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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
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キミたちの仕事場だ


「おや、お客さんかな。初めまして、ボクの名前は……」


「いいから時計を止めろ!」


 おぉ失敬、失敬。彼女が抱えていた本を開き、もう一度閉じると時計たちの大合唱がピタリと止まった。


「あれ、なんだミナセくんじゃないか」


「姉さん、お久しぶりです」


 キーンという耳鳴りがまだ聞こえるのを感じながら、久方ぶりに会う知り合いに頭を下げる。 レイ・ドラグスピア。腕利きの図書士として活動中のこの人は、いつも何かズレた雰囲気だ。

  教育図書館司書の制服ではなく、赤と黒の禍々しい毒虫のようなツナギをだらしなく着ている。ただ、そのことに不快感を感じないのが不思議だ。金髪金眼の中性的な容姿だからだろうか。それでも長い二つくくりの三つ編みをしているため、どちらかというと女性に見られがちである。


「うんうん、久しぶりだネ!  おぉ、これはまた随分な綺麗所を連れてるじゃないか。乙姫ちゃんはもう飽きちゃったのかい?」


「ミナセ先輩とはそういう関係ではありません」


「ないね」


「その通りなんだけど、なんかヘコむな」


『ちょっとどういうことよ!』


「めんどくさいから絡んでくんな、シンシア。じゃろ先輩とも何もねぇよ。姉さんがからかってんだ」


「ふふ、全く、キミはすぐボクのことを姉さんと呼ぶからネ。前に言っただろう?  ボクのことは兄さんと呼べって!」


「え、うそ」


「ん?」


 ドラグスピアさんとは初対面のオーガスト先輩とリーさんに衝撃が走る。


「その前は姉さんって呼べって言ってたじゃないすか」


「えーと、シンシアさん、どういうことですか?」


『つまりね、この人は性別が曖昧なの』


  リーさんと先輩はかなり混乱しているようだ。


「日にちや時間帯によって性別がかわるんだ。ボクが契約している魔書『眠れる海の美女』の影響だヨ」


「は、はぁ」


「それより」


  後ろにいたオーガスト先輩が一歩前に出てきた。


「私たち課題を受けにきたんだけど」


「あ!  そ、そうでした!  書架整理の公課題を受けに参りました、チーム299です」


「へえ、それは嬉しいな。困ってたんだヨ。自分でやるのは面倒だけど、なかなか受けに来てくれる生徒がいなくてさ。早速だけど、ついてきて!」


  正直ベッドが恋しかったが、仕方なく三人についていくしかないようだった。


『で?  何であいつの話がでてくるのっ!』


「まだ言ってたのか」


  何故だか怒るシンシアを黙らせながら、ドラグスピアさんについていく。


「館内はお静かにって係員くんにも言われただろ?  ちょっとだまってろよ」


『うー』


「そ、そう言えば、音は大丈夫だったんですか。さっきの轟音、他の利用者の方に迷惑だったのでは……」


「ああ、あれ?」


 ケラケラと笑いながらドラグスピアさんが答える。


「もちろん防音に決まってるじゃないか! 部屋の外にはどんなに大きな音だって漏れ出しやしないヨ。 そうそう、どうしてキミたちは中で待ってたんだい?」


「ちょっとミナセ先輩!」


  オーガスト先輩から無言で蹴りをくらう。しょーがないじゃん!  オレもそんなこと知らなかったんだから!


「ふふふ、さてさて、おふざけはこれくらいにして、と。 着いたヨ。ここが、キミたちの仕事場だ」

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