それはこちらのセリフです
長机をはさんで、凄まじい女の闘いが繰り広げられていた。火花が散っているなんてものではない。それでいて室内は完全に凍りついている感じがして、気分も悪い。あと、脚が痺れてきた。そう、女子二名は椅子に座っているが、オレはずっと地べたに正座させられていた。遅れてきた罰らしいが、一応十分前にはきていたはずだ。
机の上ではまだまだ女の闘いは続く。
「あんた、一年だよね。どうしてそこまで態度悪いの? こっちは先輩なんだけど?」
「先輩ならもう少し言葉遣いとか身だしなみとか気を付けて下さい。あと、この学校は一切上下関係持ち込み禁止のはずです」
ピシリと制服をきたリーさんと、短めの短パン、白いティーシャツの上によれた青い半袖パーカーのオーガスト先輩は確かに対照的だった。
ていうか、先輩、シャツのボタンあと一つ、二つ留めてくれませんかね……。こう、なんていうか、目のやり場にこまる。下からなのでよく見えないけど!
「校外の身分、職業、出身が持ち込み禁止ってだけで、中の先輩、後輩の関係はあんの。ある程度規律がないと学内での統制がとれないでしょ」
「見た目によらず、随分と真面目なことをおっしゃいますね。ついでに普段からの生活態度も見直して頂きたいものです。目の下にクマができてますよ」
ブチリと、聞こえぬはずの何かが切れる音がした気がする。
「あんた、ほんっとムカつく!」
「それはこちらのセリフです。 オーガ先輩」
ガタン、と先輩の椅子が大きく音を立てるのと、リーさんが机から片手で乗り出したのはほぼ同時だった。両者が手を出す一瞬前、オレは右手の指を小さく鳴らしていた。
「あんたら、ちょっと頭冷やせ」
オレの動きに二人が気づいたが、遅い。
振り向く二人の頭に大量の水が覆い被さった。
『強制召喚はやめてって、いつも言ってるでしょ』
不機嫌な顔のシンシアが、腕を組んでオレの肩に仁王立ちしていた。ありゃ、これはあとで怒られるやつだな。だが、これ以上面倒を起こさないためには仕方がなかった。精霊はしばらくオレを睨んでいたが、ふう、と小さく吐息を吐くと、やれやれと言いながら首をふった。大仰な仕草だが、こいつがやると不思議と絵になる。
『まあ、いいわ。あなた、これからみっちり絞られるでしょうし』
「は? なにが?」
『気づいてないの? はあ、なら前をみてみなさい。少しだけよ』
「ん?」
視線を前にむけて、オレはようやく自分の犯した大失態に気がついた。
もう春も中頃だ。人々の装いも、少しずつ軽くなりはじめ、特に女性は柔らかく、薄い色合いのものを好んで着用しだしている。オーガスト先輩もその例外でなく、また、リーさんは白を基調とした半袖の制服だ。
そんな彼女たちにずぶ濡れになる程の水を頭からぶちまけたらどうなるか。答えは明快、衣服が透けるのだ。
リーさんは白い制服を肌に張り付かせ、うっすらと透けるこれまた白い下着を両手で隠している。頸の産毛をキラキラと光らせた首元は耳まで真っ赤で、やたらエロい。何かを言おうとして唇をわなわな震わせていた。
「っく……!」
一方、オーガスト先輩は、手で身体を隠すように抱きしめながら、しゃがみこんでいた。長いブロンズの髪から雫を滴らせ、両目をギュッと閉じて羞恥に耐えている。オレの視線に気がつくと、ボッと頬を火照らせて後ろを向いてしまった。
「 せ、せんぱい!」
『ちょっと! いつまでジロジロ見てるのよ! 』
「ッッ!!」
女性陣三名に咎められ、オレもやっとのことで我にかえる。
「あっ! すいません!」
『出てけー!!』
リーさんとシンシアに部屋から蹴りだされた。




