごい見てくる……。


「え?  いや、だから、どれも名作揃いだって……」


「その後!」


「う、うす!」


  何も怒鳴らなくてもいいのに!  あれ、オレ何て言ったっけ?  あ、そうだ。


「手紙ですよ!  どの作品にも必ず一度、手紙って単語が出てくるんです」


  シンと、辺りが静まりかえった。え、オレなんか変なこと言ったか?


「せ、先輩!」


  リーさんが突然叫ぶ。


「な、なに?」


「あなたじゃありません!  オーガスト先輩!」


「わかってる!  えーと、えーと」


  オーガスト先輩は急ピッチで報告書をめくっていく。何かを必死で探しているよつだが、それがオレにはわからない。


「やっぱり……ない!  そんなこと書いてない!」


「て、ことは」


「新しい突破口になるかもしれない!」


  いきなり二人が盛り上がり出すのを、不思議な気分で眺める。


『サクラ、やったじゃない!』


  シンシアまで褒めてくれたりして、何だか妙な気持ちだ。この感じが何なのか、上手く表現できなくてただただボーッとしてしまう。そんなオレに見られていると感違いしたのか、オーガスト先輩が大きな咳払いをして、リーさんを落ち着ける。


「ん!  んん!」


「はっ!」


「いや、まあその?  やるじゃんあんたも」


「そ、そうですね。少し見直しました」


  二人ともすごく気まずそうだ。


『でも考えてみたら、ただ共通点が見つかっただけでしょ?  そんなに喜ぶようなことなの?』


「おまっ、どうしてそう言う水差すようなこと言うんだよ!」


  だって、とぐずるシンシアのほっぺたを軽くつねる。


「そんなことはありませんよ、シンシアさん」


  リーさんが人差し指を立てて教えてくれる。


「既にかなりの数の方策が試されていますが、全て問題解決には至りませんでした。八方ふさがりの状態です。そんな中、新しく検討する価値のある不審点が見つかったんです。この状況を打開し得る希望としては十分です!」


「わかったか?  オレはよくわからんけど」


『あんたはわかりなさいよ』


「ちょっとミナセ!」


「う、うす!  何すか」


「こっちきて手紙の記述があるページ教えて

。あんたどうせ覚えてるんでしょ」


  確かにそうなのだが、何か引っかかる言い方だな。


「えっと、『記憶の架け橋』は六章のこの辺で、『闇と光』は二章ですね。それと……」


「も、もしかして、本の内容全部覚えてるんですか?」


 リーさんが驚いたように言う。


「うん。てか、何度も読んでれば自然と覚えない?  どれも名作だし、印象的なシーンとか表現とか多いし」


「覚えませんよ」


  ちょっと食い気味に否定された。そんなものかなぁ、普通だと思うけど。


「そこの九冊も当然のように読んでらっしゃるみたいですし、一体どれだけ読んでるんですか?」


  何だか少し感心されているみたいだ。これは、異様に低いオレのチーム内評価を上げるチャンス……!


『サクラは昔から趣味もないし、友達もいないから、本読むくらいしか出来なかっただけよ』


「てめぇ、シンシア!  どうしてお前はいつもいつもオレのイメージを悪くするんだよ!」



『だって本当のことでしょ!』


「このっ!」


「あーもう!  わかりましたから、ケンカしないで下さい」


  本当に、アホ精霊とはいずれ出るとこ出て争う必要がありそうだな。ブツブツ言いながらも作業を進めていく。全ての書手紙の記述がある場所を表にして書き出す。ページ、章数、行数、文字数、それぞれをきちんと並べた表が完成した。

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