表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
22/140

色んなところが好きなのね


 「水精霊空想観察記録」は、図鑑や文芸書の類いではなく、歴とした小説だ。分類としては冒険小説になるだろう。

 気弱だが、心優しい青年が美しい湖で、これまた美しい水精霊と出会い、物語が展開されていく。というのが、現在世間に出回っているごくごく一般的な「水精霊空想観察記録」だ。

  しかし、今オレが手にしているこの書は、内容が違う。全く違うと言っていい。

簡潔に説明すると、作者ディアヌ・フレイヤは「水精霊空想観察記録」を二冊書いた。一冊は彼女の作品を愛する、たくさんのファンのために、小説家ディアヌ・フレイヤとして。そしてもう一冊は彼女を心から愛する一人の青年のために、ただ一個人の女性、ディアヌ・フレイヤとして。

  前者は見事大当たりし、後の空想生物小説の先駆けとして、その礎を築いた。こちらの原本は皇立堅牢図書館に大切に保管されている。しかし後者は、これまで発見されていなかった。微かに残る、細々とした痕跡から、存在こそ認められていたものの、誰も原本を見つけることができなかった。

 そして、それをオレが見つけた。その同時は、それはそれは大騒ぎになった。その事については、ここでの説明は省くが、今でも騒ぎは続いているとだけ言っておこう。

  さて、オレの手元の「水精霊空想観察記録」だが、これは恋愛小説になっている。それも悲恋の。

  青年が美しい女性の心を射止めるため、ひょんなことから出会った水精霊の力を借りて、あれやこれやと奮闘する物語だ。恋人のために贈った作品が悲恋の物語とは、作者の意図をはかりかねるが、事実だから仕方ない。

  オレがこの作品を初めて読んだ時思ったことは、拙いの一言につきる。ディアヌ・フレイヤの美しい表現で構成される心象描写や、読者を魅了する物語の精巧な展開はなりをひそめていた。

  しかしだ。それでもと言った方が良いのか、オレはこの作品を心の底から好きだと思う。確かに拙い。だが、熱いのだ。たまらなく、作者の想いが伝わってくる。そんなところに、胸が苦しくなる程好きがあふれてきてしまう。きっとこれは、作者の想い人への恋心でもあるのだろう。


『色んなところが好きなのね』


  青年と想い人が初めて出会うシーン

  青年と精霊が喧嘩するところ、

  青年が想い人をみつめるシーン

  青年と精霊が仲直りするところ、

  青年が想いを告げるシーン

 そして、青年と精霊がその命を絶つところ。

 ニコニコ嬉しそうなシンシアは、オレの耳につかまって、肩から落ちないようにしている。少しくすぐったいのは、白いドレスの裾が耳をかすめるせいだけではない。

 ページをめくる音だけが聞こえる小さな部屋で、オレはゆっくり、ゆっくりと文字を目で追い続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
a href="http://narou.dip.jp/rank/index_rank_in.php">小説家になろう 勝手にランキング
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ