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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
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本当に気づいてないの?


「いや、お困りのようですし、お手伝いしますよ。ミリモの『恋文の技法』ですね」


「は、はい!  お願いします!  どうしてもみつからなくて」


「受付で貸し出し、返却の有無は確認しましたか」


「はい。三週間前に返却されてから、ずっと貸し出しはないようです」


「……もしかして、ずっと探してるんですか?」


「ま、毎日ではありませんけど」


  まじか。けど、おかしいな。それだけ探して見つからないっていうのは。もしかしたら、この公課題に五つも”返し”がついていることと何か関係があるのかもしれない。


「わかりました。何かあればまた声をかけるんで、その辺に座ってて下さい」


「い、いえ!  私も何かお手伝いを……」


  遠慮する理由もないか。


「んー、じゃあ、本の装丁や小口を確認していって下さい」


「はい。わかりました」


 ふむ。普通の良い娘みたいだ。最近接してる女性陣と違って癒される。というか、ミリモの「恋文の技法」か。オレの持っているのを貸してあげた方が早い気もする。


『ちょっと』


「うお、なんだ起きてたのか。全く、出たり入ったり忙しいやつだな」


  突然出てきたシンシアは、まだ少し眠そうだ。


『今、いやらしいこと考えてたでしょ』


「べ、べつに!?  考えてねーし!  本を貸すついでにお話しちゃおうかなとか、一切思ってないからな!」


『ふーん、どうだかね』

 

 シンシアのジト目は精神的にくる。話をそらそう。


「で、何しに出てきたんだよ」


『ああ、そうそう。感じたのよ、エネルギー』


「やっぱりか」


 実はオレも薄々感づいてはいた。おそらく、先輩もリーさんも同様だろう。ただ、誰一人口に出さなかったのは、「それ」がなんなのか、どこから感じるのかわからなかったからだ。ただ、シンシアは腐っても精霊だ。この手のことには人間なんかよりずっと敏感である。


「で、どこから感じるんだ?」


『本当に気づいてないの?』


「ああ」


『あなたからよ』


『正確には、チーム299のメンバー全員からね』






「まずいことになりましたね」


 音頭をとっているのはリーさんだ。オレ達は今、全ての作業を中断して仮眠室に集まっていた。


「もう一度確認しますが、本当に私達の中に文書エネルギーを感じたのですか? 正直、私は全く自覚していないのですが」


『本当よ』


  オレの体内に、普段と異なる文書エネルギーを感じたことで目を覚ましたというシンシアは、そのことを丁寧に説明してくれていた。ただ、精霊というものにイマイチ馴染みのない二人には、少し理解しづらい話だったようだ。


「となると、我々の体に何らかの異変が起きてるはずですが、何かありますか?」


 そこである。先程からオレ達を悩ませているものは。

  本来、文書エネルギーというものは、人体から発生するものではない。それ故に、体内からエネルギー反応があるということは、他の外部からエネルギーが流入したことが考えられる。

  しかし、オレ達三人はその出所がわからない。それだけでなく、リーさんが問うたように、オレ達の体内のエネルギーがどのような作用を引き起こしているかすら、わかっていないのだ。


「どうですか先輩?  何かわかりましたか?」


  これはオレに向けてではない。オーガスト先輩への質問だ。

  先程から先輩は、オレがもらってきた過去の課題挑戦者達の報告書を読みふけっている。この報告書は課題の達成、未達成に関わらず提出しなければならない。もちろんオレも後で書く必要がある。

 それを何とか有耶無耶にできないか、オレは今必死で考えているのだが、先輩はそういうわけではないらしい。


「わかった」


「本当ですか!?」


  かけていた銀縁眼鏡を外しながら、フゥと息を吐く先輩。思わず見惚れてしまう美しさなのだが、いかんせん目つきが悪すぎる。


「ていうか、五つも『返し』がついてる時点でさっさと報告書見ておくべきだったね」


 珍しく先輩が自省的である。失礼すぎる。


「それで、何がわかったんですか?」


「どのチームも共通して作業が進まなかった理由が二つ。一つは、意識を別のところに集中させられる点。私でいうと、異常に喉が渇いたり、あんたでいうと、妙に他の利用者が気になったり。ミナセはしらないけど」


「そ、そんな単純なことですか?」


  リーさんは驚くというより、呆れた表情だ。しかし納得はできた。今日のオレが妙に本が気になってしまうのは、文書エネルギーのせいだったのか。だが、


「でも、それだけじゃ原因として弱くないですか?」


 そうなのだ。気を逸らされるだけなら、作業はゆっくりとだが、着実にすすむ。おそらく要因はもう一つの方だ。


「ん、やっかいなのはもう一つの方。これは見た方が早いかな。ついてきて」


  先輩の機嫌はすっかり治っているようだった。課題にも積極的だし、かなり予想外と言っていい。

  二度目のベッドは別れ難かったが、この流れでついていかないということは出来ず、しぶしぶ彼女達の後に続いた。

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