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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
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あ、こら!  逃げんな!


 薄桃色に染まる道を陰鬱な気持ちですすむ。ここまで気持ちが滅入るのは久方ぶりのことだった。いつもは鼻に付く世界樹の甘い香りも、今日は全く気にならないほど気分が落ちている。


『こら、いつまでそんな顔してるの? 男なら潔く腹をくくりなさいな!  だいたい、あなた、やる気がないのは常日頃からなんだから、煙たがられるのはいつものことでしょ』


「励ましてるつもりなのかよ、それで。でも事実だから何もいえねぇ」


  今日は実践課題のチーム員顔あわせの日だった。オレのチームは第299チームだ。番号に深い意味などないが、これならば、300の方が良かったと思う。ああ、ダメだ。もうすぐ中央舎についてしまう。

  ここまですれ違ったほぼ全ての生徒に憐れみの視線をむけられた。うちのチームのことが既に学校中に広まっているらしい。好奇や羨望の目をした連中もいたが、オレの表情を見てすぐに思い直してくれていた。

 中央舎の中腹はチームフロアになっており、全チームに一部屋ずつ自由に使える個室が与えられている。299チームの部屋は角部屋で、窓があるようだ。そこだけは少し嬉しい。

  何やら雰囲気がおかしくなってきた。向こうから来る生徒達はみな、一様に駆け足で、表情も引きつっている。まるで怖いものから逃げてきたかのようだ。廊下の角に近づくにつれて、オレにもわかってきた。どす黒いオーラがみえる! この世の良くないもの全てを混ぜ合わせたかのような、邪悪な気配が299チームの個室から漏れ出していた。


『わ、わたし用があるから本に戻るわねっ、開けないでね、絶対!』


「あ、こら!  逃げんな!」


 さっきまで気合いだなんだと調子良いこと言ってたくせに!


「ちょっ、まって、一人にしないで!  オレを見捨てないで!!」


  シンシアは本の中に帰って行ってしまった。もはや魔界につながっているとしか思えない扉の前で、本をこじ開けようと必死になる。しかし、あほ精霊も全身全霊で抵抗しているらしく、ビクともしない。


「本当に、本当に、お前の好きなものなんでも買ってやるかっ……」


 その瞬間音もなく扉がゆっくりと開いた。魔界の空気が外に漏れ出す。そして同時に絶対零度の冷ややかな声が、した。


「なにしてるんだ。 早く入れ」


  失禁しそうになった。

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