戻ってきてくれると良いね
オーガスト達は、既に保護図書館に到達していた。
「もう時間がありません。急がないと!」
副会長も、カランザも、その場の人間の誰一人として、もう闘える者はいなかった。
『うちは出来ることもないし、ここで怪我人の治療しよるわ』
「お願い!」
その時、ピピピッと、小さな音が鳴った。それは、左腕を抑えて一人座っていたレンベ・レンベルトのズボンのポケットから聞こえてきている。
「残念だ。私達の勝ちのようだ」
「ちょっ!!」
「うそっ!?」
全員が、固まる。発動のタイムリミット。間に合わなかった、というのか。しかし、何も起こらない。
「……?」
「これは……」
「多分ミナセ君のせいだネ」
『じゃな』
現れたのはレイ・ドラグスピアと、胸から血を流す乙姫。
「どういう、ことだ?」
『あやつの時計じゃ』
乙姫が自身の手首を示す。
「時計、そうか……!」
「あいつの時計は……! 遅れてるんだ!」
サクラの時計は十分遅れている。そして、今回の「雪街」は契約者であるミナセに全て依存している。仮発動から正式な発動まで約二時間。そのタイムリミットが少し後ろにズレたのだ。
「……先輩のいい加減な所がここにきて役に立ちましたね」
「何か、微妙な気分」
全員が何とも言えない表情だ。小春だけが一人おかしそうにクツクツ笑っている。
『アホな人』
「なら、行きましょう! 私達にも何か出来ることがあるはずです!」
リー、オーガスト、ドラグスピア、乙姫は、小さく頷いて駆け出した。
「本当に、サクラってそういう奴だよね」
セレンが力なく笑う。
「どういう奴だよ」
「肩透かしな奴ってこと」
「雪街」はまだ発動しない。オレの時計が十分遅れているせいだ。セレンはその場にぺたりと座りこむ。
「良いよ。行きなよ」
「……良いのか?」
「うん、何かもうどうでも良くなってきちゃった。僕らが何年もかけて周到に準備してきた計画が、こんなことで台無しになるなんて。ふざけてるよ。やる気なくしちゃった。それに、」
残業はしない主義なんだ。座りこんだセレンは笑う。
「そうか。悪いな」
ゆっくりと階段に向かう。一段、足をかけた時、
「シンシアさん、戻ってきてくれると良いね」
「そうだな」
セレンも、シンシアとは仲が良かったのだ。




